第77話 不思議のダンジョン

 私たちは、彼に送ってもらった地図を端末で見ながら『不思議のダンジョン』へと向かっていた。

 このダンジョンの周辺には他のダンジョンもなく、また、このダンジョン自体が不人気なのか、周囲に人の気配はなかった。


「うーん、死んでも終わりじゃない分、ダンジョンとしては良心的な気もするけど、こんなに人気ないのはなんでかな?」

『それはね。ズバリおいしくないからだよ』


 私が呟いたら、なぜかそれに答えるように端末から声が出てきた。


「うわっ、びっくりした! ちょっと、いきなり会話を始めないでよ。っていうか、何で私の声が通話していないのに聞こえたわけ?」

『それは僕の渡した端末は特別製だからね。僕の方からはいつでも通話を始められるのさ』


 それは、明らかに盗聴目的としか私には思えなかった。


『盗聴は犯罪ですよ。変態不審者さんですか?!』

『ちょっ、言いがかりは酷いな。黙って聞くようなことは断じてしないよ。信じて欲しい』


 いきなり信じろと言われて信じるのは難しかった。

 しかし、言ったところで無意味であると思い、本題に戻ることにした。


『おいしくない、と言うのはどういうことでしょうか?』

『このダンジョンは、ドロップアイテムを持ち帰れないんだ。もちろん拾うことはできるし、ダンジョン内であれば加工して使うこともできる。でも、加工品も含めて、外に出すと消滅してしまうんだ』


 要するに、ダンジョンを探索しても収入はゼロということである。

 それでいて、アイテムは準備しないといけないとなると、基本的にマイナスである。


『なるほどね、だから誰もいないのか』

『ああ、でも、全てが持ち帰れないわけじゃないんだ。一番最奥にある――賢者の石は持ち帰ることができるらしい。これを持ち帰った商売王は無限の黄金を生み出して、この街を作ったと言われているからね』

『それなら、挑戦する人もいそうですけど……』

『いやいや、200階層だよ? しかも、失敗して死んだら1階層からやり直しだし。特に100階層以降は即死攻撃してくるモンスターも出てくるし、噂では190階層以降はかすっただけで即死らしいからね』


 不思議のダンジョンというゆるい名前とは異なり、実態は鬼畜のダンジョンであった。


『まあ、言いたいことはわかったわ。それじゃあ、ちゃんと説得しておいてよね』


 そう言って、通話を一方的に切り、ついでに端末の電源も落とした。


「それじゃあ、早速行きましょうか」


 私たちは早速ダンジョンへと入っていった。

 100階層までは、大して強いモンスターがいるわけでもないため、意外なほどサクサクと進めたが、やはり100階層を超えてからの即死攻撃が攻略の障害となっていた。


「うーん、ここは私がワントップで行きますね。二人は後方から支援をお願いしますわ。ミラベルは魔法で攻撃を、マリアは投擲で敵の攻撃の妨害をしてくださいね」

「「了解!」」


 こうして、100階層以降は、私が前面に立ってひたすら回避中心の立ち回りをしつつ、ミラベルの魔法とマリアの投擲(フォーク)でモンスターを倒していった。


「ふふふ、当たらなければどうということはない!」


 そう、即死攻撃であっても当たらなければ死なないのである。

 しかも、モンスターの耐久力が低めに設定されているおかげで、二人の攻撃だけでも倒すには十分であった。

 こうして、私たちは順調に攻略を進め、とうとう190階層までたどり着いた。


「ダンジョンも、ここからが本番ですわ」

「お嬢様、細心の注意を払っていきましょう」

「しかし、リーシャさんだから回避できてましたけど、商売王――あのダルマみたいな身体でどうやって、攻略したんでしょうね」


 確かに、それは私も疑問に感じていた。


「甘いですわ。図体がでかい、太っているからと言って、動きが鈍いとは限りませんわよ。それに避けていないかもしれません――。そう、避けるのではなく、彼の覇気によってモンスターの攻撃が当たらなくなってしまう、という可能性も考えられます」

「……どこの地上最強の生物ですか」

「まあ、それは置いておいて、先に進みましょう」


 私たちは190階層の攻略を始めたが、いきなり壁にぶつかってしまった。

 これまでの階層とことなり、敵の攻撃が苛烈になっていて、私の回避では追い付かなくなっていたのである。


「これはちょっとやり方を考えないといけませんね。ここからは私がメインで戦います。マリアは私が接敵する直前に投擲でモンスターの気を引いてください。ミラベルは攻撃速度向上ヘイスト攻撃力向上クリティカル攻撃回数倍加ダブルアタック反復攻撃エコーの魔法で援護をお願いしますね」


 この方法は190階層からの戦闘では非常に有効であった。

 マリアがモンスターを引き付けるため危険は伴うものの、気を引いた直後に背後から襲い掛かることで瞬殺していた。


「お前はもう、死んでいる!」


 ミラベルの強化のおかげで、私の攻撃力はカンストする勢いで上がっていたので、モンスターもまるで豆腐を切っているようであった。


「最初からこの方法でも良かったんじゃない?」

「冗談はよしてください! 10階層でも魔力が限界ですのよ! ポーションがぶ飲みにも限度がありますわ!」


 私が冗談で言ったら、ミラベルが頬をふくらませてクレームを入れてきた。


「冗談、冗談だって。さて、後はラスボスだけね。気合い入れていくわよ」


 私たちは、最後の扉を開き、中へと入っていった。

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