第67話 旅立ち
一週間後、リーシャたちは飛空艇の発着所へと来ていた。そこには、なぜか魔王であるヴェルをはじめとして四天王やカサンドラなど、魔王国の重鎮と言われるようなものたちが勢ぞろいしていた。
「みんな、何でこんなところにいるの?」
疑問を正直に話したリーシャに、全員あきれた様子でため息をついていた。
「いやいや、お主はこの国の正式な聖女じゃぞ? 一応、私に次いで地位が高いのじゃが。まあ、グランカイザーの例もあるから、イメージがわからんかもしれんがの……。あれは極めて特殊な例外じゃ。そもそも王族でありながら聖女であるにも関わらず、辺鄙なところで自由気ままにしおってからに。私も再三言っているんじゃが、なまじ地位が高い分、いうことを聞かなくてな……」
ヴェルはカイザーの話をすると、あきれた様子から徐々に落ち込んだ様子になっていった。周囲の人たちもリーシャにあきれるのではなく、徐々にヴェルに同情する雰囲気になっていった。
「カイザー様は……しかたないです。もう、あきらめましょう……」
カサンドラも見ていられなくなったのか、ヴェルを慰め始めた。しかし、ヴェルはカサンドラの慰めに、逆にやる気を掻き立てられたようだった。
「いいや、あやつは私が絶対に更生させて見せるぞ! よし、見送りが終わったら早速突撃するぞ!」
「魔王様。一応、この国の君主なのですから、そういったことはお控えください」
「むむ、ならば、魔王の座は四天王の誰かに譲るとしよう。どうじゃ、魔王となれば、優雅な生活が待っておるぞ?」
しかし、その魔王の呼びかけに応える四天王は誰もおらず、それどころか全員ヴェルから目をそらしていた。
「ぐぬぬ、どうじゃ、バッシャール。私の後継者とならんか? 謀略とか得意じゃろ?」
「ご、御冗談を。私に魔王様のようなことができるわけがないでしょう。私は長生きしたいのですよ」
「
「戦うってどういうこと? どのくらい挑戦者が来るのよ」
リーシャは魔王の仕事に興味を持ったわけではないが、気になったので聞いてみた。
「なに、魔王国の連中は好戦的な奴が多いのじゃ。そして、最強である私に挑もうという輩が多くての。だいたい1日に3、4人は来るのじゃ。まあ、戦うって言うても、1回は1分とかからんから、大したことはないのじゃよ。まあ、試合とは違って、闇討ちみたいなことをしてくる場合がほとんどじゃから、気配がわからん者ではたいへんかもしれんがの」
「魔王って、どこかの格闘家みたいなものなんですね……」
前世で「格闘家は常在戦場であれ」という漫画があったことを思い出しながら呟いた。
「ま、真に受けない方がよろしいですよ。あれは魔王様だからこその発言なのです。私やリーシャ殿では勝てないほど強い相手も稀におりますゆえ」
「え、でも四天王って魔王に次いで強いんじゃないの?」
「いくら魔族でも、上層部が脳筋ばかりで務まるはずはないでしょう。特に私は頭脳派なのです!」
「あれ? でも即死魔法使ったら、すぐに勝てるんじゃないの?」
「挑戦ですので、原則として殺してはダメなのです。しかも、あの魔法、殺せなかったら自分が死んじゃうじゃないですか! 魔王様がいれば生き返れるとはいえ、死にたいわけではありませんからね!」
最初の強キャラ感はどこへやら、ビビり倒しているバッシャールにヴェルが呆れたようにしていた。
「やれやれ、生き返れるのであれば、別に死んでもよいじゃろ? 普通に戦えばよいのじゃ」
「だーかーら! 私は即死魔法なかったら四天王で最弱なんですよ! 無理言わんでください!」
「自分から『四天王で最弱』とかいう奴がおるか! そもそも、そんな怖い顔をしているのにビビりすぎじゃぞ!」
バッシャールはいわゆるリッチという存在らしく、見た目は骸骨っぽい感じなので、確かに怖いのだが、それがビビり倒している姿は滑稽そのものであった。
「さて、お主らはこれからスカイポートへと行くのじゃが……。このところ、あの国はややきな臭くなっておるから注意するのじゃぞ」
「何かあるんですか?」
「私らもはっきりとはつかめていないのじゃが、あの国を建国した商売王トルネア・ミスガルズが1年ほど前から後継者選びをしていての。その7人の子供のうち、誰が後継者になるかで争っているのじゃ。もっとも、表立って戦争しているわけではないが、商売王は『最もこの国の王としてふさわしい者を後継者とする』と言っておるのじゃ」
「商売王っていうくらいだから、商売で利益を一番上げた人じゃないの?」
「ああ、商売王と言っても、それは彼の二つ名のようなものじゃからな。あの巨大な商業都市を冒険者から成り上がって一代で築き上げたつわものじゃ」
「なるほど、冒険者としても何かしらが求められている可能性があると」
「そういうことじゃ。しかし、基準がわからぬままでは打つ手も打てないわけじゃから、後継者やその取り巻きの中には競争相手を消そうとしている動きもあるらしいから、注意しておくがよいぞ」
どうやら、下手に動くと部外者であるリーシャも巻き添えを食らう可能性があるということらしい。そう考えたリーシャは、なるべく目立たないようにしようと心の中で誓うのだった。
「そんな無駄なことは考えなくてもいいんじゃないですかね」
そんな心を見透かしたかのようにマリアが話しかけてきた。
「もう、いいじゃない。これ以上、巻き込まれるのは勘弁してほしいのよ!」
「どうせ巻き込まれるんですから、あきらめましょう。それはそうと、そろそろ出発の時間でございます」
「お、もうそんな時間なのね。それじゃ、行ってきます!」
「おう、無事に戻ってくるんじゃぞ」
「それは保証できないかなぁ。巻き込まれそうだし……」
そう言って、リーシャたち3人はスカイポート行の飛空艇へと乗り込んだのだった。
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