第53話 万色
竜種にとって、色というのは自身の属性であり、存在意義でもある。これは竜種にとって属性の影響が極めて強いことを意味していた。竜種の属性は、その属性に関しては自由に操れるのに対して、その属性以外は全く扱うことができないという極端なものであった。
人間の場合は、どの属性であっても、自分の属性は使いこなしやすい程度のものだし、それ以外の属性に関しても、多少の不便はあれど全く使えないということはなかった。
四天王の一人ドラグニルが万色と呼ばれるのは、竜種にあって、あらゆる属性を自由自在に操れることを意味していた。ドラグニルは6本の頭を持ち、それぞれが火、水、風、光、闇、星の属性を持っているのである。頭ごとに属性が分かれているとはいえ、1つの身体で全ての属性を操る彼はまさに竜王と呼ぶにふさわしかった。
しかし、それ以上に彼を竜王たらしめている理由として、その6本の頭のうち、1本でも残っていた場合、残りの頭が短時間で復活するというものであった。そのため、彼を倒すためには、ほとんど同時に6本の頭を潰す必要がある。あるいは、頭でなく身体にあるコアを破壊することでも倒すことができるが、竜種の分厚い鱗や非常に硬い肉や骨などを貫通して破壊するのは不可能に近い。
そんな竜王が現在リーシャたちの目の前にいた。宿に泊まっていたら、突然聞こえてきた爆発音に驚いて起きてしまい、何事かと外に出てみたら、この有様である。
ドラグニルの目の前には、おなじみ死屍累々となった討伐軍の兵士たちと満身創痍になったユーティア殿下とアイリスがいた。
「貴様が勇者か! まさか、このような暴挙にでるとはな……」
そう言って、爆発によって煙が出ている坑道を見た。まさかと思い、リーシャが彼らの方を見ると悪辣な笑みを浮かべていた。
「ふ、当然だろう! なぜ、我々がわざわざ火山の奥へと出向かねばいかんのだ! そんな我々に不利な場所で戦うよりは、こちらで戦った方が分があるというもの。それに、火山地帯で暑い思いをするのは嫌だからな」
要するに暑いのが嫌で火山に行きたくなかったから、大規模な爆発を起こしておびき寄せたという訳ね。それだけ見れば、頭脳プレイと言えなくもないが――今も坑道から運び出されているケガ人たちを見る限り、明らかに外道プレイであった。
「俺たちが安全に勝利するためだ。多少の犠牲は仕方あるまい。彼らも、俺たちのために死ねて本望だろう」
「そんなわけあるかぁぁぁ。ついでに、まだ死んでないわぼけぇぇぇ!」
完全に自分勝手な主張にブチ切れたリーシャはユーティア殿下のこめかみにドロップキックをかました。直撃した殿下は吹き飛んで岩壁に叩きつけられた。もっとも、ブチ切れた理由の半分は寝ていたところを起こされた逆恨みであった。岩壁にクレーターを作りながらめり込んでいたが、ピクピクと動いているので死んではいないようだった。
「ふん、仲間割れしても、この事態を作り出した罪は重いぞ! その身をもって償うがよい。――
ドラグニルが魔法を使うと、ドラグニルとユーティア殿下、そしてリーシャが特殊な戦闘用の空間に隔離された。
「ふふふ、これは我が全力で戦えるようにと作り出した勇者と聖女を隔離する魔法だ! さて、戦う覚悟はできたか? 狼藉者たちよ」
「異議あり! 私は聖女じゃない! そして、狼藉を働いたこいつとは無関係だ!」
ドラグニルの盛大な勘違いに、リーシャは思わず異議を唱えずにはいられなかった。
「何を言うかと思えば。言い訳とは見苦しいぞ! この魔法は勇者の魔力と聖女の魔力に反応して対象を決定するのだ。だから間違えて隔離されることなどない!」
「いや、マジで人違いなんですけど!」
そんなことを話しているうちに、ユーティア殿下の姿も消え去ってしまった。
「まさか、死んだか?!」
「いや、死んでも消えることはないはずじゃが……。というか、なぜお主は嬉々として言うのか」
「そりゃ、嫌いだからですわ」
「ふぅむ。よく分からんが。あの者も実際には勇者ではなかったようじゃな。直前にお主の攻撃を受けたことで、あの者に残ったお主の魔力が誤検知をしてしまったようじゃ」
「なんという不具合! ということは、私だけ? 勇者と聖女の二人じゃないの?」
「うーむ、勇者と聖女が同一人物であってはいけないという理由は無いからの。まあ、そういうことじゃろ。いい加減諦めて我と殺し合おうぞ!」
「一緒に遊びに行こう的な感じで殺し合いを言うの、やめてくれませんかね」
「まあ、良いではないか。いくぞ!」
ドラグニルの言葉を合図に戦いが始まった。まずはドラグニルの6本の首が、それぞれの属性のブレスを吐き出す。しかし、直線的なブレス程度で、今のリーシャに当たるはずもなく危なげなく回避した。
リーシャはナイフを次々と召喚してドラグニルの頭を一つずつ潰していくが、竜種の防御力と生命力の高さから、なかなか潰すことができず、潰しても復活してしまっていた。
「何これ?! 卑怯じゃん!」
「卑怯ではない! これこそが我が力ぞ!」
リーシャは仕方なく、ブレスや嚙みつきなどの攻撃を回避しながら、頭を潰していくが、ドラグニルの回復力に追い付くことができなかった。さすがのリーシャも延々と戦い続けることはできず、徐々に息が上がり、潰す速度も落ちていった。
「はあはあ。もう、これって、どう頑張っても勝てないじゃん!」
「もう終わりか。早いのう。そろそろ避けるのも厳しくなってきたんじゃないかの」
そう言って、再びブレスを吐き続けるドラグニル。辛うじて回避するも、リーシャの表情は苦痛に満ちていた。
「くそっ、これが……、あの
「呼びましたか?」
リーシャが悪態をついた瞬間、あの女神の声と共にリーシャの意識が暗転した。
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