第57話 死者の王

邪魔者は去った。リーシャはカジノのオーナーに、もう大丈夫であることを説明して、カジノを再び楽しむことができるようになった。申し訳ないと思ったので、これまでの勝ち分を返そうとしたが、オーナーに止められた。


「確かに、問題のある勝ち方だったかもしれません。しかし、勝ちは勝ちだ。これから純粋にカジノを楽しんでくれるなら、それで十分です。それに、あなたが大量のコインを持って、この部屋に入っているのを大勢が見ています。あなたが出てきたときにコインを持っていなかったら、他のお客さんが不審に思うでしょう。それによる損失は、そのコイン全てより大きいのです」


そのような説明をリーシャにした。カジノのオーナーが150%マシでイケメンに見えてしまうリーシャであった。


こうして、勝ったり負けたりを繰り返しつつ、リーシャたちはカジノを楽しんだ。リーシャは最終的には最初の倍くらいのコインが手元に残った感じになった。マリアとミラベルは最初と同じくらい、カサンドラは最初の1%が手元に残っていた。


「カサンドラさん……負けすぎです」

「うう、こんなはずでは……」

「ハズで勝てたら苦労はしませんよ、お嬢様は別でしょうけど」

「ドンマイ、500ゴールド残ったことを喜ぶべきよ」


落ち込んでいたカサンドラをマリアとミラベルが慰める。リーシャは思わず、その姿に合掌していた。こうして、カジノを思う存分楽しんだリーシャたちは、最後の四天王バッシャールの住む砦へと向かった。


街の中では、砂漠であることを意識することはなかったが、ひとたび街から出てしまうと、照り付ける強い日差しと、その日差しを照り返す一面の砂によって、リーシャたちはまるでサウナの中にいるかのような暑さに苛まれていた。


「ひぃぃ、あつぅぅぅぅい」

「焼けます! 灼けます!」

「これはヤバいですね……」

「し、じぬぅぅぅ」


4人とも、何の準備もなく砂漠へと繰り出してしまったため、照り付ける日差しと暑さに完全にやられていた。街までの道と異なり、砦までの道は砂で大半が埋まっているため、馬車が使えないというのも想定外であった。いや、正確には使えないのではなく、馬車で行こうとして街を出たのはいいものの、途中で馬は暑さで倒れ、馬車自体は砂まみれになって車輪が回らなくなってしまい、やむなく乗り捨てる形になってしまったのである。


「カサンドラ……なんでこんなことに気付かなかったのよ?!」

「いやあ、魔王様なら、この程度の日差しなど何ら問題ありませんでしたので……」

「あ、これは残念騎士だわ」


4人は死にそうになりながらも、ミラベルに水を出してもらい持ちこたえながら砦にたどり着いた。


「ふぅふぅ、やっと砦についたわ。ミラベルいなかったら、途中で力尽きていたわ」

「ぜえぜえ。そうよ、私が死に物狂いで水を出してあげたおかげなんだから。もっと感謝しなさいよ!」


ミラベル以外の3人は暑さにやられただけであったが、ミラベルは暑さに加えて、魔法の使いすぎで、顔色まで悪くなっていた。それでも、道中は全員の持っている魔力ポーションをがぶ飲みしてまで魔法を使ってくれたのだから、3人は心の中では感謝していた。もっとも、それを言葉やしぐさに出す余力はなかったが。


「はあはあ、休んで体力が回復したら砦の中に入るわよ。でも――もう少し休憩ね」

「ぜえぜえ、もちろんですわ。私が一番辛いんですのよ。あと2時間くらい休まないと動けませんわ」

「わかったわ。とりあえず、もう一回だけ水出して」

「ぜえぜえ、私の話聞いてました?!」


ミラベルは青い顔をしながら、水を出すように要求してきたリーシャを睨みつける。それを見たリーシャは「激おこなミラベルも可愛いわ!」などと考えていて、さらにジト目で睨まれるのであった。


「旅の方、お疲れのようですな。よろしければ、砦の中でお休みいたしますかな?」


回復に専念していた4人の背後から声をかけられた。振り返ると、そこには白髪白髭の男性が立っていた。


「誰?!」


突然の登場に警戒しながらリーシャが尋ねた。


「身構えなくてもよろしいですよ。私は名乗るほどのものではございませんが――シャールとでもお呼びください。見たところ、こちらの砦に用がおありのようで、ですが――その様子ではまずは体力を回復させないとでしょう。どうぞ、中は涼しくなっております」


そう言って、シャールは砦の扉を開けた。リーシャたちは警戒しつつもシャールの案内に従って、砦の中で休むことにした。


「どうぞ、こちらの部屋をお使いください。すぐにお飲み物もお持ちいたします」


そう言って、シャールは部屋から出る。そして、すぐに飲み物を持って部屋に入ってきた。


「どうぞ」

「「「「ありがとうございます!」」」」


シャールの持ってきた飲み物に警戒をしつつも、特に毒なども入っていなかったため、一気に飲み干した。


「それで、こちらには如何なる用事で参ったのでしょうか?」

「えーと、ここの主人であるバッシャールに会いに来たのよ。なんでも、この国に来ている勇者を殺そうとしているらしくてね。そうすると、魔王様としても困るから、止めて欲しいって頼まれたのよ」

「ふっはははは。なんと、そんなことを魔王様が? それはそれはお客様方、謀られましたな」

「謀る? どういうことよ?」

「申し遅れました、私、四天王の一人、バッシャールと申します。そもそも四天王の誰も勇者を殺そうとなど考えておりませぬ。魔王様もご存知ですぞ」

「え? でも、勇者が目障りだからって殺そうとしていると聞いたんだけど」

「まあ、どのみち、私とあなた方は戦う運命なのでしょう。その前に、種明かしでもいたしましょうか」


そう言って、シャールことバッシャールはニヤリと笑みを浮かべた。

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