第87話 機械の限界

 私の放った魔法は、3人を一瞬で消し炭にしてしまった。

 そして、全ての生命力を失った私も、死亡扱いとなって仮想空間から追い出されてしまった。


 私が消し炭にした3人は球体の前で呆然と立っていた。

 どうやら、先ほどの展開に思考が追い付いていないようであった。


 私は呆然と立ち尽くす彼らを見て、私は陛下に昨晩の仕返しをすることにした。


「ラウンドワン!」

「「「「ファイッ!」」」」


 おそらく条件反射になっているのだろう、私が掛け声をかけると呆然としているにも関わらず、息もぴったりに掛け声を合わせてきた。


 再び仮想空間に転送される私たち。

 未だに呆然と立っている3人を後目に、私は呪文を唱え始めた。


「星の終わり、――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


 私は全ての生命力と魔力を引き換えに、再び3人を消し炭にした。


 再び球体の前に戻される私たち。


 だが、さすがに3人とも状況の把握が追い付いたのか、私に対して抗議をしてきた。


「おい、貴様! 卑怯だぞ!」

「そうだそうだ!」

「ふん、運がよかっただけだ!」


 負け惜しみを言う3人を放置して、私は再び掛け声をかける。


「ラウンドワン!」

「「「「ファイッ!」」」」


 再び仮想空間に連れてこられた私たちだったが、陛下たちは私を最初に封殺すべく殺到する。


「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


 しかし、彼らが私にたどり着くよりも早く、再び3人を消し炭にした。


「くそっ、やってられるか!」

「卑怯者め! 正々堂々と戦え!」

「ふん、今回は痛み分けとしてやるとするか!」


 3人とも逃げようとしていたが、私は陛下の手を掴むと球体に押し付ける。


「ふふふ、逃がしませんよ! 昨晩の腰の恨み、思い知れ! ラウンドワン!」

「「ファイッ!」」


 皇帝の悲しき性か、私の掛け声に抵抗することができないようだった。


「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」



「おいこら、やめんか!」

「ラウンドワン!」「「ファイッ!」」「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


「くそっ、やめろ!」

「ラウンドワン!」「「ファイッ!」」「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


「後生だ! やめてくれ!」

「ラウンドワン!」「「ファイッ!」」「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


「もう、やめてくれぇぇぇ」

「いやいや、これからが本番ですよ?」

「ラウンドワン!」「「ファイッ!」」「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


「……」

「楽しくなってきたぁぁぁ!」

「ラウンドワン!」「「ファイッ!」」「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


「もう、やめて……」

「はい、もう一回ね!」

「ラウンドワン!」「「ファイッ!」」「――(略)――。終焉原初ビッグバン!」


 次第にやつれていく陛下とは裏腹に、リスクが高い魔法を何回でもぶっ放せる快感に、私はめちゃくちゃテンションが上がっていた。

 この時、私はこれを作り出した帝国に、そしてそれを統べる皇帝陛下に大きな敬意を抱いていた。

 当の本人は絶賛虐殺中だが。


「もう、むりぽ」

「まだまだ、いけるいける!」

「ラウンドワン!」「「ファイッ!」」


 しかし、私が10回目の戦闘に入ろうとしたところ、球体はうんともすんとも言わなくなった。


「あれれー、壊れちゃったのかなぁ?」


 私は球体を、バンバンと叩いてみた。しかし、何も起こらなかった。

 私は球体を、ワシャワシャと揺らしてみた。しかし、何も起こらなかった。

 私は球体を、グリングリンと回してみた。しかし、何も起こらなかった。


「うーん、戻らないな」


 どうしたものかと思っていると、突然球体にヒビが入り、あっという間に砕け散ってしまった。


「うわ、これ意外と脆かったり?」

「ぜえぜえ、馬鹿な! この程度で壊れるようなものではないはずだ!」


 私の呟きににた問いに、驚きの声を上げながら陛下が答えた。

 装置が完全に壊れてしまったことで、いったんは場が白けてしまったが、直後に入ってきた兵士の言葉により、全員が戦慄する。


「大変です。世界樹が、急速に枯れ始めております!」

「なんだと?! まだ残存魔力は10年は持つ計算ではなかったのか?」

「それが、先ほどから急激に消費量が増えておりまして、もはや残存魔力が1年分を切っております! しかし、この勢いのまま減り続ければ、1時間も持たないと思われます!」


 浮足立つ帝国の人たちに対して、私たちは完全に他人事であった。

 私に至っては先ほどまで行っていた戦闘で、一生で一番幸福を味わっていた。


「なんで急激に消費が増えたのかしらね」

「たぶんなんですけど、リーシャさんが原因なのでは?」


 私がつぶやいたら、隣にいたミラベルが私に原因があると言ってきた。


「私が言うのもなんですが、リーシャさんの魔力って、魔法を得意とするはずの私の十倍以上あるんですよ? それが全魔力を使う魔法をぶっ放しまくっているだけでも、恐ろしい消費量になるはずなのに……。さらに全生命力まで補填しているとなると、1回ですら消費量がどのくらいになるか……想像もできませんわ!」


 ミラベルの言うことも一理あったが、たった9回使っただけで10年分あった魔力が1年分になったのである。

 単純計算で終焉原初ビッグバンを1回で1年分消費する計算となるわけで、いくら何でも過剰に見積もりすぎだろうと考えていた。


「魔力の消費量の計算など、どうでもよい! それよりも世界樹を何とかしなければ、帝国は終わりだ!」


 私たちは、どうでもよくはないだろう、と思っていたが、確かに世界樹を何とかするのが緊急の課題だと思い、手伝えることがないか聞いてみることにした。


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