第86話 四つ巴の戦争
3人の戦いに乱入した私は、さっそくファイティングポーズで威嚇する。
しかし、3人は首を横に振った。
「おいおい、そんな野蛮人みたいなことをするつもりかい? 帝国人がお互い戦う時は、そんなことしないぜ。まったく、これだから田舎者は……」
クライブに散々に言われた私は、このまま3人ともKOしようかと思ったが、調子付かせるだけだと思ったので、相手の話に乗ることにした。
「じゃあ、どうするわけ? 戦争って言っても、まさか本当に軍隊引き連れて戦うつもり?」
「はぁ、これだから野蛮人は……。見せてやるから付いてこい」
ミハエルまで酷い言いようであった。
この噛ませ犬の分際で! と思わなくもなかったが、おとなしく付いていくことにした。
「これが帝国が誇る最新鋭の機械。Deluxe Army Magical Enforce Processing Orbだ!」
私の目の前には空中に浮かんで回転している球体があった。
「これは、本人の身体能力や魔法能力を仮想空間にトレースして、戦うことができる装置だ。魔力を使うことで仮想の兵隊を作り出すこともできるから、大規模戦闘も可能だぞ。そして、何よりも素晴らしいのは、本人が何らかの理由で全力を出せなかったとしても、この空間の中では最大限の力で戦うことができるのだ!」
「ほうほう。要するに、調子が悪かったとしてもベストコンディションの状態で戦えるということ?」
「そうだ、素晴らしいだろう? これがあれば、治療中の兵士ですら戦闘訓練ができるのだからな!」
「ああ……。これは素晴らしいな」
「しかも、中で使ったダメージや魔力は装置が肩代わりするから、いろいろな戦い方を試すこともできるのだ!」
「ほうほう、要するに、生命力も魔力も使い放題ということでOK?」
「そうだ、OKだ。理解が早くて助かる」
私は、この装置の説明を聞けば聞くほど素晴らしいとしか思えなくなっていた。
何より、後先考えずに最大火力でぶっ放してOKというのが素晴らしいと思っていた。
「でも、こんな装置で私が戦ったら、誰も勝てないよ。悪いことは言わないから、今のうちに負けを認めた方がいい」
「ふははは、何を寝ぼけたことを、帝国の男が敵、しかも女を前にして戦わずして負けを認めるなど、恥ずかしいにもほどがあるわ!」
「ふーん、まあ、私は構わないけどね」
「余裕ぶっているのも今のうちだ!」
私は、クライブのためを思って忠告しているのだが、相当に自信があるのだろう、私に勝つ気満々であった。
「そうだな、俺だってあれから強くなったんだ。前の体育祭のようにはいかんぞ!」
「ふん、所詮はひよっこどもよ。前線から引いたとはいえ、まだまだ貴様らなどに負けはせぬ!」
クライブだけでなく、ミハエルや陛下もやる気満々であった。
戦う前の戦意の高さだけは、さすが親子だな、などと私はくだらないことを考えていた。
「そうだ、ハンデをくれてやる。俺たちは最初にお前を倒すことはしない! 誰か一人が負けるまで、お前は放置しておいてやる! さすがに始まってすぐに負けたら面白くなかろう!」
本当に、どこからそんな自信があるのか……。
まあ、どうせ私が女だから弱いと思っているのだろうけど……。
とはいえ、せっかく私に有利な条件を付けてくれるのだから、ありがたく受け取ることにした。
「おしゃべりはそこまでにして、準備ができているのなら、さっそく始めるぞ!」
しびれを切らした陛下が私たちを急かし始めた。
「準備はOKだけど、どうやって始めるの?」
「この球体に触れて、誰かが『ラウンドワン』という、その後、全員で『ファイッ!』って言えばゲームが開始される」
「うわー、めっちゃ恥ずいわ!」
「いいから行くぞ! 私の言葉に続け! 『ラウンドワン!』」
「「「「ファイッ!」」」」
掛け声とともに、私は仮想空間に転送された。
魔法戦なども想定しているらしく、初期配置は姿こそ見える距離ではあるものの、離れた位置になっているようだった。
最初に仕掛けたのはミハエルであった。
彼は大量の兵士を召喚し、自らは早くも筋肉ダルマとなっていた。
大量の兵士を盾にして、自らの攻撃力で殲滅するつもりだろうことがうかがえた。
クライブは自身に強化を重ねがけして、恐ろしいまでの速度でミハエルの兵士を蹂躙していった。
そして、陛下は周囲に大量の魔法陣を展開する。
「あれは魔法トラップ?! 脳筋系かと思ったら、意外と策士なのね」
「「させんわ!」」
ミハエルは自身の兵士の一部をトラップに当て、クライブは超高速の移動によってトラップを無効化させる。
「くっ、なかなかやるではないか! だが、これならばどうだ?」
陛下は自身の周囲に隠していたようで、魔法陣が二人の体を捉えていた。
地面より吹き出る炎によって、二人の体が焼かれる。
しかし、それぞれ強化した肉体は、炎のダメージ程度で倒れることは無かった。
「「甘いぞ! 俺が以前の俺だと思うな!」」
炎を耐えきった二人が同時に全く同じセリフを叫んだ。
「いやー、君たち相性いいね」
あまりにも息が合っていた二人を見て、思わずつぶやいてしまった。
「さて、私もそろそろ本気で行きましょうかね」
重い腰を上げると、ゆっくりと呪文を詠唱する。
「星の終わり、極まりし光は終焉の星に集わん。光はやがて星より溢れ、終わりとともに遍く世界を、その光で塗りつぶす。光により塗りつぶされた世界は再びあまたの星となり、原初の星の始まりへと導かん。
私は魔王に使った自らの生命力と魔力を引き換えにする魔法を使った。
私の掌に極大の力が光を伴って収束する。
その光を泥沼の戦いを繰り広げている3人に向かって解き放った。
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