第90話 女神の解法

 意識を取り戻した私は、不思議な光景の場所にいた。

 そこは満天の星空で明かりが全くないにも関わらず、暗いと感じることがなかった。

 そして、庭園のような場所には椅子とテーブルが1つずつ、ポツンと置かれていた。

 そのテーブルの上には無数の皿と、その上に色とりどりのケーキがのせられていた。


「おいしそうなお菓子ね。小腹も空いたし、少しいただこうかしらね」


 私は皿の上に載っていたフルーツタルトとチョコケーキ、そしてチーズケーキをいただくことにした。

 どのケーキも小さく、一口か二口程度で食べられるようなものだったので、3つのケーキと言っても、あっという間に食べてしまった。


「うんま! これは見た目だけじゃなくて味も香りも素晴らしいわ!」


 あっさりとケーキを食べ終えてしまった私は、次にクリームがたっぷり乗ったシフォンケーキに手を伸ばそうとしていたところで背後から声をかけられた。


「あ、あ、あーーー?! なんで、アンタがここにいるのよ?!」

「あ? あれ? ステラさん? 何でこんなところにいるんですか?」


 私が振り返ると、いつもおなじみ星の女神であるステラが立っていた。


「いつもおなじみじゃないわよ! また、変なことやって死んだとかじゃないわよね?!」

「いえいえ、今回はなんか変な薬をかがされただけですよ。そもそも、前回契約内容を変更したじゃないですか。脅迫まがいなことをして」


 プリプリと怒っていたので、状況を説明してあげたら、なぜかさらにプリプリとし始めた。


「それは……! あんたがいつもいつも変なことをして、聖域わたしのいえに襲撃してくるからでしょ!」

「どっちにしても、今回は大丈夫です! 薬を吸っただけなんで、ケーキ食べ終わる頃には戻ると思いますよ」


 私は彼女を安心させるために、すぐに戻るだろうと伝えた。


「だーかーら! このケーキはあたしのなの! なんで、全部食べる前提なのよ?!」

「そんなの決まっているじゃないですか。そこにケーキがあるから、ですよ」

「いや、これ以上食べるな! っていうか、用がないならすぐ帰れ!」

「いやいや、用はありますよ。ささ、ケーキでも食べながら落ち着いて話をしましょう」

「ケーキはあたしのだって言ってるだろ! 用があるならさっさと言え!」


 ケーキくらいで心の狭い女神である。


「わかりました。もう、私はお客さんなんですから、お菓子の一つでも出したって罰は当たりませんよ?」

「すでに3つ食べてるよね? しかも、4つ目行こうとしていたよね?」

「ああ、わかりました。それじゃあ用件だけ手短に。なんか世界樹枯れそうになっているんだけど、何とかして。以上」


 私が用件を告げると、女神はしばし瞑目した。

 そしておもむろに目を開けると、話を始めた。


「世界樹っていうか、これって分木じゃない。本体じゃないから枯れても問題ないはずよ。なんかいろんな機械付いているみたいだし、これで無理やり魔力吸いだしたりとかしていたら、それは枯れるわ。むしろ、何でこれで平気だと思ったのか。問いたい、問い詰めたい。小一時間問い詰めたい」

「あー、なんか魔法打ち放題の装置とか、魔力を人に補充する装置とかに使っているみたいなんだけど。その装置がすごいんだよね。私が前にここに来た時に使った魔法あるじゃない? 全生命力と全魔力を引き換えにめちゃくちゃ強力な攻撃ができる魔法。あれも打ち放題なんだよ。9回やったら装置が壊れちゃったけどね」


 私が世界樹の魔力の使い道を教えてあげたら、ステラはひどく難しい顔になった。


「まて、お前の全生命力と全魔力の補充を世界樹にやらせたのか?! しかも9回も?!」

「うん、そうそう。装置の中だと使い放題なんだ。外だと魔力全回復していないし、契約も変えられちゃったから使えなくなっちゃったんだけどね。すごいと思わない?」


 私はあの時の興奮を思い出して、テンション高めに話していたのだが、私が話せば話すほどステラのテンションは目に見えて下がっていった。


「ふぅ、その原因は急激に魔力を奪われたことによるものだ。そして、奪われた原因はお前だ!」


 ステラはまるで推理小説の犯人であるかのように私を指さしながら叫んでいた。


「そうなの? それで、治せる?」

「私には無理よ。契約もないしね」

「契約すればいけるの? なら契約しよう!」

「契約はしない、っていうか見返りのない契約などするわけないだろう? 一応、前の契約で助言はすることになっているから方法を教えることはしてやるがな」

「ケチね。まあいいわ、とっとと教えてちょうだい」

「ぐっ、これを打開するには、あなたと、炎、水、風の属性持ちが必要だわ。できれば、あなたみたいに神の加護を受けているのがいいのだけど」

「なるほど、じゃあ、加護受けるから。話通しておいてね。それじゃあ」

「あ、ちょっ! くそっ! これは貸しだからな?!」


 ステラの助言を聞いた私は戻るために庭園の端から落ちた。

 そして、意識が元の世界へと戻される。


「リーシャさん、大丈夫ですか?」

「ユリアさん。いきなり酷いんじゃないですか?」

「しかたないのです、緊急事態ですから。それで結果は?」

「炎、水、風の属性持ちが必要みたいね。ユリアとミラベルとマリアで属性は大丈夫だけど、できれば神様の加護がついていると言いらしい。手配はステラに頼んでおいたから、接触できれば加護をもらえるはず」

「加護ですか? そうなると、それぞれの神殿か教会に行く必要がありますね。一度加護を受ければリーシャさんみたいに場所を選ばないのですが、最初だけはどうしても神に近い場所にいかないといけないのです」

「そうなると、いったん3人は教会にいってもらって、私は世界樹のふもとで隠れて待っているってことでいいかな?

「「「はい」」」


 私の提案に3人は頷くと、それぞれ教会へと向かった。

 私はそれを見送ってから、世界樹のふもとへと向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る