第60話 上位属性

リーシャたちが振り返ると、そこには栗色の髪をツインテールにまとめ、顔にはピンポイントで化粧がされ、黒を基調とした落ち着いた色合いではあるものの、ところどころにフリフリのレースが付いた服を着た背の高い筋骨隆々とした男と思しき者が立っていた。


「聖女様? ですか?!」

「あらん、私のことを知っているのね。そうよ、私は魔王国の聖女、グランカイザー・ヴァル・デモンズレアよ。カイザーって呼んでいいわ。よろしくね」

「えーと、ちなみに男性? ですよね??」

「え? これでも女の子よ。心は」

「心は、って、それって完全に男じゃないですかぁ!」


思わずツッコんでしまったリーシャであったが、カイザーは気にするそぶりもなく微笑んだ。


「ふふっ、細かいことは気にしちゃダメよ。それで、何の御用かしら?」

「えーと、聖女様に星属性について教えていただきたくて……」

「あら? あなた、星属性なのね。珍しいわね。わかったわ、お姉さんが手取り足取り教えてあげちゃう」

「いや、手取り足取りはちょっと……」


やや引き気味に答えたリーシャを見て、ふふっと笑うと話を続ける。


「うふふ、初心ね。冗談よ。光と闇、星の3属性は上位属性と言って、持っている人が少ないのは知っているかしら? この3属性は持って生まれただけでは力を使いこなすことができないの。それぞれの属性を司る神に触れることで下地が作られ、その力を開花したものに師事することで、力を自分のものにすることができるわ」

「え? でも、光属性の人もいましたが、神に触れるようなことはなかったと思います」

「いいえ、光属性の子は神殿に幼い頃に預けられるはずよ。そこで、徹底的に働かせられるわ。光の神は働いて働いて働きつくした人間に触れようとするのよ。特に聖女候補となる人間なら余計にね」

「確かに……。聖女候補は何故か平民から選ばれることが多かったですね。なるほど、平民であれば生まれた時から馬車馬のように働かせられてもおかしくない……。なるほど、そう言う理由だったのですね」


ホワイトナイト王国がなぜあれほど人々を働かせるのか、そして過去の聖女のほとんどが平民出身であったことの理由が分かって、すっきりしたような表情を浮かべる。


「そうよ。そして、星の神に触れるには、死と絶望の淵に立ち、救済を切望すること、よ。あなたもそうだったのではなくて?」

「確かに、そんな状況でした」

「そして、星の神はその救済に付け込んで、胡散臭い契約を交わそうとするの。それを契約すれば、星の神に触れたことになるわ。もちろんリスクはあるけどね。知っているでしょう? 大いなる運命について」

「ああ、そう言えば、そんな契約がありましたね。でも、大いなる運命というのは何ですか?」

「それは人によって様々よ。大きなものになると、世界を救う、なんてものもあるらしいけどね。おそらく、私の運命はあなたに星属性の力を継いでもらうということね」

「その程度で大いなる運命ですか?」

「ええ、力を繋いでいって、来るべき時に備えるというのも大事なことなのよ。あなたの運命は……契約内容から考えて、世界を救うレベルの高難易度なものだと思うわよ。まあ、せいぜい頑張りなさいな」

「めっちゃ他人事やん!」

「それは仕方ないことなの。大いなる運命は自分の身一つで受け止めなければいけないものなのだから。こうやって受け止めるための手伝いはできるけどね。代わりに受け止めることはできないの」


結局、自分で全てを受け止めなければいけないし、逃げることもできないとわかってしまったリーシャはこれまでになく凹んでいた。しかし、悩んでいても解決するわけではないため、前向きに受け止めることにした。もっとも、そこにはアフターフォローとして女神をこき使ってやろうという魂胆もあったのだが。


「それで、具体的にはどうすればいいのでしょうか?」

「焦らないで。あなたには、1週間、ここで特訓をしてもらいます。全ての課程をクリアした暁には、星属性を自在――とまではいかないけど、そこそこ扱えるようになることは保証するわ」

「わかりました。一週間、全力で頑張ります!」

「お仲間の方も特訓できるように、偶然にも水属性のマスタークラスの教授と、前第一騎士団団長、それと、魔王城の侍女長と執事長が来ていらっしゃるわ。彼らの教えを受ければ、あなたたちも彼女に肩を並べて戦うことも不可能ではなくなるわ」

「ありえないぐらい仕組まれたとしか思えない偶然なんですが……」

「まあ、仕組まれていたとしても良いわ。私も足手まといにはなりたくないし、特訓を受けますわ」

「メイドの極意を教えて下さる機会をいただけるなど、断る理由などございません!」

「げっ、また師匠にしごかれるのかぁ。力の衰えを感じて引退したんじゃなかったの?」

「ふがいないカサンドラさんに見かねて手伝いを申し出てくださったのですわ」

「わかりました。1週間だけ頑張ります。本当に1週間だけですよ?!」


リーシャは仕組まれていたことに遺憾の意を示したが、他の3人は仕組まれていたとしても、自分の力を伸ばす機会ということで、好意的に受け取っていたようだ。


こうして、4人はそれぞれの力を伸ばすべく1週間という短い期間ながらも特訓を受けることにしたのだった。

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