第74話 護衛

 私たちは、あの後も情報屋以外に冒険者ギルドや街で一番大きな酒場などに赴いて情報を集めようとしたが、思ったような情報が得られなかった。

 むしろ、彼らから「情報が欲しいのなら」とオスカーを紹介される始末である。


「やっぱり、依頼をこなすしかないないか。でも、あれから音沙汰がないんだよね。そろそろ、私の方からせっついてみないとダメかしら?」


 テーブルに置いた端末の前で、うーんうーん、と考え込んでいると、突然、目の前の端末が震えだした。

 私は慌てて端末を拾おうとしたが、テーブルの上で暴れ回る端末を捕まえるのに時間がかかってしまった。

 幸いにも、端末はいまだに振動を続けていて、画面には大きく通話ボタンが表示されていたため、すかさずボタンを押した。


 画面が切り替わり、通話相手であるオスカーの番号が表示される。


 私は慌てて端末を耳に当てた。


「た、大変お待たせいたしました。リーシャです。お、おす、オスカーさんですか?!」

「あはは、仕事の電話じゃないんだから、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。といっても、内容は依頼の件だけどね」


 どうやら、やっと護衛の話が動いたらしい。


「むぅ、遅いですよ! 私は早く情報が欲しいんですからね!」

「ああ、悪い悪い。でも、情報を集めるのにも時間がかかるんだ。仮に今すぐ依頼が終わったとしても、情報を集め終わるまで時間をもらうことになるから」


 どうやらオスカーも情報を集めるのに苦労しているようであった。

 優秀な情報屋みたいなことを言っていたけど、案外大したことな……


「言っとくけど、情報自体は続々と集まっているよ。ただ、集まった情報を精査しないといけないからね。今は追加の情報を集めつつ、情報の信頼性を検証しているところだ」

「……私は何も言っていませんけど?」

「まあ、いいさ。なんか僕のことを大したことないと思っていそうだったんで、説明をしただけだからね」


 さすが、オスカーさん。素晴らしい情報屋だ!


「まあ、いいけど……。早速本題に入るとしよう。今回、護衛をお願いしたいのはイザベラ・ブルーコンドルだ。聞いているかもしれないけど、僕たち『後継者』は父親であるミスガルズ商会ではなく、それぞれ別の商会に所属しているんだ。僕はレッドフォックス商会の代表と言うことになっているね」

「でも、オスカーさんが作った商会ではないんですよね?」

「そう、前の代表が僕に譲り渡した形になっている。彼の息子は、僕の商会の傘下の商会の代表をやっているんだ」

「その息子さん、よく納得しましたね」

「もちろん、どういう結果になっても、最終的にはレッドフォックス商会は彼のものになるんだ。僕が正当な王となってもならなくてもね」

「なるほど、王となればミスガルズ商会の代表になり、なれなければ、そのまま追い出されるというわけですね」

「まあ、概ねそんな感じだよ。あるいは国王になれなかった場合は、彼との立場を入れ替えるということもある。これでも王族だからね。彼らとしても、国王になれなかったといって手放すのは惜しいと思っているのさ」


 私は、なるほどな、と思った。

 ライバルが王位を継承するとはいえ、国王の血筋というブランドは商売的にはおいしいものだろうし、将来的に国王に後継者ができなかった場合は自分たちの子孫が国王になる可能性もある。

 そんな美味しいパーツを利用せず手放すのは商人としてはあり得ないのだろう。


「それはそうと、彼女も『後継者』ですよね。ライバルを助けるようなことをしていいんですか?」

「問題ないよ。僕は『後継者』という枠に収まっているだけで、継承争いにかかわるつもりはないからね。そもそも、僕に商人は向いていない」

「そうですかね。情報を交渉材料に私を好き勝手に使っていることを考えると、商売向きな性格じゃないですか」

「それは、君がチョロ――僕の情報を喉から手が出るほどに欲しがっていたからさ。需要が高ければ、僕みたいな素人同然の人間でも商売は成り立つよ」


 なんか、私がチョロいって言われそうだった気がしたが、ツッコんだら負けな気がしたので、スルーすることにした。


「まあいいです。要するにライバルであっても助けるのは問題ないということですね」

「そう、僕の目的は後継者争いにおいて、商人としての適性とは関係のないこと――武力による争いを排除したいのさ。だからこそ、ベルネルが暴走するのを阻止したい。今は彼だけかもしれないけど、もし、後継者争いにおける武力の利用が有効であると証明されると、それこそ兄弟同士の殺し合いになってしまうからね」

「なるほど、要するに後継者争いにおける武力行使が意味ないと思わせたいと」

「そうなるかな。そんなわけで、今晩の護衛、よろしく頼むよ」


 そう言って、オスカーは通話を切ってしまった。

 私は、マリアとミラベルを呼んで、依頼についての情報を共有した。


「私は遠距離からライフルで援護射撃をするわ。マリアは侍女としてイザベラについてあげて。ミラベルはマリアの指示に従って支援魔法を頼むわ」

「「了解」です」


 私たちは、最初の依頼であるイザベラの護衛の為に、彼女の元へ向かった。

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