愛憎渦巻く機械帝国

第83話 むさ苦しい歓迎

 飛空艇に乗っていた私たちは、帝都のはずれにある発着所に降り立った。

 私たちは入国ゲートで手続きを済ますとロビーに出た。


 そこには、厳つい雰囲気のいかにも偉そうな男と、その両脇に息子と思われる二人の少年が立っていた。

 さらには、その周りに多数の護衛と思われる男たちが立っていて、その合計筋肉量の多さに、私はむさ苦しさを感じていた。


「聖女様、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」


 そう言って、中央の一番偉そうな男がお辞儀をする。

 それに合わせて左右の二人、そして周囲の男たちがお辞儀をする。

 普通なら、すごい、と思うのだろうが、ここまで3つの国で偉そうな人たちの悲惨な実態を目の当たりにしてきたせいか、むさ苦しい以外の感想を抱くことができなかった。


「こちらこそ、丁寧な歓迎ありがとうございます。しかしながら、私はただのお忍びの旅を続ける聖女でございます。このような丁重な歓迎は、以後不要でございます」

「これはこれは、ご配慮痛み入ります」


 私はできる限り丁寧に、こんなむさ苦しい歓迎するな、と伝えたのだが、相手は理解していないようであった。


「それで、どちら様ですか?」


 私の質問が不躾だったのだろう、中央の偉そうな男以外が浮足立った。

 中央の男が彼らを手で制すると、頭を下げながら自己紹介をした。


「これはこれは、失礼いたしました。私はアルスウェグナ・オブシディアン・ドラゴンブラッド。この帝国の皇帝でございます。そして、脇に控えますは我が不肖の息子、クライブとミハエルでございます」


 私はアルスウェグナとクライブ、そしてミハエルを順に見たところで、驚きの声を上げる。


「あーっ! あなたは――あの時の『噛ませ犬』皇子じゃないですか?!」

「えっ?! お、お前は! お前がなんでここにいるんだ。しかも聖女?! 馬鹿な、こんな脳筋が聖女だと?!」


 久々の再会を果たした私たちは、積もる話などなくお互いを貶しあっていた。


「ふふん、あなた帝国に戻ってきていたのね。まだ学園にいるのかと思ったわ」

「仕方ないだろ?! 自称王国が滅んだおかげで、学園も解散になったんだからな!」

「もしかして、あなたがミハエルを降したという令嬢ですか?」


 私とミハエルの会話にクライブが割り込んできたので、笑顔で応える。


「はい、私は彼と同じ学園で学んだ同士なのですよ。それで、体育祭の一回戦で彼と当たりまして、私が彼を降したのです」


 私は慎ましい胸を張りながら答えると、クライブは微笑みながら目を輝かせる。


「それは素晴らしい。ミハエルも我々の足元には及びませんが、それなりには強いのですが、それを降すとは――」

「おい、そんな言い方するなよ!」


 私はミハエルを無視して、クライブの言葉に疑問を投げかける。


「この程度で強いのでしょうか? 彼の戦い方は力任せの粗いものでした。技術もない彼を強いとは、私には到底思えません」

「さすが分かっていらっしゃる。常々、こいつには言っているのですが、なまじ身体能力に長けている分、努力を怠りがちで……」

「おい、やめろ!」


 涙ぐんできたミハエルをやはり無視して、私は彼の発言にうなずいた。


「やはりそうでしたか。彼と戦ったのは一度限りではありますが、彼の経験不足はあまりに深刻で、これが帝国の実力かと驚いておりましたのよ」

「なるほど、さすがは聖女様。一目で彼の弱点を見抜くとは……。それに比べて、こいつときたら……」

「もう、やめてくれよ……」


 泣きながら俯いていた彼が、か細い声で言ってきたので、私はクライブと顔を見合わせ、ミハエルへと向き直った。


「あら、ミハエル殿下。いらっしゃいましたのね。ちょうどお兄様とあなたの話をしていたのですよ」

「そうだぞ。お前も聖女様にご挨拶しろ」

「う、う、うわぁぁぁん」


 私たちがちょっとからかいすぎたせいか、ミハエルはついに泣き出してしまった。

 そんな彼を見た皇帝はため息をついた。


「ふぅ、私の息子として、いや皇族として心身ともに強くあらねばいけないというのに……。まあ、ミハエルのことは、この者たちに任せて、我々は先に行こうとするか」


 そして、私たちは都合5台の車に乗り込んだ、先頭と最後尾は護衛のみ、真ん中3台の1台目に皇帝が、2台目に私とクライブが、3台目にマリアとミラベルが乗り込んで、皇宮へと向かう。

 乗る前は特に気にしていなかったのだが、乗ってからしばらくして、窮屈でも3台目に乗ればよかったと後悔した。


「ねえねえ、ここへは何をしに来たの?」

「そうそう、今度、帝都のレストランで一緒に食事しない?」

「俺も剣術結構できるんだけど、聖女様に手取り足取り教えて欲しいな。いいよね?」


 などと、車に乗っている間、ずっと私に話しかけていたのだった。

 正直なところ鬱陶しいことこの上ないのだが、相手も皇族だからと、少しおとなしくしていたのがまずかったらしい。


「この皇子、チャラすぎ……」


 私はクライブの話を聞き流しながら、ぼやくようにつぶやいた。

 ちらりと後ろの車を見ると、マリアとミラベルが楽しそうにおしゃべりしていた。


「いいなぁ……」

「え? いいの? じゃあ、今度の休日で。店は予約しておくよ」

「そっちじゃないわ、ボケが!」


 どうやら、私の被っていたネコは逃げ出してしまったようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る