閑話9 生贄の勇者

 俺はユーティア・クリスタ。ホワイトナイト王国の第一王子だった者だ。

 前世は栗田優斗というしがない中間管理職だった。

 前世のころは中途半端な立場ではあったが、部下だった愚かな女のおかげで俺はさしたる苦労もなく成果を上げていた。

 そう思っていたが、私はその女が私に逆恨みをして危害を加えようとしているという情報を手に入れた。


「全く……、俺が使ってやっているから生きていけてるというのに、恩知らずめ!」


 そして依頼の完了と共に、その女を始末した。

 しかし、それからの自分の人生は坂道を転がり落ちるようなものであった。


 最初に、依頼達成したのが、その女だと判明していて、その後に殺されたことで、組織に嫌疑を持たれてしまった。

 これは俺の完璧な説得により、組織は死因を事故によるものと定めた。

 だが、問題はそのあとである。

 その女の後任として部下を付けられたのだが、そいつが対して仕事もできないくせに、休みや報酬を要求するような奴だったからである。

 あの女なら、適当におだててやれば、待っているだけで仕事が終わったのだが、そうもいかなくなったので、俺自身が動かざるを得なくなってしまったのである。


 そして、俺は使えない部下を事故に見せかけて始末し、新しい部下を要求していたが、ついに俺の期待に応えるような部下が現れることはなかった。

 しかも、あまりにも頻繁に部下が殉職することから、部下となることを拒否されるようになり、降格。

 その後はうだつの上がらない人生を送ることになってしまった。


 栗田優斗としての生を終えた俺が、次に転生したのはホワイトナイト王国の第一王子であるユーティア・クリスタであった。

 第一王子と言えば、王位継承権第一位なのが普通である。

 要は、俺は生きてさえいれば国王になることを約束された勝ち組として生まれ変わったのだ……と思っていた時期が俺にもあった。


「魔王討伐?! どういうことだ?」

「殿下が王位を継承するためには、魔王の討伐を成し遂げ、勇者の末裔であることを証明しなければなりません」


 俺はエスカレータ式に国王になれるものだと思っていたが、実際には違うらしい。

 なんでも魔王と戦い、勝利しなければいけないとのことであった。


「そんなもの、王国の兵士を送れば良いではないか」

「それはなりませぬ。この戦いは国王が勇者の資質を継いでいることを証明するための戦い。聖女と共に魔王と戦うことに意味があるのであって、兵士によって倒しても意味がありませぬ」


 なんとも面倒な話である。


「兵士たちに戦わせて、勝った時に俺が勝利したと言えばいいだけの話ではないのか?」

「それはなりませぬ。今、王国は大変厳しい状況でして、国民は貧困にあえいでおります。それでもなお、王家が存続し続けられているのは、王家が建国の勇者の由緒正しき末裔であると示されているからに他なりません。万一、それが疑われるようなこととなれば、王国は瞬く間に崩壊するでしょう」

「ふん、面倒なことだ」


 俺はせっかく第一王子として転生できたのに、王になれるかわからないという理不尽極まりない状況に置かれていた。

 唯一の頼みの綱である聖女見習いとなったリーシャ嬢も魔王と戦うことを考えると完全に力不足であった。

 しかも、噂では彼女は最低条件である光属性ですらないらしかった。

 彼女では魔王討伐もおぼつかないと思った俺は、婚約が決まった時から魔王討伐の役に立つ聖女候補の捜索を部下に命令していた。


 そこで見つけたのがアイリスである。

 彼女は平民であったが、光属性であり、魔力も十分なほどあった。

 彼女であれば、魔王討伐の役に立ってくれるだろうと思い、リーシャ嬢との婚約破棄とアイリス嬢の学園入学を画策することにした。


 俺は、この時の決定を間違っていたとは思っていない。

 しかし、その後、リーシャ嬢が目覚ましい成果を上げるようになったのである。

 単身で盗賊団を壊滅させ、さらには毒沼の王も討伐。

 それだけではなく、スタンピードすらもほぼ単身で鎮圧してしまったのである。


 俺は、リーシャ嬢からアイリス嬢に鞍替えする予定を取りやめ、リーシャ嬢を聖女見習いとしたまま、魔王討伐させるというプランを実行することにした。

 しかし、この頃から、俺にすり寄ってきていた彼女が突如として俺との婚約破棄を画策するようになったのである。


 だが、彼女は俺に王位を届ける役目がある。

 そう簡単に逃がしはしない、そう考えていたのだが、学園に入り1年目が終わるあたりから、俺の心はアイリスにくぎ付けになっていた。

 冷静に考えれば、魔王討伐が終わるまではリーシャ嬢と婚約しておく方が良いというのはわかっているのだが、どうしようもなくアイリス嬢に惹かれてしまうのであった。


 そして、1年最後のイベントであるクリスマスパーティーの夜会の時、俺はあろうことかリーシャ嬢に自ら婚約破棄を宣言してしまうのであった。

 父親である国王が止めると思っていたが、突如として婚約破棄を認めてしまったのである。


 そのあとは、前世であの女を殺した後と同じように、下り坂を転げ落ちるように状況は悪化していった。

 国王である父は、自分も婚約破棄を認めたにも関わらず、その責任を全て俺に押し付け、俺とアイリスをはした金だけを渡して魔王討伐へと行かせたのである。

 もっとも、父はあとは自分で何とかしろと言っていたので、俺は王宮の宝物庫から資金源を調達して、冒険者を雇うことにした。


 しかし、忠誠心の高くない冒険者である。ちょっと夜通し進軍しただけで、戦いの手を抜く無能ばかりであった。

 俺たちは魔王討伐前の前哨戦として四天王と戦ったが、俺たちが行った作戦で被害を受けた街が俺たちを迫害したりしたため、野営を余儀なくされていた。


 苦難に満ちた俺たちの旅路であったが、ついに俺たちは魔王と相対することになった。

 しかし、魔王は強く、俺たちの力では全く歯が立たなかった。

 俺たちについてきていた冒険者たちも数日夜通しで進軍しただけで、使いものにならなくなるほどの腑抜けばかりで、魔王にたどり着く前に、その数は10人以下になっていたのもある。


 俺はいったん撤退する必要性を感じ、聖女であるアイリスが足止めを買って出てくれたので、任せることにして撤退した。

 辛くも王宮まで戻った俺は、魔王の強大さと、俺を逃がすために己の身を犠牲にしたアイリスの献身について熱弁していた。

 しかし、その場に死んだはずのアイリスが現れ、俺が彼女を囮にしたとして陥れてきたのだった。


 俺の主張は全く受け入れられず、俺は国外追放を言い渡され、王宮から追い出された。

 そんな俺を教会から来た人間に「あなたは王などという小さな器ではなく、神となるべきお方です」と言ってきた。

 俺は、彼の言葉が正しいと確信していた。

 俺は王などで収まる器ではなかったのだ。

 俺は神となるのだ。


 こうして、俺は神となり、アイリスによって簒奪された王国をこの手に取り戻すべく、儀式を行っていた。

 その儀式が終わると、俺の意識は白く塗りつぶされていった。


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