光の勇者は神を宿す

第93話 神聖王国

 私たちは帝国の問題を解決して、たっぷりと賠償金をいただいた翌日、神聖王国に向かうために車と運転手を用意してもらった。

 空路で行くという手もあり、最初はそちらを使う予定だったが、空路はスカイポートを経由する必要があるため、神聖王国の神殿へ向かうのであれば陸路の方が早いということで、車を用意してもらった。


 世界樹が守りに入ったことで、多くの機械が使用不能になってしまったが、車のように魔石を使って駆動するものは全く影響がなかった。

 また、既存の機械も重要度の高いものから魔石駆動のものに切り替えるそうである。


 もっとも、帝国の魔石は世界樹頼みだったこともあり、そこまで多くはなかったが、私たちが常備していた魔石を帝国が買い取り、それを車に使うという形をとった。


「行くのか?」

「もう、ここに残る意味もありませんからね」

「仕方ないな、この依頼があったら戻ってくるがよい。正式に盛大な歓迎会を用意しておくぞ」

「いえ、ご遠慮いたします」

「むむ、欲のない奴め」

「いえ、そういった催しでまともに料理を楽しめるとは思いませんし……。何より、また先日のように婚約を進められたり、宿泊していたら誰かさんに襲われたりっていうことも無いとは言えませんからね」

「うぐっ……、まあ良い。機会があれば、また会おう」


 二度と会う気のない私は、陛下の言葉をスルーして車に乗り込んだ。

 私たちが乗り込み終わると同時に、車はエンジン音を鳴らして、ゆっくりと加速する。

 そして、あっという間に帝都が小さくなって、ついには見えなくなってしまった。


 車に乗ること8時間、私たちは神聖王国の中央神殿の前にたどり着いた。

 この国は神に仕える者たちが統べる国であるため、この中央神殿が他の国で言う王宮に相当するものである。

 その周りに各属性の神殿が配置されていて、誰でも祈りを捧げることができるようになっていた。


 神殿と教会は、例えるなら中央銀行と一般銀行みたいなもので、神殿と呼ばれるものは、この国にしかない。

 神殿は各地の教会に宗教者を派遣し、一般信徒は教会で祈りを捧げるのである。


 私たちは車から降りて中央神殿に入り受付に向かう。

 受付のお姉さん――いなかった、おじさんが用件を聞いてきたので、帝国に依頼された件についてと伝えると、すぐに奥の部屋へ通された。


 奥の部屋は全面に金箔が貼られているだけでなく、テーブルや椅子、花瓶から刺さっている花、そしてお茶とお茶菓子を入れる容器まで金色だった。

 さすがにお茶とお茶菓子は普通のものであったが、どこを見ても金色のため、私の目はまぶしさによって、既に虫の息であった。


 お茶をいただきながら待つことしばし、金色のダボダボの衣装を着た偉そうなおっさんが部屋に入ってきた。

 彼の頭も金色――ではなかったが、金色以上に光を放っていた。

 虫の息だった私の目は、危うく止めを刺されそうになったが、慌ててサングラス的なものを魔法で作ったことで事なきを得た。


 当然ながら、マリア、ミラベル、ユリアの3人にもサングラスを渡して付けてもらった。

 おかげで、私たちの目は彼らの攻撃をしのぐことができたのだった。


「それで……、依頼とはどのようなものでしょうか」


 私が尋ねると、部屋に入ってきてから訝しげな表情だったおっさんがゆっくりと話し始めた。


「それより……、その顔につけているものは何でしょうか?」


 どうやら、おっさんは私たちのつけているサングラスが気に入らないようであった。

 見たところ、おっさんもそれなりの地位の人のようで、そんな人と会うのに4人ともサングラスつけてたら、さすがに何か言われるか――と納得した。

 しかし、納得しただけで、私たちは外す気はさらさらなかった。

 私たちの目をまばゆい光(主におっさんの頭)から守るためには必要なのである。


「まあ、良いではないですか。それよりもおっさんは誰ですか?」

「おっさん?! だと……! わしのことも知らんのか?!」

「知りませんけど、何か?」

「ぐぬぬ、わしは六神神殿統括大司教のナイヘア・ピカールであるぞ!」

「うーん、やっぱり知りませんね。まあ、依頼について教えていただけますか? 無いヘアさん?」


 私が依頼について聞いたところ、何故か彼は怒りだしてしまった。


「無いヘアじゃない! ナイヘアだ! まあいい。それで依頼なんだが、お前たちにホワイトシャイン光聖王国に潜入調査をしてもらいたいのだ」

「潜入調査とは、穏やかではありませんね。というか、光神神殿に査察でもしてもらえばいいんじゃないですか?」


 こういうことは神殿の仕事じゃないのかと思って聞き返したら、また怒りだしてしまった。

 神殿の偉い人なのに怒りすぎであった。


「それができれば苦労はせんわ! そもそも、あの国は光の神を信仰していると言っているが、ここの光神神殿とは別の組織だから、査察などはできんのだよ!」

「なるほど、それで私たちは何を調べればいいのでしょうか?」

「あの国においている諜報員からの情報で、光神シャイニーの復活を目論んでいる疑いがあるのだ」


 私には、彼の言っている意味がわからなかった。


「神に仕える者としては、神様が復活して欲しいんじゃないんですか?」

「馬鹿を言ってはいかん! 神様が復活したりしたら、わしが一番偉くなくなってしまうではないか! 苦節40年、やっと、この地位まで上り詰めたのに、ぽっと出の神なぞに奪われてたまるか!」


 聖職者とは思えない主張をするナイヘアだったが、血圧が上がりすぎたらしく、肩で息をしながら、ソファにもたれかかった。


「ぜえぜえ、とにかくだ。神の復活を目論むなど、あいつらしかやる奴はおらん。そして、神の復活は阻止せねばならん。特に光の神はな!」

「そんなにヤバい奴なんですか?」

「知らんのか? 光の神の讃美歌を『24時間戦えますか?!』だぞ! 過労死したいのか、お前は!」


 私はこの時、なぜホワイトナイト王国の聖女が酷使されていたか初めて分かったのだった。


「あー、お断りですね。これは絶対阻止せねばならない案件でした」

「わかればよい。くれぐれも気づかれないように頼むぞ!」


 私は決意を新たに、中央神殿を後にしたのだった。

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