第82話 帝国へ
「もう行くのかい?」
先日、意気投合したデニスが私に問いかけてきた。
「もちろんですわ。賢者の石である程度は戻りましたが、完全復活とまではいきませんでしたから」
「うむむ……。賢者の石を以ってしても完全復活できないとは、お前、どんだけ魔力高いんだ?!」
「さぁ、少なくとも魔王の最大出力に勝てるくらいの魔法は使えるはずですが」
「えっ?! 魔族の中でも並外れた魔力を持つ者が就くと言われている魔王に? さすが、今代の聖女様は常識外れのお方のようだ」
「あらら、さらっと酷いこと言いますのね。そんな毒舌だとモテませんわよ」
意気投合したとはいえ、最初の頃はぎくしゃくしたところもあったが、今となってはデニスだけでなく、他の3人とも軽口をたたく程度の仲になっていた。
「大丈夫だ。俺にはオードリーがいるからな」
その言葉に、またしてもオードリーが頬を染めた。
「毒舌よりも先に、そのブラコンを何とかしなきゃいけないと思うけどねぇ」
「そうですね。女性には興味ない方なのだと思われそうですしね」
私はグリンダの言葉に全面的に同意していた。
「まあ、それはともかくとして、私も仕事で仕入れているポーションとかローションとかグッズとか、いろいろと鞄に詰めておいたから、有効に使ってね」
「私も、私の仕事で仕入れたお札とかお守りとか、藁人形とか、いろいろと鞄に入れておいたから、使ってくれると嬉しい……」
「グリンダ、シャーリー、ありがとうね」
なんか、いくつか不穏な単語を聞いたような気がしたが、私は気のせいだと思うことにした。
「あ、それと、帝国の滞在許可証だよ。スカイポートの聖女として許可を取ってあるから、期間は余裕を見て1年にしてあるから、多少長引いても大丈夫だと思う。もし、切れそうなら連絡してくれれば新しい許可証を送るからね」
「えーと、連絡はどうやって取ればいいの?」
「帝国は、このスカイポートよりも科学よりの国だから端末を使えばいいよ。オスカーの端末の代わりに渡したリーシャさん専用の端末から、僕たちには連絡を取れるように連絡先を登録しておいたから。ついでに、ミラベルさんとマリアさんにも端末を用意しておいたよ。帝国内だと、端末で連絡を取るだけでなく、身分証明書としても使えるんだ」
「へえ、結構便利ね」
「決済にも使えるし、帝国内の交通機関のチケットとしても使えるから、端末さえあれば、帝国内で困ることはないと思うよ」
いろいろ聞いていると、前世で使っていたスマホそのものであった。
「あ、でも、何にでも使えるといっても武器にはならないから、気を付けてね」
「いやいや、これを武器にしようなどと言う人はいないと思うけど……」
「うん、まあ。リーシャさんならやりそうかなと」
「ですわね。手元にあったから使ったとかやりそうですわ」
「お嬢様、こういった機械はデリケートなんですから、扱いには注意してくださいね」
デニスの言葉にマリアとミラベルが全力で乗っかってきた。
どうやら、この点に関しては、私への信頼は底辺まで落ちているようであった。
「ま、まあ、気を付けておくわ。ちなみに……、もし壊しちゃったら、どうすればいいの?」
私がもしものことを考えて質問すると、3人揃って、いや、デニスの兄弟たちも含めて都合6人が揃って「やっぱり」みたいな顔をしながら私のことを見てきた。
「ああ、うん。この端末はスカイブルー製だから、帝国内にあるスカイブルーショップに行くと、修理とかしてもらえるよ。でも、有料になると思うから気を付けてね」
「えっ?! 保証期間とかないんですか?」
「いや、あるにはあるんだけど……。リーシャさんが壊したときは、たぶん保証適用外になるだろうしね」
「壊す前提?! しかも、適用外になるような壊し方?!」
あまりの言われようであった。
「ま、まあ、そこまでひどい使い方は寝ぼけていない限り大丈夫よ。これでも使い方はスマホで知ってるからね」
「スマホ……はよくわからんが、頼むぞ。壊しても修理はできるとはいえ、修理中はまともに連絡が取れなくなるからな」
「連絡窓口はマリアでお願いします」
「承りました。お嬢様」
いざという時のためのマリアである。感謝しかない。
「さて、そろそろ帝国行きの飛空艇の出発時間ね。それじゃあ、無事に着いたら連絡するから」
「「「いってらっしゃい!」」」
デニスたちに別れの挨拶を告げると、搭乗口を通って飛空艇へと乗り込んだ。
私たちが席に着くと、すぐに飛空艇は大空へと飛び立った。
「うわぁ、雲があんな下にありますよ!」
「そんなはしゃがないの。初めてじゃないでしょ。もう立派な大人なんだし、おとなしく乗っていなきゃ」
「そんなこと言って、リーシャさんもさっきからずっとウズウズしているじゃないですか!」
初めてではないとはいえ、空の旅はまだ2回目である。
いやがおうにもにそわそわしており、それがミラベルにはバレバレであった。
「まあ、大聖女にでもなったら、しょっちゅう乗ることになりそうだし、少し落ち着いたら?」
「リーシャさん、やっぱり大聖女目指すんですね?! さすがです」
「いや、目指すつもりはないんだけど、行く先々で巻き込まれるじゃない? もう不可抗力だと思っているわ」
「あきらめが肝心、ということですね。お嬢様」
「あきらめてはいないわ。それに大聖女になったからって、ダラダラできないと決まったわけじゃないし!」
この言葉を聞いた二人は、盛大なフラグを立てたな、と思いながら、窓の外を眺めるのであった。
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