閑話7 機械仕掛けの世界樹
世界樹、それは、この世界のはるか北の方にあるエルフ達の領土である
この世界樹こそが、すべての世界樹の生みの親である原初世界樹なのだが、そこから分かたれた世界樹が各地に点在しているのである。
そのうちの一本が、このブラックドラゴン帝国の中心に生えていた。
しかし、その世界樹は形こそ樹の形を保っているものの、そのパーツの大半は帝国が誇る科学技術によって機械に置き換わっていた。
帝国人は機械こそ永遠を保証するものという考え方があり、自然物はすべからく時間の経過によって劣化を免れないが、機械は適宜パーツを交換することで半永久的に機能を維持できるというものである。
その考えのもと、帝国に生えている大陸唯一の世界樹は、その大部分が機械に置き換えられてしまった。
これによって、大事な世界樹は100年や200年、果ては数千年、数万年にわたって、維持されると思われていた。
――それが幻想であることが判明するまでは。
ブラックドラゴン帝国皇宮、そこは皇帝の威光にふさわしい巨大な建造物であった。
その建造物は皇族の住まいだけでなく、都市のあらゆる機能を内部に備えた堅牢な要塞でもあった。
当然ながら、その皇宮に入れるのは一部の限られた人間だけであったが、逆に言えば、そこに入ることさえできれば、己の身の安全は保障されたようなものであった。
その皇宮、しかも皇族の居城に向かって早馬を走らせている者がいた。
彼は馬を皇族の居城の前に止めると、足早に謁見の間へと向かう。
すでに先んじて謁見の伺いは立てており、あとは彼が謁見の間に到着するのを待つだけであった。
彼が謁見の間に到着すると、最奥に控える皇帝アルスウェグナ・オブシディアン・ドラゴンブラッドと皇妃サリエルシア・オブシディアン・ドラゴンブラッド、そして、第一王子のクライブ・オブシディアン・ドラゴンブラッド、第二皇子のミハエル・オブシディアン・ドラゴンブラッドが左右に控え、さらに帝国の重臣たちが皇帝への道を作るかのように左右に並んでいた。
その中を彼が進み、皇帝の御前まで進むと跪き、皇帝の言葉を待つ。
「此度の異変についての報告大儀であった。面を上げ、詳細を報告せよ」
重々しい声で告げると、彼は一呼吸おいて状況を説明する。
「世界樹が枯れ始めております。それは機械によって補強した部分についても同様に錆びつき、鉄が腐り落ちております」
「交換しても無意味であると?」
「御意、交換しても1日と経たずに錆びつき、腐り落ちてしまいます」
「よもや鉄では難しいのかもしれぬな。科学技術大臣、ミスリルを使った機械の製作を急がせよ。試作品でも構わん。出来上がったものから順次交換せよ」
皇帝は重々しい声で脇に控えている科学技術大臣に命じる。
「御意に」
そう言って、彼はさっそく行動に移すために謁見の間から退室した。
「医療技術大臣、世界樹の枯死を食い止めるポーションの製作を急がせよ。長期的な影響は無視して構わん。この局面を乗り切った後は機械に置き換えてしまえばよいのだからな」
今度は医療技術大臣に命じると、同じように返事をして謁見の間から退室した。
「情報技術大臣、この事実、ほかの国などに広まらぬように統制せよ。また、建築技術大臣、世界樹を覆うように建物を建設せよ。表から見えぬようにな」
そして、情報技術大臣と建築技術大臣にも命じる。
「それから、ここにいる皆の者。このことは他言無用であるぞ。もし、このことを漏らしたならば、斬首刑に処す。よいな?」
最後に、この場にいる全員に言明すると、席を立ち奥へと下がってしまった。
「やれやれ、こんなんで何とかなるとは思えないんだが……。ミハエル、お前は何かないのか? 最近までホワイトナイト王国に留学していたんだろ」
「兄さん、あんな国から学べる事なんて、ほとんどなかったよ。学生は雑魚ばっかだったし、学ぶ内容なんて、王国賛美か光の神賛美くらいだからね」
「そうか? でも、お前、体育祭で一回戦負けしたんだろ? しかも女にぼこぼこにされたそうじゃねーか。はっはっは」
「おい、それは言うなよ! 俺だって一発は当てたんだぞ!」
「影から聞いた話だと、お情けで一発当てさせてもらったらしいけどな。そんなお前が雑魚ばっかとか、どの口が言うんだか。ぶあははは」
「黙って聞いてればいい気になりやがって! やってやるぁ!」
さんざん馬鹿にされてブチ切れたミハエルがクライブに喧嘩を吹っ掛ける。
しかし、クライブはあきれたように肩を竦めるだけであった。
「やれやれ、これだから鑑定眼だから知らんが、お前、俺との実力差もわからないのか?」
「うるさい! あの女みたいなことを言いやがって! うおおおお!」
ミハエルは最初から全力のつもりなのか、通常の3倍の状態になっていた。
「くらえっ!」
渾身のパンチを繰り出すミハエル。
しかし、クライブは涼しい顔をしてかわすと、ミハエルの足を軽く払う。
パンチの勢いのまま突進していたミハエルは、その足払いだけで転倒してしまった。
「ふん、なんだかんだ言っても、その程度かよ。お前を倒したっていう女も、そんな期待できねーな」
「くそぉぉぉぉ! なんで、なんでだよ!」
謁見の間には、ミハエルの号泣する声だけが響き渡っていた。
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