第76話 誤解
「初めまして、私はオスカー様からあなた様の護衛を依頼されましたリーシャと申します。手違いがありまして遅くなりまして申し訳ございませんわ。あと、こちらが従者のマリアと魔法使いのミラベルですわ。本日より、この3名であなた様をお守りさせていただきます」
どうやら、私たちと同じ名前の人のようだ。
もっとも、同じなのは名前だけで、あっちのリーシャは私よりも清楚系のお嬢様だし、ミラベルに至っては、どこのモデルさんか? と思うほどナイスバディであった。
「あら? すでに護衛は手配されておりますが」
「おかしいですね。ちなみに、その方は本物でしょうか? 私たちは元公爵令嬢であり、魔王国の聖女です。相応の立ち居振る舞いとは思いますが、それにミラベルも優秀な魔法使いである以上、彼女のように相応の身なりをしていて当然かと思います」
「……少し待っていてちょうだい。確認してくるから」
あっちのリーシャの言葉に、イザベラは少し考え込むと、待つように伝えて一人で部屋の外へ行ってしまった。
彼女が出て行ったあとで、私は3人の様子を窺った。
特に挙動不審な様子もないことから、彼女たちも私たちと同じ名前なのだろう。
3人とも同じ名前なんて凄い偶然ではあるが、絶対にありえないとは言えないため、私はイザベラが帰ってくるのを待つことにした。
10分ほどして、イザベラが戻ってきた、背後に多数の兵士を連れて。
「先ほど確認してはっきりしました。あなた達、偽物の護衛ですね!」
そう言って、ビシッ、と音がするんじゃないかってくらい、勢いよく指さした――私たちを。
「えっ?! いや、私たちは確かにオスカーさんに……」
「言い訳は不要です。昨日の侵入者は、赤いお面をかぶっていたと言いましたよね」
「はい、確かに。あの男はお面をかぶっておりました」
「それではっきりしたのです。昨日の男はオスカー本人だということを。そして、彼に先ほど確認し、『肩は大丈夫ですか?』と聞いたら、『よくわかったね。昨日、肩を痛めちゃったんだよね』と言っていました。これを聞いて、私は確信いたしました。昨日のお面の男、彼はオスカーであり、あなた方は護衛と言いながら、彼を撃ち殺そうとしたのです」
「えええ?! そんな、お面の男がオスカーなんて、わかるわけないじゃない!」
「いいえ、この街にいる人間で、『赤いきつね』の男がオスカーであることを知らない人間はいないのよ。本人は、バレバレだってことは知らないけどね」
「いやいや、きつねとお面に何の関係が?」
「赤いきつね、とは赤い色をしたきつねのお面をかぶっていることからついた名前よ。みんな知っていることだわ」
私は、その言葉に違和感を感じた。
昨日見たお面、本当にきつねのお面だったのかと。
「いや……お面とは言いましたが、きつねのお面とは言ってませんよ」
「そんなこと言って、私は騙されませんからね。皆さん! あの不埒なものたちを捕まえてください! 最悪、殺しても構いません!」
その言葉に彼女の背後にいた兵士たちが私たちを捕まえようと、一斉に飛びかかってきた――。しかし、それは巨大な影に遮られた。
「くぅぅぅん⤴」
「ルナ! いたのね!」
「くぅぅぅぅん⤵」
「ちょっと、リーシャさん! ルナが忘れられたと思って、しょぼーんってなってますよ!」
「あ、いやいや、忘れていないよ。街中じゃ、あまり大きくできないからね。でも、ありがとう、ルナ」
「くぅぅぅん⤴」
どうやら、ルナの機嫌は直ったようだ。
ルナは兵士たちを威嚇しつつ、腰を下ろした。
「乗れってことね。マリア、ミラベル、いくわよ!」
私たちはルナの背中に乗ると、ルナは立ち上がり建物の外へと一目散に駆けだした。
――建物を破壊しながら。
「まあ、この大きさじゃ、扉も通らないし、仕方ないよね」
「はい、お嬢様。緊急事態と言うことで許されるでしょう。まあ、すでにお尋ね者である以上、あまり関係はありませんけど」
私は建物を飛び出してなお、全力疾走を続けるルナの背中の上で端末を取り出し、オスカーに連絡をした。
『ちょっと、あなたのせいでお尋ね者になっちゃったじゃないの!』
『どういうこと?! もしかして、さっきイザベラから連絡あったことが関係していたりする?』
私は彼に自分と同じ名前の護衛が現れたこと、昨日、オスカーがお面をつけてイザベラの屋敷に侵入しようとしたこと、そして、私が彼の左肩を撃ち抜いたことを伝えた。
『いやいや、何を言っているんだい?! 僕が依頼したのは君だけだし、同姓同名の人がいるなんて、情報無いんだけど』
『情報通っていうのも、大したことないのね』
『ちょ、ちょっと! そんなことはないよ。僕が情報を持っていない、ということは、君以外にリーシャという人はいないということだよ。それに、そもそも僕がイザベラの屋敷に侵入するとかありえないんだけど! そもそも、お面かぶっているから誰かわからないよね?!』
『いや、みんな知っているみたいですよ。それにオスカーさん、肩を痛めたって言ってたでしょ?!』
『馬鹿な! それに肩は書類仕事のし過ぎで痛めただけで、銃で撃たれたわけじゃないよ。それに僕が痛めたのは右肩、君が撃ち抜いたのは左肩、どこをどうみても辻褄が合わないじゃないか!』
『知らないわよ。あなたが変なことを吹き込むから、こんなことになったのよ。何とかして!』
『わかった。彼女は思い込みが激しいから時間がかかるかもしれないけど、頑張って説得するよ。その間、君たちはダンジョンに隠れていて欲しいんだ』
『ダンジョンに逃げても追ってこられたらまずいんじゃないの?』
『いや、この街の近くにある、不思議のダンジョン、と呼ばれるところ、そこなら大丈夫だ。そこのダンジョンは入るたびに構造が変わるので、後で入っても同じところにはたどり着けない』
『そもそも、ダンジョンって危険じゃないの?!』
『いや、不思議のダンジョンは全部で200階層あるんだけど、死んでも1階層に戻されるだけだよ。ちなみに、攻略すると願いが叶うと言われているんだ。もしかしたら、君の魔力も取り戻せるかもしれない』
『しかたないわね。それなら、私がちゃちゃっと攻略してやるわ。そっちはよろしく頼んだわよ』
『わかった。ちなみに、パーティーだと誰か一人でも死んだら、全員やり直しだから――頑張ってね』
そう言って、通話が切れてしまった。
私たちは、追手から逃れるため、そして魔力を取り戻すために『不思議なダンジョン』へと向かうことにした。
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