第55話 新装備と死者の街

リーシャたちは、先日依頼した鍛冶屋に来ていた。幸運にも鍛冶屋は討伐軍の襲撃を免れており、無事に一週間後に完成品を受け取ることができた。カサンドラは言わずもがな、マリアとミラベルも侍女や聖女候補としてある程度は戦うことができる。3人とも、新しい装備を付けて、今までのものと比べて圧倒的に良い物だと実感したおかげか、楽しそうにしていた。


無事に装備を一新したリーシャたちは、最後の砂漠の街トトーリへと向かう。


「しっかし、砂漠の街なんて、辺鄙なところに住むなんて、変わった人たちもいるもんだね」

「そんなこともありませんよ。トトーリは別名、死者の街と呼ばれていて、死霊術で蘇った死者と、彼らと暮らしたいと願う人たちが集まっているのです」


何のことはない、死んでいるから砂漠でも平気だったということである。そもそも、死者をアンデッドとして蘇らせるのは死者への冒涜なんじゃ? などとリーシャが思っていると、カサンドラが付け加えた。


「えーと、死霊術というのは、死ぬ運命だった魂を呼び出す術なのです。体は死んでおりますが、呼び出した者の魂を体に縛り付けることで、再び生きることが可能となるのです」

「それってデメリットとかないの?」

「そうですね。聞いた話では一週間に一度、鬱になって死にたくなるらしいですが、それ以外は普通に生きているのと変わらないらしいですよ」

「地味に嫌なデメリットね」

「それでも、生前苦しんできて、穏やかな余生を過ごしたい人とか、生き別れた妻と暮らしたいという人たちが、暮らしていますね。蘇った体は基本的には生きている人と変わらないのですが、食事や睡眠が不要になりますので」

「食べたり眠ったりできないってこと?」

「いえ、必要がないだけで食べるのも眠るのも自由ですね。人によっては1か月の間お金をためて、1食に全てをつぎ込むという人もいるらしいです」

「……まあ、その人が幸せならいいんじゃないでしょうか?」


「幸せの形は人それぞれだしねッ」などとリーシャは思いながら、馬車に揺られてトトーリへと向かう。


数日後、馬車はトトーリの街へと到着した。死者の街と聞いて、もっとおどろおどろしい所を想像していたが、照り付ける太陽と煌びやかな衣装、陽気な住民と、砂漠でありながら、南米の雰囲気がそこにはあった。それだけではなく、道路はくまなく舗装され、超高層ビルが立ち並んでおり、街の中では砂漠感はゼロであった。


「あくせくする必要がなくなった人たちばかりなので、みんな陽気なんですよ。週一で鬱になりますけどね。よく、暗い街だと思われますが、実際はそんなことはないんです」


そう力説するカサンドラだったが、確かに、この光景を見てしまっては、その言葉があながち間違いでないことがわかる。


「それに、この街は娯楽施設が多いんですよ。ここのカジノなんて、いろんな国からお金持ちの人が集まってくるので、高級ホテルなんかも多いんですよね。金額も王都の倍くらいですが、サービスも非常に充実していますね」

「ほえええ、王都のあのホテルのさらに倍ですか?!」

「そうですね。最高級は1泊10万ゴールド約100万円ですよ」

「ふああああ、それはすごい」


あまりの凄さにリーシャの語彙力は著しく低下していた。実際にそのホテルを見ると、その異様さに呆気にとられてしまった。100階はあろうかという高さの建物、その屋上に飛空艇が鎮座しているのである。


「あの飛空艇は?」

「はい、最初の設計では、屋上の飛空艇でホテルごと移動できるようにする予定だったらしいですが、建物自体の重さが想定以上だったことと、ホテルごと飛ぶようにすると、基礎工事が不十分になってしまい、建築の許可が降りなくなってしまったので、上の飛空艇だけ切り離せるようになってるみたいです。……もっとも、30年以上飛んだことがないらしいので、飛ぶかどうかわからないみたいですけれども」

「それは危険だねー。どこかのアホが飛ばそうとして墜落する予感しかしない!」

「お嬢様! それは現実に起こりそうなので言わないでください!」


そのホテルも上層はたしかに1泊10万ゴールドだが、下層は1泊1万ゴールドの部屋もあるらしく、リーシャたちはせっかくなので、そのホテルの下層に泊まることにした。


「建物の見た目に反して、中はいたって普通の高級ホテルって感じだわ」

「当然です。中までヘンテコだったら、お金持ちの方が泊まりませんからね」

「なるほど、確かにそうだわ」


リーシャたちはホテルの中を散策していった。最高級ホテルというだけあって、ホテルの中に温泉やプール、カジノ、レストラン、カフェなど、外に出る必要のないほど設備が充実していた。


「せっかくだし、カジノにでも行ってみましょうか。でも、賭けすぎはダメですよ」

「「「おーー」」」


リーシャが好き嫌いがあるからなぁ、などと思いながら、恐る恐るカジノに行くことを提案したが、全員OKだった。どうやら、みんな行ってみたいと思っていたらしい。


早速、20万ゴールドを軍資金にするために、5万ゴールドずつ分けて手渡した。


「みんな、大事に使うようにね!」

「「「もちろんです!」」」


こうして、リーシャたちはカジノという戦場に降り立つのだった。

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