第64話 星の始まり
リーシャが力の奔流を放つと同時に、ヴェルも収束した力をリーシャに向けて解き放つ。
巨大な星の力と闇の力がぶつかり拮抗していた。やがて、星の力が闇の力をも喰らい尽くす。力を増した星の力はヴェルをも飲み込もうとしていた。
「ぐぬぅ、何のこれしき!」
さらに出力を上げたヴェルは星の力を押し返そうとするも、ついには抵抗むなしく完全に飲み込まれてしまった。その光景を見たのを最後にリーシャの身体から力が抜け落ち、意識が暗闇へと沈んでいった。
「リーシャさん! しっかりして!」
「お嬢様! 大丈夫ですか?!」
二人の声が聞こえていたが、それも徐々に小さくなっていった。
リーシャが目を覚ますと、そこは浴室のようであった。そして、目の前にはあられもない姿のステラが立っていた。場所が場所なだけに怒っているような、戸惑っているような不思議な表情をしていた。しかし、リーシャは理由がわからず首を傾げてみせる。すると、顔を真っ赤にしながらステラが文句を言ってきた。
「ちょっ、ちょっと、何いきなり来ちゃってるのよ! あんたはデリカシーってものがないわけ? なんで、こう都合の悪い時にばかり死にかけてるのよ!」
「まあまあ、落ち着いて。私だって、狙ってやっているわけじゃないのよ。単なる偶然だわ」
「そんな偶然で、何回もハプニングが起こるかぁぁぁ! ぜえぜえ」
「落ち着きました? それじゃあ、とっとと戻してください」
怒り狂うステラは溜まったものを吐き出したおかげで冷静になったようで、始終冷静だったリーシャをジト目で見た。
「それで、今回は何があったのよ?!」
「えーと、魔王と戦っていたら、ピンチになったんで、自分の生命力と魔力を全て使うという魔法を使いました」
「え? それって――お前が自分で死にかけただけかぁぁぁ! あぁぁぁぁぁぁ!」
「うーん、まあ、一応そうなるんですかね? でも使ってなくても死んでたと思いますし。結果オーライってやつじゃないですかね」
リーシャは瞬く間に機嫌が悪くなっていくステラをなだめるために、全力でフォローを試みた。しかし、逆に火に油を注ぐ結果となったようだ。
「結果オーライじゃないわぁぁぁ! たしかに、契約でアフターフォローはするって言っていたけど、さすがにこれは乱用だわ! 今回限りでアフターフォローは打ち切りよ!」
「え、でも、契約が残っていますけど!」
「そんなの、この新しい契約書にサインしてもらうわ! ちゃんとアフターフォローについては削除してあるから、とっととサインしちゃいなさい!」
「いやいや、アフターフォローを削除しただけって、さすがにそっちが有利すぎじゃないですかね?」
一方的に要求を突きつけるステラに、リーシャもさすがに慎重にならざるを得なかった。しかし。ステラは新しい契約書をリーシャの前に出して言った。
「これにサインするまでは戻してあげませんから! リーシャさんに取れる選択肢は二つ、これにサインして戻るか、それともサインしないで、ここに残るか、です!」
「横暴な! じゃあ、ここに残りますね」
「えっ?!」
ステラの方も、まさか残るという選択肢を取るとは思わなかったのか、突然焦ったような表情となった。
「ま、まあ、そこまで言うのでしたら、私も鬼ではありませんから、譲歩してあげましょう。何か条件の希望はありますか?」
「えーと、大いなる運命の内容を教えてほしいのと、その内容を軽くしてほしいですね」
「いや、それは無理です。大いなる運命はリーシャさんの行動次第ですので……。うーん、それでは、力を貸すことは難しいですが、私の方から1日1回に限り、助言を与えられるようにできるというのではどうでしょうか!」
ステラが食い気味に提案してきたため、リーシャは内容を追加することにした。
「それじゃあ、微妙ですね。1日1回は私が好きな時に助言をもらえるということで、それ以外に困難が予想されるときは、事前に女神様の方から助言を送ってくれるようにする、というのはどうでしょうか? もちろん、その助言を怠った場合はペナルティとして解決するために力を貸すということで」
「ううう、わ、わかりました。 それでいいです! では、契約をしましょう!」
ステラは、新しい契約書を取り出してリーシャに突きつけた。リーシャは素直にそれにサインを入れる。
「こ、これで気が済みましたか?! では、お帰りください! 可及的速やかに!」
「いやー、せっかく来たし、もう少しゆっくりしていってもいいんじゃないですかね? ここも来納めでしょうから」
「いや、帰れや!」
ステラは帰りのゲートを開くと、リーシャをその中に蹴り入れた。ゲートに入ったリーシャは再び意識が暗転する。
リーシャが意識を取り戻すと、そこは天蓋付きのふかふかな豪華なベッドの中であった。
「リーシャさん?! 大丈夫ですか?!」
「お嬢様!」
リーシャが目を覚ましたことに気づいたマリアとミラベルが駆け寄ってきた。
「ええ、大丈夫よ。魔王の方は何とかなったみたいね。」
涙目で縋り付く二人を抱きしめつつ、落ち着かせるようにゆっくりと話しかけた。
「そうじゃ、まことに大儀であった」
偉そうな声を掛けられたので、そちらの方を向くと、黒いドレスを身にまとった15歳くらいの少女が立っていた。
「誰? この人」
「私のことを忘れたと申すか?!」
リーシャは少女の胸元を見た。そこは尊大な態度に反して非常に慎ましやかなものであった。
「こら! どこを見ておるのじゃ! 私はヴェルフェスルート、魔王じゃ! どうだ、あまりの変わりように驚いたか?!」
「うーん、思ったよりも変わってないわね……」
変わらず胸元を見ながらリーシャはそう呟いた。
「だから、どこを見ておるのじゃ! そこはまだ成長期だから、これから大きくなるのじゃ!」
「そうなんだ? って何で生きているのよ?!」
完全にスルーしかけていたリーシャだったが、あの魔法に巻き込まれてもなお生きていたヴェルに驚いた。
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