第66話 褒美
魔法が使えない。その事実はホワイトナイト王国で生まれ育ってきたリーシャにとっては死刑宣告に等しかった。というのも、王国では主要なインフラが全て魔力ありきであったため、魔法が使えない、すなわち魔力を持たない者の生活というのは動物と同じことだからである。
「ま、まあ、そこまで心配する必要はないぞ。ホワイトナイト王国では魔法は必須だったかもしれんが、それ以外の国はカガクというものがあって、それによって作られた道具は魔力を必要としないからな。まだ、魔力が必要な道具も少なくはないが、普通の生活を送る分には問題ないはずじゃ」
「大丈夫ですわ、お嬢様のお世話は私がいたしますので」
「そうよ、ここまで付き合ったんだから、私もできる限り助けてあげるわ。感謝しなさい」
不安そうにしていたリーシャを慰めるようにヴェルが言う。それに付け加えるようにマリアとミラベルも彼女の力になることを表明した。魔力がなくなったことによる不安が全て消えたわけではないが、こうして自分の手助けをしてくれる仲間がいることによって、リーシャの心は平静を取り戻した。
「そうよね。それに、一生戻らないと決まったわけじゃないし。戻す方法も何かあったりするんでしょ?」
「うーん、ないわけではないのじゃが……。ほとんどおとぎ話のような話でな、詳しくは知られておらんのじゃよ。でも、スカイポートの連中であれば知っているものもいるかもしれんな。あそこは商売と冒険者の国じゃからな」
スカイポート、正式名称スカイポート通商連合国は世界中の資源を取引している大市場のある国である。またダンジョンも多く発生しており、世界中から冒険者と呼ばれる者が集まっているのである。
「はっきりしないけど、何もないよりはマシかあ。まあ、ダメもとで行ってみるしかないね。せっかくだから、冒険者になるのも悪くないかも」
「私もついていきますよ。お嬢様。特訓のおかげで足手まといにはなりませんし」
「も、もちろん私もついていくわ。回復とか必要でしょ? まさか、置いていくなんてことは言わないよね?!」
どうやら、二人ともついてきてくれるようで、それだけで今のリーシャにはありがたいことであった。
「どうやら、話はまとまったようじゃな。ちょうど一週間後にスカイポートとの定期便が出発する予定じゃから、それに乗っていくといいぞ。こんなこともあろうかと、既に座席は4人分確保しておるからの」
「すでに行く前提で話を進めていた?! というか、4人って――私たち3人だけど。まさかカサンドラさんも来るとか?!」
「いえいえ、私は魔王様のお世話がありますゆえ。残念ながら」
残念ながらと言いつつも、魔王様のお世話のせいで顔が緩みまくっていた。残念ながら、ではなくて、残念騎士ながら、じゃないのかと心の中でツッコミを入れつつ、生暖かく見守ることにしたリーシャだった。
「なに、予約だけしておいて、行かないとなったら、そのまま捨て置いただけじゃ」
「なにその、金持ち的な余裕感は!」
リーシャも今はお金には困らないほど持っているのだが、これまでの経験が彼女を貧乏性にしていたのである。
「まあまあ、気にするでない。私は魔王様じゃからの。それで、あとの一人は先ほど言っていた良い報せじゃ。我が国も、聖女と認定しただけで何も褒美を与えないなどということはないからの。お主には旅のお供として、こちらを用意したのじゃ」
そういって、先ほど出て行った兵士たちを伴って、巨大な狼が部屋に入ってきた。
「こやつは、
「うわぁ、もっふもっふだぁ。ごほん――えっと、名前か、名前ね。それじゃあ、ルナとかどうかしら?」
「わふっ!」
どうやら、名前については気に入ってくれたようで、しっぽをパタパタと振っていた。もっとも、こういう場合はよほど酷い名前でない限り、気に入ってくれるのがお約束だろうけど、そこはあえて気にしないことにした。前世の頃から殺伐とした世界にいたリーシャだったが、実は可愛いものが好きで、中でも「ゆるにゃん&もふにゃん」グッズはコレクターばりの収集ぶりであった。そんな彼女がルナを見てにやけそうになるのも無理のないことだろう。
「でも、ルナって大きすぎる気がするんだけど、席一つじゃ足りないんじゃない?」
「大きい方がええじゃろ? 3人乗せて走れる方が良いに決まっておる。それに席の方は気にする必要はないぞ。一応は魔狼じゃからの、大きさはある程度は小さくなれるから、1席あれば十分じゃ」
「ほほぅ、ルナ、小さくなって!」
リーシャが命じると、小型犬くらいのサイズになった。
「か、かわええ……。毛がふさふさ……。肉球ぷにぷに……」
「くぅぅぅん……」
ルナを抱きかかえながらあちこち撫でまわすリーシャに嫌がるそぶりも見せず、くすぐったそうに目を細めていた。
「ま、まあ、気に入ってくれたようで何よりじゃ。きっと、お主の旅の助けになってくれるじゃろう」
「魔王様、ありがとうございます!」
「それから、お前たちにも褒美があるぞ」
そう言って、お供の兵士がカバンと杖をそれぞれマリアとミラベルに渡した。
「まず、マリアのじゃが、こちらは
「これは素晴らしい。ありがとうございます!」
「それから、ミラベルのじゃが、こちらは水神クタアトという杖じゃ。神器として伝わっているものの一つじゃが……。この杖は水魔法による攻撃によって、生命力と魔力を奪い取ることができるようになるものなのじゃ。かつて、この杖を持っていた魔法使いが7日7晩、ゲートより溢れ出るモンスターたちを屠り続けたといわれる伝説の杖じゃ」
「なんと、ありがとうございます! 魔王様」
「まあ、回復魔法や支援魔法には効果がないから、注意することじゃの」
二人に与えられた品も、魔王国の国宝級のマジックアイテムであった。二人は受け取って、感謝の意を伝えた。
「旅立ちは一週間後じゃ。それまでは自由にしているとよいぞ。一週間後に王都の発着所まで来るがよい」
「「「はい!」」」
こうして、褒美を受け取った3人は魔王城を後にした。
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