第91話 世界樹のふもとで

 私は世界樹のふもとにたどり着いた。

 世界樹と言っても、ほとんど機械になっていて、樹の要素はほとんど残っていないのだが……。


 私は世界樹にもたれかかって瞑目し、意識を集中する。

 すると、私の頭の中にステラの声が聞こえてきた。


「ちょっと、これで会話ができるんだったら、くる必要なかったんじゃない?」

「いや、さっきのは不可抗力だ」

「まあ、いいわ。3人には話をしておいたから、教会で接触すれば加護を授けてくれるでしょう。それで、あなたは3つの属性を融合コンビネーションで混ぜ合わせないといけないわ。魔法自体は簡単だけど、この魔法は使う人の魔力量によって上限が決まるの。まあ、あんたなら、その心配は無用だけどね」


「しかし、なんで炎と水と風なんだ?」

「世界樹は自然のエネルギーから魔力を補充するの。光と闇は概念エネルギーだし、星は時空間エネルギーだから、世界樹は吸収できないわ。そして、その3つの属性は融合させると3倍でなく8倍になるのよ」

「なるほど、分かったわ。それじゃ、また」

「あ、ちょっと、今度からは、これで連絡してよね、いきなり来るのはな――」


 私は通信を切った。

 最後に、なんかステラが言っていたような気もするが、気にしないことにした。


 しばらく待っていると、3人が戻ってきた。


「おまたせしました。ちょっと手間取りましたが、『わからせ』た上で加護をもらってきました」

「私も問題なかったわ。多少接触していたのも大きかったみたいで、すんなり終わったわ」

「お嬢様、私も問題ありません」


 3人とも無事に加護を得られたようなので、私は安心した。


「それじゃあ、さっそく世界樹に魔力を送りましょう。私が魔法を使うので、その魔法に対してできる限り魔法を当ててください。魔力ポーションは、この通りたくさん用意してありますので」


 魔力ポーションを地面に全ておいて、3人の様子をうかがう。

 3人とも準備万端なようだったので、私は魔法を使った。


「――融合コンビネーション!」


 私が魔法を使うと、私の目の前に巨大な白い球体が現れた。


「みなさん、この球体に思いっきり魔法をぶつけてください!」


 私が合図をすると、3人は同時に呪文の詠唱を始めた。


「紅き黄昏の主、宵闇より来たりし獄炎の王、その深き眠りより目覚めし時、獄炎は龍となりて、我が敵を灰となせ――魔王龍獄炎デモンズ・ドラグヘル・インフェルノ

「渦巻きし水、大海より来たりし荒波の王、その深き眠りより目覚めし時、荒波は無数の刃となりて、我が敵を微塵となせ――竜王万刃渦ドラグ・ミリオンブレード・サイクロン

「立ち上る風、天より吹き降りし暴嵐の王、その深き眠りより目覚めし時、暴風は大槌となりて、我が敵を押しつぶせ――鬼王獄嵐槌オーガ・ヘルストーム・ウォーハンマー


 3人が完全詠唱を使って繰り出す最上位魔法により、本来なら、周囲が更地になってもおかしくないのだが、私の作り出した球体にそれらがあっけなく吸い取られる。

 そして、球体に赤、青、緑の色があらわれ、それらが交じり合い、再び白くなる。


「どうですか?」

「うーん、1%くらいかな?」

「「「えっっ?!」」」


 どうやら3人の全力で打った魔法では、球体の魔力を1%しか補充できなかったようだった。

 3人とも息が上がっているので、かなり消耗したようであった。


「まあ、ポーションはたくさんあるし、どんどん行こうか!」

「「「……」」」


 3人はポーションをがぶ飲みしつつ魔法を使っていき、とうとう球体の50%まで、魔力を補充することができていた。


「はあはあ、もう無理ですわ……」

「お嬢様、限界です……」

「私も、もうポーション飲むのもきついです」


 3人ともかなり限界が近いようであった。


「大丈夫、あと半分だ! まだしゃべれる元気があるなら行ける行ける!」


 だが、まだ行けそうだと判断した私は3人を鼓舞する。

 私は運が良いのだろう、この3人はいずれも王国民である。

 私の鼓舞によって、王国魂社畜魂が呼び起され、再びポーションを飲みつつ魔法を使っていく。


 そして、72%ほど補充できたところで、ついにマリアが倒れてしまった。


「お嬢様……、申し訳……」

「マリアァァァァ!」


 私はマリアに駆け寄ると抱き上げる。


「マリア、しっかりして! マリア!」

「……そんなこと言ってますけど、原因はリーシャさんですよ」

「……そんな! 酷い……」

「まあ、私とユリアさんは魔導士寄りなので、かろうじて意識はありますけど、これ以上は無理ですからね!」


 私は首を横に振ると、ため息をついた。


「まあ、いいでしょう。100%ではありませんが、72%もあれば、当面は大丈夫なはずです。これで行きましょう」


 私の言葉に、二人がジト目で見てくる。

 それはまるで、私が鬼畜だと言いたげであった。


 私はそれを見なかったことにして、球体を世界樹に向けて放った。


「おい、貴様ら何をしている?!」


 私が世界樹に放った直後、背後から声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはクライブ殿下とミハエル殿下、そして彼らに従う兵士が私たちを取り囲んでいた。


「おい、貴様、ここで何をやっている! もう世界樹の魔力は3日分しかないのだぞ! まさか……世界樹に止めを刺すつもりか!」


 私を見たクライブ殿下とミハエル殿下の表情は怒りに染まっていた。


「くそ、お前たち、こいつらを捕えろ。抵抗したら殺しても構わん!」

「お待ちください。私たちは世界樹を救うために、ここに来たのです!」

「お前の言うことなど信用できるか! そもそも残り3日になっているのもお前が原因なんだぞ?!」


 どうやら、殿下たちの信頼は底を打っているようであった。

 しかし、その間にも放った球体は世界樹に迫っており、そして世界樹に触れる。


 直後、その場にいた全員に世界樹から放たれた衝撃波で吹き飛ばされた。

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