第88話 魔力枯渇症
「そういえば、帝国に来た目的を忘れていたわ」
そう、私が帝国に来たのは、失われた魔力を取り戻すためである。
幸いにも賢者の石のおかげで失われた魔力も半分ほど回復しているが、完全回復までは程遠いものであった。
それを完全回復に持っていくために、わざわざスカイポートで情報通(笑)と言われるオスカーの情報を頼りに帝国まで来たのである。
しかし、私が帝国に降り立つと、すぐにミハエル殿下に絡まれ、クライブ殿下の婚約者にされかけ、陛下に寝込みを襲われ、先ほどまで陛下に仕返ししていたために、後回しにされていたのである。
全部、陛下と殿下のせいである。
本当にこの世界の陛下とか殿下って碌な奴がいないな……。
世界樹が枯れかけていることで、あたふたしている彼らに聞いてみることにした。
「そうそう、ここに来た目的なんだけど、魔力を失ってしまって、それを帝国なら治療することができるって聞いたんだけど……」
「そんなこと、どうでもいいではないか! こっちは国家存亡の危機なんだぞ?!」
「危機って言っても1年分はあるんでしょ? まだまだ余裕じゃない! それよりも、私が勝ったんだから、さっさと教えなさいよ!」
「むむ、仕方ないか。帝国に世界樹の分木が生えているのは知っておろう。その近くに魔力枯渇症の治療院があって、彼らに世界樹の魔力を分け与えておるのじゃ。そこに行けば何とかなるじゃろう」
私が先ほど勝利したことを出すと、陛下はしぶしぶ治療院の場所を教えてくれた。
「じゃあ、私はそこに行ってくるから。あとはよろしくね」
「……というか、お前さっき魔法使っていなかったか? 魔力を失ったんじゃないのか?」
「賢者の石というのを使って回復はしたんだけど、半分くらいしか回復しなかったのよね。それに、あの装置使うと、毎回魔力回復するでしょ。だから問題なかったってことなんだよね」
私が事情を説明すると陛下殿下は驚いた顔をした。
「その理屈はおかしい! 魔力枯渇症の人間が、あの装置を使っても魔法が使えるようにはならんぞ?! たしかに、状態異常などで後天的に減った場合は回復するが……」
「いや……。そもそも賢者の石? それはスカイポートにあるダンジョンの最奥にあると言われる伝説の秘宝じゃないのか?!」
「ああ、そうね。3人で200階層のダンジョンをクリアした時に手に入れたんだよ。ほら、マリアとミラベルは使っていないから、持っているでしょ」
二人が賢者の石を取り出して見せると、さらに驚いた顔つきになった。
「これは、まさしく伝説の賢者の石! この純粋な魔力の結晶と言われるほどの純度は間違いようがない」
「しかし、これを使って魔力が半分しか回復しなかっただと? これ一つで世界樹の魔力半年分に相当するはずなのだが?!」
「あ、そうなんですね。だとすると、あの装置で毎回魔力全回復していたから、9年分くらいの魔力をもらっていたってことになるんですね。なかなか凄い装置だ。それじゃあ、私は治療院に行くので、またあとで!」
私は、さっそく治療院へと向かうために皇宮を後にした。
「……9年分?! それって、10年分が1年分に……?! もしかして、あいつのせいか?! まずいぞ! あいつが治療院に行って、世界樹の魔力を使ったりなどしたら、完全に世界樹が終わってしまう!」
「致し方ない。帝国の全兵力をもって、リーシャを捕獲するのだ!」
こうして、私の知らない間に帝国は私を捕えるために全兵力を世界樹へと差し向けるのであった。
一方で、私は治療院に向かってマリアとミラベルと共に爆走していた。
3人とも特訓のおかげで身体能力が上がっており、また身体強化の魔法を高いレベル習得しているため、時速80㎞くらいの速度で世界樹のふもとにある治療院へと向かっていた。
「ちょっと距離がありますわね」
「まあ、そうは言っても、あと10分くらいかな」
「ですね。さほど時間はかからないかと」
私たちは予定通り、それから10分ほどで治療院へと到着した。
さっそく受付に治療をお願いすると、運よくベッドが空いているようなので、すぐに治療に入ることができるとのことであった。
私は治療室のベッドに横たわると、体中にいろいろな装置を付けられた。
そして、担当者が装置のスイッチを入れると、私の体に魔力が流れ込んでくるのがわかった。
「このまま、治療が終わるまで横になっていてくださいね」
そう言うと、担当者の人は治療室から出て行ってしまった。
私は横になったまま世界樹の魔力が自分の中に流れてくるのを感じていた。
「ちょっと入ってくる魔力が少ないみたい」
私は装置をいじって、注入量を最大にした。
すると、先ほどまでとは打って変わって、明らかにわかるほど大量の魔力が流れ込んできた。
「おおお、これですよこれ。これくらいじゃなきゃ、いつまで経っても終わらないよ」
私は再び横になり、世界樹から注ぎ込まれる魔力を堪能することにした。
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