第65話 聖女
「あれを受けても平気だったなんて……」
そう言って、リーシャはヴェルを警戒した。しかし、ヴェルは可笑しそうに笑いながら話し始めた。
「そのことなら、もう大丈夫じゃ。この姿を見ればわかるだろうに。お主の全力を受けて、私の魔力が発散されたのじゃ。おかげで、成長を止める必要がなくなったということじゃ。まあ、よもや、私を消し飛ばす程の力を持つものが現れるとはな!」
「いや、消し飛んだのに、なんで生きてるのよ!」
リーシャがツッコミを入れたところで、部屋の扉がノックされる。ヴェルは、外の人に入ってもよいと告げると、扉が開いた。そこには、かつてリーシャと戦った四天王がいた。彼らは部屋に入ると、リーシャを取り囲んで跪いた。
それを見て、ヴェルが話を続ける。
「前に話したかもしれんが、私や四天王は根源が破壊されない限り蘇ることが可能なのじゃ。四天王の根源は私であるから、私が死なぬ限り蘇るし、私の根源は魔王城そのものじゃから、この魔王城が完膚なきまでに壊されぬ限り蘇るのじゃ」
「それで蘇ったと、そういうことね」
「そうじゃ。そして、全力を出し切った私は、しばらくは力に押しつぶされることがなくなるじゃろう。」
「それはそうと、何でこいつらは跪いているの?」
「それはな、お主が聖女に認定されたからじゃ。もちろん、我が魔王国に於てじゃがな! グランカイザーと同じじゃよ」
リーシャは聖女に認定されたという事実に思考が停止してしまった。何より、聖女をやめるためにわざわざ国外追放までもっていったのに、聖女認定されたという事実を受け止めるには心の準備が足りていなかったのである。
「あ、ああ? いや、お断りします!」
リーシャは思考停止から復活するや否や、速攻で拒否した。それを聞いて、その場にいる全員が、マリアとミラベルを除いて、信じられない、といった表情をしていた。
「なんでじゃ? 名誉なことじゃろ」
「私は名誉なんて言葉に踊らされないわ! そんな言葉でこき使われるなんてまっぴらよ!」
リーシャの言葉にきょとんとしていたヴェルは、しばらく考えて得心が言ったのか、大笑いしながら話し出した。
「はっはっは。ホワイトナイト王国のような無法地帯と一緒にするではない。そもそも聖女であるグランカイザーを見ておるじゃろ。あやつも聖女じゃが、自由奔放に生きておったじゃろ? そもそも、聖女は単なる称号じゃ。それに義務が付随することはないぞ。それは他の国も同様じゃ」
「え? そうだったの? もしかして、私の国おかしすぎる?」
「何をいまさら。あそこの国がまともなところなんて何もないじゃろ? 何もかもがおかしい国じゃ」
確かに少しおかしい国であるという認識があったリーシャであるが、何もかもおかしいと聞いて、少しばかりショックを受けていた。
「もしかして、私もおかしかった?!」
「ん-。まあ、まともな方じゃろ。時々ズレたところはあるがの」
「まあ、二言目には戦えって言ってきていたヴェルにだけは言われたくはないんだけど……」
先ほどまでの戦闘狂のような振る舞いがなかったかのように言ってきたため、思わずツッコミを入れてしまった。しかし、ヴェルはさほど気にする様子もなく話をつづけた。
「まあ、あれは私も切羽詰まっていたからの。自分でもやばい奴じゃと思っておったんじゃ。かといって、やめる気もなかったがの。はっはっは。まあ、それはそれとしてじゃ。聖女の認定はうけてくれるかの? まあ、もう悩む必要はないかと思うが……」
「まあ、わかりました。引っかかるところがないわけではありませんが、受けてあげます」
「おお、それは何よりじゃ。功績を残した者に、見返りを与えないとなると、国の沽券にもかかわるし、何より、他の国よりも先んじて認定することに意味があるのじゃ。おっと、これは聞かなかったことに……」
「できるわけないでしょ! 聞いちゃったものはしょうがないってことで、きっちり説明してください。それと、見返りだったら金目のものが良かったです!」
どこまでも名誉より金のリーシャであった。
「やれやれ、あの国で名誉とか言ってさんざん絞られた反動じゃろうが、他の国であれば、名誉にお金もついてくるから、心配せんでもええ。それから、先に認定する意味じゃが、聖女の所属は最初に認定された国に帰属するのじゃ。だから、もし、お主が他の国で聖女に認定されたとしても、魔王国の聖女ということになるわけじゃ」
「なるほど、先にツバつけとくって感じですね。さすが魔王、さすまおですわ」
「はっはっは。そこまででもないわ。せいぜい褒めるがよいぞ!」
「この魔王ちょろすぎ……」
「ん? 何か言ったかの?」
「いいえ、なんでもございません」
そこまで話したところで、ヴェルがお付きの兵士二人に目配せすると、二人が部屋から出て行った。
「さて、ここで、お主に良い報せと悪い報せがあるんじゃが、どちらから先に聞きたいかの?」
突然、究極の2択を迫るヴェルにリーシャは若干戸惑ったが、すぐに決断した。
「聞いても聞かなくても一緒ですよね。それなら、悪い報せからの方がいいです」
「そうか、では、悪い報せの方からじゃが、お主が最後に使った魔法、これが術者の生命と魔力を使い果たすということは知っておるな? 幸いにも女神の加護のおかげで死ぬことはなかったのじゃが、お主の魔力は使い果たされたままなのじゃ。すなわち、今のお主の魔力はゼロじゃ」
「そんな?! 私の魔力低すぎ?!」
「普通の魔法であれば、使った魔力は休息を取れば回復するのじゃが、あの魔法は魔力の枠そのものも犠牲にする類のものだったからの。普通の方法では回復しないのじゃ」
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