第73話 情報屋
フローラさんに案内されて向かった情報屋は大通りから外れた狭い裏路地にある雑居ビルのイメージを彷彿とさせるような寂れた感じの建物であった。
「ここが1個目の情報屋よ。ここはモンスターの情報に関してはスカイポートでも一番ね」
「へぇ。モンスターかぁ」
私は女神ってモンスターに入るのか、良く分からないが、ガイドの人が進めてくれたのだから間違いはないだろうと信じてみることにした。
前世でも情報屋は数多く接触したことがあるし、こんな感じの雰囲気の場所にも何回も立ち入ったことがあるため、雰囲気に呑まれることはなかったが、今回はフローラさんの紹介という形をとるため、フローラさんに主導権をゆだねていた。
フローラさんは情報屋の受付――一見しても場末の酒場のバーテンダーにしか見えないが――の人に合言葉のようなものを伝えると、その人は奥の部屋に少し引っ込んだかと思うと、すぐに戻ってきて、階段を上がって突き当りの部屋で待つように言ってきた。
「それじゃあ、いきましょうか」
フローラさんを先頭にして、私たちは指定されてた部屋に入り、ソファに座って待つことにした。
フローラさんは私に何か言いたそうにしていたが、彼女が何か言うよりも早く、奥側の扉が開いて、いかついおっさんが入ってきた。
「おいおい、なんでお前さんたちはそんな座り方をしているんだ?」
「え? 座り方がおかしいですか?」
部屋にあったソファは手前側の長いソファが1つと奥側の短いソファが2つだったので、フローラさんとマリアを手前側に、向かいに私とミラベルが座って待っていたのだが……。
「さっそく用件に入りましょうか」
「おいおい、ちょっと待てや」
そう言って、彼は手を叩いて部下を呼び出し、テーブルの左右に短いソファを置かせた。
「そこの二人はこっちのソファに移ってくれや」
「あ、座りたかったんですね。言ってくれればいいのに……」
私とミラベルが席を移ると、おっさんが私が座っていたソファに腰を下ろした。
おそらく、今はソファに残った私のぬくもりを堪能しているに違いない……。
「違いないじゃねーよ、そんなことするわけねーだろ!」
「なんでわかったんですか?!」
「そんな厭味ったらしい笑い方してたら気づくわ。まあいい、早速だが本題に入ろうか。どんな情報が欲しいんだ?」
「えーと、私の魔力が奪われてしまいまして、それを取り戻す方法について探しているんです」
そう切り出した私の顔を、怪訝そうな顔で見ながらおっさんは口を開いた。
「魔力が奪われるという例がないわけじゃねーが、基本的に奪った相手を倒すしかないんだよな。ちなみに、どのくらい奪われたんだ? 1割ほどか? それとも、半分とかか?」
「全部です」
「は?」
「いや、全部です。私のMPはもうゼロよ!」
「……何をしたら、そんな状況になるんだ?」
「魔力がすっからかんになる魔法を使わされました」
「ふむ、強制魔法使用による強奪か……。ちなみに、どいつに奪われたんだ?」
「星の女神です、もしくは魔王?」
「……冷やかしなら止めて欲しいんだが」
「いや、魔力がゼロなのはホントですよ? もしかして疑ってます?」
「もしそうだとしてもだな。星の女神とか魔王とか、ふざけてるとしか思えねーんだよ」
どうやら、このおっさんは私のことを嘘つきだと思っているようだった。
「ふざけてません。事実をありのままに伝えただけです!」
「それじゃあ訊くが、その星の女神とか魔王がどうやって魔力を奪ったんだ?」
その時、初めて私は経緯を全く話していないことに気づいた。
「そういえば、失念しておりましたわ。簡潔に説明しますと、魔王様が全力で私を殺しに来たので、私の生命と魔力を引き換えにした禁呪を使いまして、生命は星の女神様に戻していただいたのですが、魔力は奪われたまま戻らなかったのです」
彼は経緯を聞いた途端に押し黙ってしまった。
しばらくして、ようやく重い口を開いた。
「それは星の女神も魔王も関係ねーじゃねーか! アンタが禁呪を使ったのが原因だろ?! そんなの戻せるわけねーじゃねーか!」
「失礼な! 魔法とは己の魔力を神に捧げることによって奇跡を起こす技でしょう? つまるところ、禁呪を使ったこと、すなわち、全ての魔力を星の女神に捧げたということになりますよね?」
「そういう説は確かにあるが、それはまだ証明されていない理論だろ! 結局、使った魔法の問題であって、つまるところ原因はあんた自身じゃねーか!」
「そんな! 酷い!」
「まあ、いずれにしてもだ。ここにお前さんが求める情報はねーよ。わかったら、とっとと帰んな!」
にべもなく、おっさんは私たちを追い出してきた。
抵抗してもいいのだが、したところで情報がないのは変わらないだろうし、フローラさんのこともあるので、大人しく追い出されることにした。
「先ほどは災難でしたね。気を取り直して、もう一つの情報屋も当たってみましょう」
そう言って、フローラさんは私たちをもう一つの情報屋へと案内してくれた。
こちらは先ほどとは打って変わって表通りに面したきれいな建物である。
例えるならなんちゃらヒルズとか言いそうな感じであった。
「こちらはスカイポートヒルズという建物なんです。こちらの35階に情報屋があるんですよ。意外ですよね」
意外にも、そのままの名前であった。
私たちはフローラさんの案内に従って、35階へと向かう。
その情報屋はオシャレな不動産屋が、そのまま大きくなったような感じのオフィスになっていた。
受付も怪しげなおっさんでなく、清楚な感じの女性であった、中身はわからんけど。
「いらっしゃいませ。ダンジョンセントラルへようこそ。本日のご用件は何になりますでしょうか?」
「えーと、私がモンスターに魔力を奪われてしまったので、それを戻す方法を知りたいんですが……」
「なるほど、わかりました。そうしましたら、5番テーブルでお待ちください。すぐに担当の者が参ります」
私たちは5番テーブルへと案内され、すぐに担当の者がやってきた。
「こんにちは、本日は奪われた魔力を取り戻したい、ということですが……」
「はい、私が魔王と戦った時に禁呪を使ったせいで、星の女神に魔力を根こそぎ奪われたんです」
「……?! おっしゃっている意味がわかりませんが」
「えーと、私、魔王国の聖女をやっておりまして、聖女になる際に、魔王様と戦ったのですよね。全力の魔王様は強すぎて、殺されそうになってしまったので、思わず教わった禁呪を使ってしまったんです。そうしたら、生命と魔力を根こそぎ奪われて死にかけました。生命の方は星の女神との契約で戻ったのですが、魔力が戻らなくて困っているんです」
「そ、それは……。私どもには少々荷が重い案件ですね。ちなみに、どこか他の所に相談に行かれておりますか?」
「えーと、他の情報屋は断られたんですけど、オスカーさんという自称情報通の方とお会いいたしまして、彼の依頼の報酬として情報をいただけることになっているんです」
「オスカー?! って、あのレッドフォックス商会の?! いやいや、それなら依頼を達成するのが一番の近道ですよ。彼の情報網に敵う情報屋はありません」
私は、自称情報通だと思っていた彼が本当に情報通だったことに驚いていたが、そんな私に構うことなく、担当の人は席を立つと、私たちに出入り口の扉を指して言った
「フカシじゃなかったんですね」
「もちろんです。そういうことですので、お引き取りください」
こうして、私たちは2つ目の情報屋からも追い出されてしまった。
なんとなく、体よく追い出された気がしないでもないが、ここはオスカーに期待するしかないとわかっただけでも意味はあった、と思う。
「冗談かと思ったら本気なんですね。そんな情報はオスカー様くらいしか手に入らないですよ」
「あの人って、そんなすごい人なんだ」
「もちろんです。『後継者』の一人で、レッドフォックス商会の代表ですからね。それに加えて世界中の情報に精通しているので、依頼がひっきりなしに来るんですよ。情報は鮮度が命なので、1年待ちとかはありませんが、依頼できるかどうかは運しだいです」
どうやら、あの抜けたところのある青年は実はすごい人だったようだ。
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