第84話 婚約発表

 皇宮についた私たちは、控室へと通される。

 どうやら、私たちの歓迎を兼ねた晩餐会を行うとのことで、是非とも参加していってほしいとのことであった。


「歓迎されているのは間違いなさそうなのでいいのではないでしょうか?」

「おいしい料理とか出そうですし、参加しましょう」


 二人に聞いたところ、どちらも乗り気だったので執事の人に参加すると伝えると、執事の人は恭しく礼をして控室から出て行った。


 晩餐会までは3時間ほど時間があったので、私たちは執事の人に頼んで、帝国の名物を取り寄せてもらった。

 そうして、部屋のテーブルの上に、数えきれないほどの料理やお菓子が所狭しと並んでいた。

 執事の人は、去り際に「晩餐会ですので、食べ過ぎないようにお願いします」と言ってから出て行った。


 大きなお世話である。

 大体において、貴族の晩餐会など腹の探り合いの場であって、まともに料理を食べられるわけがないと思っていた。

 もっとも、あとで私たちは、そのことを大いに後悔することになるのであるが……。


 私たちが晩餐会のために食堂に行くと、ただでさえ広いテーブルに所狭しと先ほど食べていた料理と同じものが並んでいた。

 私たちが席に着くと、皇帝陛下が挨拶を兼ねて話し始める。


「聖女様。ようこそ帝国へお越しくださいました。本日はささやかながら帝国らしい料理の数々をご用意いたしましたので、思う存分召し上がってくだされ」


 そういって私たちに料理(さっき食べていたのと同じもの)を勧めてきた。


「あ、あはは。それではいただきますね。あー、おいしそうな料理だ(棒読み)」

「そうですわね。こんな料理見るのも初めてですわ(棒読み)」

「このようなもてなしをしていただけるとは、ありがたき幸せでございます」


 私とミラベルは、予想外の事態にセリフが棒読みになってしまったが、マリアは普通にお礼を述べていた。

 さすがマリアである。


「そうでしょう。ま、無理に食べなくても大丈夫ですぞ。どうやら皆さん小食のようですからな。あっはっは」

「「「あはは……」」」


 皇帝陛下は豪快に笑っていたが、私たちは苦笑いと冷や汗を浮かべることしかできなかった。

 私は、突き刺すような視線を感じて周囲を見回した。

 すると、先ほどの執事の人が「だから言いましたよね?」と言いたそうに、私たちを睨んでいた。


 穏やかな、それでいて生きた心地のしなかった食事がひと段落ついた頃、皇帝陛下が神妙な顔つきになって話し始めた。


「聖女様、一つご相談なのですが……」

「なんでしょうか?」


 私は食後のお茶を飲みながら、陛下の話に耳を傾けていた。


「突然の話で申し訳ないのですが、我が息子クライブの婚約者となっていただけないでしょうか?」

「ぶふぅぅ」

「ちょっと、リーシャさん。はしたないですわよ!」


 突然の婚約宣言にお茶を吹き出してしまった私を、ミラベルが咎める。


「い、いや、婚約って。私とミハエルの話、ご存じですよね?」

「だからこそです。帝国の后となる者は強者でなければならぬのです。ミハエルはまだまだ未熟者であるとはいえ、それを圧倒する聖女様であれば、クライブの婚約者として不足はありません」


 どうやら帝国のモットーは力こそ全てということであった。


「いやいや、それに私は魔王国所属の聖女ですよ。婚約するにあたっては魔王様に確認をしなければいけないのではありませんか?」

「大丈夫だ。問題ない。結婚してしまえば、所属は帝国になるのだからですから。既成事実さえ作ってしまえば、あとはなし崩し的に……」

「問題ないじゃないですわ! 問題しかないじゃない! もしかして、この国の陛下もポンコツなんですか?!」

「大丈夫だ。俺はお前を愛する自信がある。あとはお前が俺の愛を受け入れてくれれば全て丸く収まるのだぞ」


 どうやら、クライブは私が一番嫌いな人種である「俺様キャラ」らしかった。

 このタイプは独断で勝手に話を進めていく上に、人の話を聞かないから厄介である。

 しかし、私が断ろうとするよりも早く、その決定に異議を唱える者がいた。


「兄上! 父上! 彼女の婚約者は俺です! 勝手に話を進めないでいただきたい!」


 弟であるミハエルであった。


「いや、いつから、お前の婚約者になったんだよ?!」

「ほら、彼女も違うと言っているではないか。やはり俺の婚約者だな」

「だから! 違うって! 言ってるだろうが!」


 自分勝手なことを言う二人に堪忍袋の緒が切れた私は、まとめて『弱P』『強P』『→↓↘強P』のコンボで瞬殺した。


「「ほげぇ」」と言って倒れ伏す二人と私を交互に見ながら、陛下が拍手をする。


「すっばらしいぃぃ! やはり私の目に間違いはなかった。是非とも息子の婚約者に――」

「ならないって言っているだろうがぁ!」


 私はノリで陛下にも同じコンボを叩き込もうとしたが、あっさりと防がれてしまった。

 さすがは皇帝となった男である。


「ふ、まあ良い。まだしばらく滞在するのであろう。私もすぐに決断しろとは言わん。ゆっくりと前向きに考えてくれればいい」


 そう言って、陛下は不敵な笑みを浮かべた。

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