第46話 王国の闇

そして、晩餐の時間になった。リーシャたちは食堂に案内される。既に食堂にはヴェルフィスルートやカサンドラ、ヨーゼフたちが座っていた。相手が魔王ということもあり、若干の警戒はしていたが、その必要はないとばかりに親しげに微笑みながら座るように促した。


座るとすぐに、豪華な料理が次々と運ばれてくる。その料理を食べながら、魔王が話し始めた。


「そうじゃのう、まずは光の神について話をしようかの。あの神がなぜ邪神と呼ばれるかわかるかの?」

「いえ、どちらかと言えば癒しや祝福を与える善良な神として信仰されておりますので……」

「確かにそうじゃの。だが、あの神の光属性魔法の禁術は知っておるか?」

「――傀儡の書?」

「そうじゃ、それこそがアレが邪神と呼ばれる所以である。もっとも、癒しや祝福も同じ理屈じゃがの。例えば癒しの力、傷ついた者を直して元気にすると言えば聞こえがいいじゃろ? しかし、元気になったら、また戦わないといけないとなったら? 祝福もそうじゃ。自分の限界を超えた力で戦わされるのじゃぞ。傷ついても、疲れても、心をすり減らしながら戦い続ける。そして心が擦り切れてしまったら傀儡にして戦わせる。そんな神が善良だとでもいうのかの?」


リーシャには前世の記憶から、その異常さが理解できた。


「確かに……。それは悪だわ。でも、それと王国と何の関係が? たしかに、王国では異様なほど光属性偏重だったし、主神は光の神だったけど」

「それが、わらわがあの国をテロリスト国家といった理由じゃ。かつて、あの国はこの国の一部だったんじゃ。もちろん、わらわが全部を見れるわけもないので、それぞれの街の領主に統治を委任していたのじゃが……。あの王家の先祖だった者が光の神に傾倒してな。光属性の魔法を使って、領民を働かせ続けたのじゃ」

「なんて……酷い奴らなの?! まあ、確かに王国の上の方は、そう言う感じだけども……」

「まあ、そう言うことじゃ。だが、この国では、労働時間に上限が定められておる。週40時間というな。それを無視して週150時間働かせておったのじゃ。当然ながら、わらわは労働待遇の改善を指示したのじゃが、全く聞かなかったのじゃよ」

「想像以上にゲスい先祖だったのね。そうやって国として認めさせたということね」

「そう言うことじゃ。わらわとしても無辜の民が犠牲になるのは良しとせんのでな。仕方なく国という檻を作って、あやつらを閉じ込めたのじゃ」


ホワイトナイト王国自体がDQN王家の隔離施設になっていたという事実は3人に暗い影を落としていた。


「しかし、王国の庶民は同じ犠牲者でしょう? なぜ、助けてくれなかったのですか?」

「それは本人たちが、あそこまで働かせ続けられていたにも関わらず、王国に行くことを望んだからじゃ。別の世界の知識を持つお主ならわかるじゃろ? 社畜? というのは自らの意思で社畜になるのだということを」

「うっ……。確かにそうなんだけど……!」

「いずれにしても本人があちらに付くという意志表示をしている以上、わらわにはどうすることもできなかったのじゃ……」


そう言って、魔王は少し気落ちしたようだった。


「まあ、王国になってからは、少しマシになったようじゃがの。それでも過労で身体を壊しては、光魔法によって癒される、ということを繰り返させることで、あの国では光の神の力が強くなっていったのじゃ。しかし、あの癒しの力は、お主の知識で言えば、栄養ドリンクみたいなものじゃ。『翼を与える』とか言って一時的には良くなるのじゃろうけど、長い目で見たら確実に身体を蝕んでいく、実際に光魔法による癒しや祝福は代償として寿命を少しずつ縮めるのじゃ」

「なるほど……だから王国の人は長生きする人が少ないのね。貴族たちを除いては」

「そうじゃ。そして、王国でお主のような者が地属性と呼ばれて蔑まれるのも、光の神と、その信者たちによるものじゃよ」

「そうなんですか? でも、光属性って優秀じゃないですか。わざわざ地属性を目の敵にする理由はないように思うんですけど……」

「光の神とその信者にとって、自らの神の属性である光属性が最上でなければならんのじゃ。だからこそ、勇者や聖女といった象徴を光属性に限定しておるのじゃ。そして、地属性もそうじゃ。あの国では地属性は格の低い人間の扱う属性だと言われておったじゃろ? 庶民の使うレベルの低い属性だと。」

「確かに、そう言われていましたね。それは嘘であったと?」

「そうじゃ。そもそも、地属性などという属性はあの国以外には存在しない」

「え? 属性って基本属性の地水火風と上位属性の光と闇になるんじゃないんですか?」

「違うぞ。基本属性が火と水と風があって、上位属性の光と闇がある。その上に最上位属性として星属性というのがあるのじゃ。お前たちが地属性と言っているのは実際には星属性という属性なのじゃよ。実際に、星属性――お主らの言う地属性を持つ人間は少ないじゃろ?」

「そう言えば、確かに基本属性の中で地属性を持つ人は少なかったかも。だからこそ、不当な扱いを受けていて、それに不満を言っても少数意見として取り入れられなかったのね」

「そう言うことじゃ。光属性も希少ではあるが、対となる闇属性が魔族にとって上位属性じゃからの。それに、魔王の支配から脱するための力として、闇属性と対になる光属性に頼ったというのも、上位として地位を維持できている理由じゃろうな」


今まで、自分の属性が最低と言われていて、しかし、実際に使ってみて言うほど悪くないと思っていたリーシャとしては、やっと納得することができた。


「なるほどね。だから、最低と言われていたけど、言うほど悪くないなと感じたわけね」

「ふっふっふ。甘いぞ! 星属性の本質は『言うほど悪くない』程度のモノではないわ。それこそ、過去に大聖女と呼ばれた者達は、みんな星属性だったのじゃからな」


どうやら、自分の属性は自分が思っていた以上に優秀なようであった。




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