第58話 謀略
バッシャールは一瞬だけニヤリとしたものの、すぐにまじめな顔に戻って話しはじめた。
「まず、我々が勇者を殺そうと企むことなどありませぬ。それは意味がないことですからな」
「意味がない?」
「仮に、我々が勇者を亡き者としたとしましょう。さすれば、王国は新しい勇者を討伐軍として派遣することになるのです。それに……過去に勇者が敗北して殺され、別の者が討伐を成功させて王位についたこともあるのですよ」
こんな、なんちゃって魔王討伐ですらも、負けて殺されることがあることにリーシャは驚いた。
「ははは、驚かれるのも無理はないでしょう。何故なら敗北して殺された勇者はホワイトナイト王国の指示で殺されたのですからね。よくある王位の奪い合いですよ。敵対派閥の勇者を殺せば、自分の派閥の勇者が次の王となるのですからな」
「うっわ、やり方がゲスいわ!」
「それが政治ってものです。まあ、我が国は魔王様のおかげで、そういった心配はいりませんがね。そんなわけで、我々が独断で勇者を殺すことはありませんし、しても無意味なのですよ」
魔王討伐の結果まで王国主導で決まるという出来レースっぷりに、リーシャだけでなくミラベルやマリアも呆れていた。
「まったく、そんな実体だからヘタレな父が魔王討伐に行きたがったのですね。ますます失望しましたわ。もっとも――既に失望しかありませんでしたけれども」
ミラベル父の評価がゼロどころかマイナスになってもなお、急降下しているようだった。
「そこまでは分かったけど、じゃあ、なんで魔王は私に四天王の討伐を依頼したの?」
「それは、おそらくリーシャ殿が救世主になると思われたのでしょうな」
「救世主? どういうこと?」
「この世界の属性は、それぞれに神がおりまする。この世界とのかかわり方はそれぞれ異なりますが、闇の女神であるダクネス様は、魔王様を現身とされているのです」
「現身?」
「現身というのは、実体を持った神の代行者のようなものと考えてもらえれば良いかと。しかし、現身は神ならざる者の身で神の力を受けるため、定期的に発散させる必要があるのですが……。ここ100年ほど、勇者の質が劣化して発散させることができなくなっているのです。だから、勇者を殺す計画などは立てておりませんが、王国を転覆させる計画はしておりますぞ。まともな魔王討伐軍を編成できない王国に価値はありませんからな」
「そんな! 王国が滅びたら、そこに住んでいる人たちはどうなるの?!」
「計画では、王国が滅びたあとは魔王国の属国として再興させる予定ですな。今の王家はニセモノの勇者であり、真の勇者は別にいるという話を流布させております。王家が倒れた後は、その真の勇者を新しい王として魔王国の傀儡にし、魔王様に匹敵する力を持つものを育てるのです」
「結局、頭が変わっただけじゃない?」
「いえいえ、新しい王は魔王国の傀儡、すなわち、ルールも魔王国に準拠いたします。国民も今のように酷使されることはなくなりましょう」
それを聞いたリーシャとミラベルの目の色が変わった。
「それは是非とも協力しましょう」
「そうですわ! 共に憎き王家と、その金魚のフンの貴族共を一掃しましょう!」
「ああ、無情な現実にミラベル様が闇に染まっていく……」
協力的な二人であったが、ミラベルがますます過激になっていくのを見て、リーシャは心配になってしまった。
「話が逸れましたな。勇者が堕落してから既に100年。もはや一刻の猶予もありませぬ。そこで、リーシャ殿に協力いただいて、魔王様と我ら四天王を討伐してもらおうという次第でございます」
「でも、討伐したら死ぬんでしょ? まずくない?」
「ああ、心配は無用ですぞ。魔族たる魔王様や、その眷属である四天王は、その礎が滅ぼされぬ限り、すぐに蘇ることができるのです。魔王様を完全に滅ぼすには、魔王国を完全に滅ぼさねばなりませんし、四天王を滅ぼすには魔王様を滅ぼす必要がございます」
「要は、単純に倒した程度では気にする必要はないということね」
「左様でございます。さて、四天王も私で最後でしょう。この後は魔王様と戦っていただくことになりますが、その前にお約束していた魔王国の聖女の場所をお教えしましょう。私を討伐した後に、彼に会って星属性について訊かれるとよろしいかと」
バッシャールは魔王国の聖女の場所を教えてくれた。どうやら、この砦を南に少し行ったところにオアシスがあり、そこに建てられた小屋に住んでいるらしい。しかも、リーシャたちが砂漠探索の用意を十分にしていないことも知っていて、砦の中にあった砂漠探索用の物資を提供してもらえることになった。
「さすが四天王。どこかの残念騎士とは大違いだわ」
「そんなぁ。リーシャ様ぁ、酷いですよぉ。リーシャ様だって、この装備で大丈夫だって言ったじゃないですか!」
「私は砂漠とか探索したことないから知らなかっただけ、でも、カサンドラ。あなたは探索したことあるんでしょ? だったら知っていて当然じゃない」
「まあ、そうなんですけど……。まあ、ここで物資貰えることになったからいいじゃないですか! 過去のことをいつまでのグチグチ言ってても仕方ないです!」
「おまえが言うな! と言いたいけど。まあいいわ。それじゃあ、早速戦いましょうか」
「では、中庭に行きましょうか」
リーシャとバッシャールは中庭で向かい合う。そしてカサンドラとマリアとミラベルは砦の中から観戦しているようだ。ちなみに、中庭には屋根がついており、暑さにやられる心配はなさそうで、リーシャは安心していた。
「さて、ではお手柔らかに頼みますぞ。いざ尋常に! 勝負!」
そう言って、バッシャールは自分の周りにアンデッドたちを召喚した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます