第92話 終息
私たちが目を覚ますと、50mほど離れたところに世界樹が立っていた。
その世界樹は先ほどまでの機械に覆われたものではなく、正しく樹としての姿を保っていた。
その威容は見る者を魅了し、圧倒するのに十分であった。
私は、少し近づこうと、世界樹に向かって歩き出すが、すぐに見えない壁によって阻まれてしまった。
「これは結界?」
どうやら、世界樹が力を取り戻した際に、世界樹を苦しめていた機械を吹き飛ばし、再び機械を付けられることがないように結界を自らに張ってしまったようだ。
「これにて一件落着、ってね」
私は3人を起こすと、宿へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで、これは一体どういうことだ?」
私たちは、翌日陛下の目の前まで連れていかれた。
「えーと、私たちが世界樹に魔力を供給したおかげで世界樹が復活したんですよ」
「それはわかっておる。だが、結界が邪魔で機械がつけられぬではないか!」
「機械を付けたから世界樹が枯れたんですよ。だから、余力ができたところで、世界樹が自分で外したんです」
私が説明をすると、陛下はくだらないものを見るような目で私たちを見た。
「ふん、世界樹が枯れたのは、貴様らが装置を乱用したからだろうが!」
「いえ、違いますね。私たちのことはきっかけに過ぎません。陛下も私たちが来る前に世界樹が枯れ始めているのはご存じだったのではないのですか?」
「……!」
私がカマをかけたところ、陛下だけでなく、殿下たちや周りにいる家臣の一部が明らかに動揺していた。
「それに、世界樹の方も完全に拒絶しているわけではないのでしょう?」
確かに結界は張られて近寄るのが難しくはなった。しかし、世界樹は枝を一本結界の外に出してくれたのである。
それは世界樹が自分の魔力を人が使うことを認めていることを意味していた。
「しかし! あの程度の量では全然足りぬ!」
「それは、今まで世界樹に頼り切って、全ての不都合を世界樹に押し付けてきただけでしょう? 世界樹は、その過去を水に流してくれようとしているんです。あとは陛下たちが決めなければいけませんよ。世界樹と共に進むか、それとも世界樹を捨てて自らの力だけで進むか」
「そんな! どちらも無理だ! いまさら……」
「おそらく、共に歩むと決められないようであれば、世界樹はすぐに枯れてしまうでしょう。あれは分木なので、世界樹にとってはあなたたちを捨てても問題はないのですよ。それでもなお、歩み寄ろうとしているのですから、感謝すべきですわ」
「むむむ、致し方ない。だが、このままではジリ貧だ!」
困り果てた陛下に、私はいい気味と思っていた。
腰の恨みは恐ろしいのだ。
しかし、私も解決策が何もなく言っているわけではないのである。
「世界樹をほとんど機械のようにしてしまったのですから、おそらく世界樹のように魔力を保存する装置も作ることはできるのでは?」
「ああ、それは可能だ。しかし、肝心の魔力の供給が……」
「それは心配には及びません。こちらをご覧ください」
私はマリアに目配せすると、懐から1個の石を取り出した。
「それは『賢者の石』か?!」
「さようでございます。これは1個で私の魔力を半分程度回復させることができました。私の魔力は先日の装置を使って世界樹の魔力半年分に相当することが分かっております。すなわち、1年で賢者の石を2個取ることができれば、賄うことができるのです」
「しかし、どうやって賢者の石を取るのだ?! かなり難しいと聞いておるぞ」
陛下の問いに、私は殿下たちを見て答えた。
「陛下には息子さんが二人いらっしゃるじゃないですか。二人で攻略すれば賢者の石は2個手に入りますよ」
「うむむ、確かにそうだが……攻略できなければ意味がないのではないか?」
「確かに攻略できなければ意味はありません。ですが、あのダンジョンは何度でも挑戦できますから、あきらめなければいつかは攻略できるはずです」
「なるほど……。聞いたか、お前たち。今からスカイポートに行き、不思議のダンジョンを二人で協力して攻略するのだ!」
解決の糸口が見えたことから、安堵の表情を浮かべた陛下は殿下たちにダンジョン行きを命じた。
二人の殿下は、この世の終わりのような表情をしながら、謁見の間から退室する。
先ほど二人は私を冤罪で捕えようとしたのである。
せいぜい、そのこともダンジョンで反省して欲しいところだった。
二人は筋は良いと思うので、トルネアが攻略に500回かかったと言っていたが、彼らなら200回もあれば攻略できるだろう。
問題は、毎年攻略しないといけないというところなのだが……、1日1回挑戦したとしても150日以上余裕があるから大丈夫だろう。
「さて、世界樹の危機を救った上に、帝国の問題の解決策まで提示してくれたお主に聖女の称号を授けよう」
「いえ、お断りします」
「なんだと?! もう2つも聖女の称号を持っているではないか。1個増えたところで変わりはあるまい」
「面倒が増えるのは嫌なので」
「むむ、面倒が増えることは無いと思うが……。まあそこまで頑ななら保留にしておいてやる。それと、隣の神聖王国からお主に依頼が来ておってな、話だけでも聞きに来てほしいそうだ」
「お断りします!」
「なんでだ?!」
「だから! それが! 面倒なんです!」
「良いではないか!」
「陛下、私のベッドに入ってきた時も『良いではないか』とか言ってましたよね? 私は良くありませんから! それにまだ腰の件の謝罪をもらってませんよ?」
私が陛下を追及するとばつの悪そうな表情で押し黙ってしまった。
「むぐぅ、わかったわかった。その件については申し訳なかった。そして、後ほど正式に謝罪を行うとしよう。それで、先の依頼なんじゃが――」
「だから、お断りです!」
「いやいや、話は最後まで聞け。その依頼なのだが、どうもお主の故郷。ホワイトナイト王国、改めホワイトシャイン光聖王国に関することらしいのじゃ。しかも、勇者が関わってる可能性があると言っておる」
「え? 勇者ってユーティア殿下?!」
「そうじゃ、彼は王国が滅亡する直前に追放されたのだが、行方が分かっていなかった。だが、王国の教会が彼を使って、よからぬことを企てているらしいのだ」
「なるほど、わかりました。受けましょう」
私は、ユーティア殿下に止めを刺す、いや、困っている神聖王国のために依頼を受けることにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます