第59話 魔王国の聖女

バッシャールの召喚したアンデッドはゾンビを始め、グール、スケルトン、レイス、スペクター、ヴァンパイアなど多種多様であった。それらが一斉にリーシャに殺到する。


数は多いものの、リーシャとの実力差は圧倒的で、完全に多勢に無勢だった。リーシャがおもむろに取り出したガトリングが火を噴いた瞬間、バッシャール以外のアンデッドは倒れ伏して灰となった。


「さすがは星の御使。理屈は分からないですが圧倒的な力ですね」


ガトリングの嵐の中でも平然として会話をするバッシャール。しかし、リーシャはそのことよりも星の御使の方が気になっていた。


「ちなみに……その呼び方って広まっている訳?」

「ああ、もちろんですよ。国交のないホワイトナイト王国以外ではね。だからこそ、魔王様もリーシャ殿に望みを見出したのでしょう」

「食えないヤツだわ。見た目はロリなのに!」

「見た目で判断しない方がよろしいかと。ああ見えて千年以上生きておりますからな」

「魔王様、マジロリババアだったわ」


軽口をたたきつつも、激しい攻防を繰り広げる二人であったが、突如、バッシャールが結界を張って呪文を唱え始めた。


「――死界怨呪葬送デッドリィカーズ


バッシャールから放たれた黒い靄のようなものが、リーシャに当たった瞬間、リーシャの意識が暗転し始める。


「ふふふふ、これこそが私の奥の手。この魔法を受けて生き延びた者はいまだ一人もおりません。リーシャ殿、あなたも所詮は……」


バッシャールの声を聴きながら、リーシャの意識は完全に暗転した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ちょっ、ちょっと!」


ふかふかの地面に沈み込むような感覚。何やら声のようなものも聞こえるが、ここが天国なのだろうか。などとリーシャは夢心地のまま考えていた。


「ちょ、お、重い! 重いわ! えいっえいっ」


夢心地のまま、ゆらゆらと揺らされて、リーシャはさらに気分が良くなってきた。


「えいっ、おい! 起きろー! これは私のベッドじゃー!」


リーシャは強い衝撃によって起こされてしまった。どうやら、リーシャはベッドの中に入っていたようだった。


「あれ? さっきまで戦っていたと思ったんだけど?」

「それでか! アフターフォローはするとは言ったけど、頻繁過ぎじゃない?!」

「あれ? 星の女神?! ナンデココニイルノ?!」

「様を付けんか! ここにお主が来たということは、死にかけたということじゃろ? まったく、私は忙しいというのに!」

「え? でもベッドでゴロゴロしてますよね? 忙しいんですか?」

「ええい! ベッドでゴロゴロするのに忙しいんじゃ! まったく……ついさっき、力を与えて送り出したばかりだというのに、戻ってくるのが早すぎなんじゃ!」

「仕方ないじゃないですか。相手が強いんですから。今回なんて即死魔法ですよ。ヤバいですね」

「即死魔法程度、気合で耐えんか! まったく忙しい私に少しは休んでもらおうという思いやりはないのか?!」

「思いやりも何も……どうみても忙しそうに見えないですし、アフターフォローは契約の範囲無いので、今回もよろしくお願いしますね!」

「即死魔法程度でアフターフォローなんかあるわけなかろう! とっとと戻らんかい!」

「契約の範囲ですよ。それとも、ベッドでゴロゴロしていたのを邪魔されておこなんですか?!」

「ああ、もう! はいはい、おこですよ! というわけでお帰り下さい!」


そう言って、ステラはリーシャを蹴って空中に開いた穴に放り込んだ。そして、リーシャの意識は再び暗転したのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうやら、これまでのようですね。所詮、人間の力では魔王様にはおよびませんでしたか」

「くそっ! あのクソ女神め! 蹴って追い出すことないだろうが!」

「なにぃぃ?! 何で生きているのですか?! 確かに死んだはず……」

「まだ、死ぬには早いと蹴り返されましたわ! ……今度会ったら仕返ししてやるわ!」

「そんな馬鹿な! 私の奥の手の魔法を破るとは……ぐあああああ!」


リーシャが復活したことに驚愕していたバッシャールが突然苦しみだした。


「これは一体……」

「くそ、呪いの反動か……。この魔法は呪い。故に、効果を出せなかった場合、術者にそっくり返ってくるのですよ。まさか、このような小娘に破られるとは……」


そう言って、バッシャールは塵となり消えていった。一方、勝利したリーシャは事態についていけていなかった。それもそのはず、いきなりステラ星の女神のろくでもない姿を見せられ、蹴り出された挙句、戻ってきたと思ったら戦っていたバッシャールが驚いていて、直後に死んだのだから。


「さて、それじゃあ、聖女に会いにいきましょうか!」


リーシャたちは消化不良ではあったが、四天王を無事に討伐したということで、早速聖女に会いに砦の南にあるオアシスへと向かった。オアシスは砂漠の中に水場とヤシのような樹が数本生えている程度の小規模なもので、その水場のほとりには小さい小屋が立っていた。小屋と言っても、雨風をしのげる程度の簡素なもので、そこで人が生活しているなどとは到底思えないようなものであった。


「ここが聖女のいるところ? なんかボロい小屋しかないんだけど……」

「こんな所に聖女サマがいるの? 冗談でしょう。こんな所、人が住むような場所じゃないじゃない!」

「そうですね。生活している気配もないですし……。私たちは騙されたのでしょうか?」

「うーん、あのお方は人を謀ることはありますけれども、嘘をつくことはないはずなんですよね」

「嘘をつかないで、どうやって謀るのよ!」

「あのお方は言う内容を取捨選択しますし、もし、いう必要があった場合でも、どうとでも取れる内容に言い換えたりしますから」

「なるほど。だから、聖女の場所については嘘ではないということね」


リーシャはバッシャールの聖女に関する発言を反芻してみたが、この場所以外に解釈することは不可能であった。


「あらん。こんな所にお客さんなんて、珍しいわね。あなた方、何か私に御用かしら?」


これからどうしようかと途方に暮れていた4人の背後から話しかけるが聞こえた。

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