第72話 案内人
過去の話は最初から一人称視点に書き換えているのですが、それに合わせて、ここから一人称視点を中心にして書いていきます。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は
そこには20人ほどの人の名前がずらりと並んでいた。
「あ、名前聞き忘れたわ」
私はここで、先ほど会った青年の連絡先どころか名前も確認していないことに気づいた。
「ま、まあ、上から順番に連絡を取ってみれば、どれか当たりになるはずよね」
当然ながら明らかに会社名や女性名のような連絡先だったり、問題のベルネルは除いてである。
そうして残った連絡先は全部で5件ほどになったので、一つずつ潰していくことにした。
トゥルルルル……
「はい、イーストエンド・ポーターのルイスです!」
「すみません、間違えました!」
予想外の反応に思わず通話を切ってしまった。
「なんで取引先の担当者を個人名で登録しておくかな……」
そう言いながら、次の人に連絡してみることにした。
トゥルルルル……
「もしもし、オスカーさん? あれ? 女性の声……?! どちら様ですか?」
「えーと、私、この端末を預かっているのですが、実は預かるときに名前を聞き忘れてしまいまして……。連絡を取りたいのですが……」
「なるほど、わかりました。それでは別の連絡先をお教えいたしますね」
こうして無事に連絡先を手に入れることができたのだが、よく考えたら、自分の端末を渡しているのに連絡先に名前があるはずがないのだと今になって気づいてしまった。
「くっ、結局は全部ハズレだったってことね。オーケーオーケー。私は冷静。さて、早速オスカーとやらにクレームを入れないとね」
トゥルルルル……
「あ、先ほどはどうも。すみません、先ほどは連絡先も教えずに……。よく私の連絡先がわかりましたね」
「それは片っ端から連絡取って聞きだしましたからね」
「え……、もしかして『彼女』に連絡したりしてないですよね?」
「うーん、もしかしたら……。あの人が、その『彼女』だったのかも。私が連絡したら、根掘り葉掘り聞かれたわ。怒っているみたいだったしね」
「本当ですか?! やばい、やばいよ……。殺される!」
そもそも女性に連絡していないのだが、連絡先のこともあって意地悪したくなった私は、ちょっとした意趣返しのつもりで揶揄ってみた。
ところが返ってきた反応は予想以上で、まるでこの世の終わりのような雰囲気になっていた。
「いやいや、冗談! 冗談だから! 連絡していない。大丈夫!」
「本当ですか? ……わかりました。もし、明日以降連絡取れなかった場合は、『彼女』の怒りを買ったものだと思ってください……」
「いや、ホントに大丈夫だから!」
ちょっとだけ揶揄ったつもりが、彼の精神状態を回復させるために2時間以上かかるという異常な事態を引き起こしてしまった。
お陰でマリアやミラベルに「男を拾ってきた?!」「修羅場? 修羅場なのね?!」などと、あらぬことを言われてしまった。
こうして、思いっきり時間をロスしてしまったが、無事に本題である案内人の斡旋をお願いすることができた。
彼――オスカーはすぐにガイドを見繕って私の所まで届けてくれた。
場所について伝えるのを忘れてしまったので、通話を切ってから再度、連絡を取ったのだが、「場所は端末の情報を渡すと特定できるから大丈夫だよ」と言われた。
確かにその通りで、自分の居場所を伝えていないにも関わらず、15分ほどでガイド役のおばさんがやってきた。
「初めまして、オスカー様のご依頼で、リーシャ様たちの案内を承りましたフローラと申します。ご希望などございましたら、何なりとお申し付けください」
「よろしくお願いするわ。こっちの子が、いい加減なガイドブックに騙されて荒れてたのよ。反抗期ってやつね」
「ち、違いますよぉ! テキトーなことを言わないでください!」
私は適当な説明をしたところ、ミラベルは頬を膨らませて怒り出してしまった。
もっとも、そんなミラベルの可愛さに私とマリアはほっこりしてしまうのだが。
「あらあら、もしかして『パーフェクト・スカイポート』を買ったんですか?」
「あら? 良く分かりましたね」
「もちろんですよ。あれって、店の目立つところに置いてあるので、訪れた方が良く買われるのですが、地元の人間からしたら『テキトーなことを書きやがって!』って怒りだすくらいのクオリティなんですよ」
「ふふん、私なんて地元の人間じゃないけど、『テキトーなことを書きやがって』って言っちゃいましたからね」
先ほどまで怒っていたミラベルは何故かドヤ顔でガイドブックに騙されたことを美化していた。
こうしてみると、どう考えても同い年に見えず、明らかに外見相応の年齢としか思えなかった。
「ちょっと、今、私のことを外見相応の年齢って思ったでしょ?!」
「イエイエ、滅相もないデス!」
なぜか思っていたことがばれていたので、慌てて取り繕ったが、彼女は私のことをジト目で睨みつけていた。
そんな彼女を後目に、私は話題を変えることにした。
「それじゃあ、まずは……この国の聖女のところに案内してもらえるかしら?」
「えっ?! それは……難しいですね」
「どういうこと? この国には聖女はいないのかしら?」
「い、いえ、いらっしゃいます。いらっしゃるのですが……。彼女は――風の聖女と呼ばれる方なのですが――あちこちをふらふらしておりまして、運が良くないと会うことができないのです」
どうやら、この国の聖女は常に行方不明らしい。
「え? 王族とかからの召喚があった場合はどうするの?」
「その時は、王宮から精鋭を国中に放って捕獲いたします」
「捕獲って……珍獣か何かなのかしら?」
「えっと、まあ、珍獣みたいなものでは、ありますね」
「でも、大人しく捕まるんですよね? それとも暴れたりするんですか?」
「いえ、逃げているわけじゃないですからね。来るように言えば素直についてきてくれますよ」
逃げているわけじゃないなら、監禁すればいいんじゃないかなと思ったので、その線で聞いてみることにした。
「それなら、王宮に監禁すればいいんじゃないですかね?」
「それは不可能です。風の聖女にふさわしく、彼女が一か所に留まっていると四六時中、嵐が吹き荒ぶようになってしまいますので……。実際に王が若かりし頃、彼女を監禁したこともあるらしいのですが、その嵐で首都は凄まじい被害を被ったらしく……。現在は彼女を束縛するものは即座に死刑となる法律が制定されております」
「ここって、一応は法治国家だよね?」と思ったが、裁判もなく死刑となると、国王が法律と言い張るような王国レベルの法律である。
むしろ、そこまでの法律を作らざるを得なくするようなやばい人間が聖女ということなのだろうと、私は聖女に会うべきか迷い始めていた。
「まあ、行方が分からないんじゃ、仕方がないよね。それじゃあ、情報屋みたいなところはあるのかな?」
「ああ、はい。それなら何か所かありますね。どのような情報をお求めですか?」
「ええと、魔力を取り戻す方法かな?」
「は?」
「うん、魔力を取り戻す方法」
「それはモンスターに奪われた。とかでしょうか?」
「うーん、ちょっと違うけど、だいたいそんな感じかな。奪ったのは星の女神だけど」
私が正直にありのままのことを言ったところ、ガイドの人は怪訝そうな顔をして手帳を開き、中を確認し始めた。
「うーん、星の女神、は置いておくとして。そういった事例であれば、モンスター関連かダンジョン関連ですね。ここと、ここあたりが良いのではないでしょうか」
そう言って、広げた地図を2か所指さしながら説明してくれた。
「わかりました。それでは順番に行ってみましょう」
私たちは、ガイドのフローラさんを先導にして、情報屋へと向かうのであった。
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