第45話 謁見

翌日、リーシャたちが荷物をまとめてロビーに行くと、カサンドラたちが並んで待っていた。


「リーシャ様、ミラベル様、マリア様、おはようございます! ホテルの方はいかがでしたか?」

「おはよう、カサンドラ。最上級のホテルだったね。これより上もあるの?」

「もちろんでございます。各国の王族くらいしか宿泊されませんが、1泊で数万ゴールド数十万円もするホテルもございます。こちらは、それより落ちて1泊1万ゴールド10万円くらいですね」

「それでも高いわ! でも、サービスもいいし、納得の価格ね」


ホテルは豊富なルームサービスの他に、地下にジャグジーや大浴場、さらに会議室や屋内運動施設もあった。それだけではなく、女性限定のサービスとしてエステまでついているというのだから驚きである。


「ちなみに、勇者討伐軍の方はいつも最上級のホテルに泊まりますね」

「……」

「まあまあ、落ち着いて。私たちも良いホテル泊めさせてもらったんだし、ね」

「そうですね。失礼しました」

「さぁ、いよいよ対魔王戦ですね。頑張っていきましょう!」

「いや、謁見ですからね。くれぐれも、失礼なマネはしないでください」


魔王との謁見と言ったら、ラスボス戦じゃないか! などと考えていたら、思いっきりカサンドラに釘をさされてしまった。


馬車で魔王城へと向かう。王都の景色は活気に溢れていて、王国しか知らなかった3人にとっては、1日で興味が尽きる程度のものではなかった。風景を見ながら馬車に揺られること30分ほどで魔王城の前に着いた。


馬車から降りて、徒歩で謁見の間へと向かう。リーシャたちが謁見の間へと入ると、そこにはいかにも魔王様ですと言った風体の厳つい男が立っていた。


「ふははは、よくぞ参った! さて、さっそく儂と貴様との決着をつけようぞ!」

「あるぇ?! なんか戦う流れなんですが、どうなってるんですか?」

「ああ、もう。仕方ないです。ボコボコにして差し上げてください!」


何故か戦う流れになったと思ったら、魔王溺愛者であるカサンドラから全力で倒すように指示された。何はともあれ、許可をいただけたのでリーシャは全力で魔王へと飛びかかった。


「まあ、折角だし楽しまないとね! ――成型鉱石生成フォームドクリエイトマテリアル


リーシャは飛び掛かりながら、魔法で両手にナイフを作り出した。すかさず、魔王の背後に回り込み首筋と左の肩口に刺した。


「ふん、やるではないか!」

「このくらいじゃ死なないのね。じゃあ、今度のはどうかしら?」


再び魔法でナイフを作り出すと、今度はこめかみと右の肩口に刺した。


「ほほう、なかなかやるではないか!」

「これでもダメなのね。じゃあ、これならどうかしら?」


再び魔法でナイフを作り出し、左右の膝裏に突き刺した。


「この程度で儂を倒せるとでも? 片腹痛いわ!」

「この魔王、いったいどうなってるの?! まったくダメージが入っている気がしないわ!」

「リーシャ様、気にしないで、どんどんやっちゃってください」


こうして、魔法で次々とナイフを作り、体中に刺してみたものの、全く動じる気配すらなかった。既に魔王はほとんど全身にナイフが刺さっている状態で、まるで体毛のようであった。


「ふはは、もう終わりか?! そろそろ諦めても良いのだぞ、ん?」

「ふざけるな! 私は! お前を殺すまで! ナイフを刺すのを! やめない!」


最後の力を振り絞ってナイフを作り刺すと、魔王の頭がポーンと上に吹き飛んだ!


「おお、ハズレばかり引き当てるかと思ったが、やっと当たりを引き当てたか!」


その声は先ほどとは異なり、やや高い声であった。その声の方を見ると、吹き飛んだ魔王の首のところから、角の生えた幼女が顔を出していた。その幼女は魔王の身体から飛び出すとリーシャの目の前に降り立った。


「魔王様……なんども言いますが、初対面の相手にお戯れはおやめください」

「良いではないか。わらわは暇なのじゃ。それに、初対面じゃなかったら魔王じゃないとバレるじゃろ?」

「えーと……、魔王様?」

「おお、王国の聖女? いや、勇者か? いかにも、わらわこそが、この魔王城の主である、魔王、ヴェルフィスルート・フォン・デモンズネストであるぞ。まあ、わらわのことはヴェルと呼ぶがよい」

「ああ! 可憐にして凛々しきお姿! 我が愛しの魔王様でございます!」


そう言って、両手を腰に当てて無い胸を張る魔王ヴェルフィスルートだった。一方のリーシャは、あまりの想定外の連続に呆然としてしまう。しかし、隣で惚気ているカサンドラを見るに、彼女が魔王で間違いないようである。リーシャは何とか気を取り直して魔王に尋ねてみた。


「これが魔王?! たしかに定期的に討伐されるから、若いのは分かるけど――若すぎじゃない?!」

「何を言っておる。こう見えても、わらわは1200歳じゃぞ! 幼く見えるからと言って侮るでない!」

「え……? でも、前の魔王討伐って30年くらい前じゃなかった?」

「そんなの、馬鹿正直にわらわが相手をするわけなかろう。そもそも、そこらの人間がわらわに勝てるわけがなかろう。お前たちが魔王と思っていたのは、先ほど戦っていた『プロト魔王くんX』というロボットじゃ」

「なんですって?! じゃあ、魔王討伐ってロボットを倒しただけなの?!」

「倒した? いや、倒してはおらんよ。このロボットはそこそこ強いけれども倒せるように調整しておって、レベルにして30程度の強さしかないんじゃが……。最近の勇者は劣化が激しくてのう。頑張って倒そうとはしているようなのじゃが、あまりに弱すぎてのう。可哀想なので、適当なところで自爆させているだけじゃ。お主のように圧倒するどころか、互角に戦えることすら最近はないわ」

「なんという……そんなもののために王国は大金をつぎ込んでいたの?!」

「まあ、魔王討伐と言っても、ほとんど慰安旅行のようなものじゃろ? 我が国としても、それで大人しくしてくれて、適当にお金落としてくれるからの。WIN‐WINというヤツじゃ」

「WIN-WINって……。王国民は、そのために税金を搾り取られているというのに!」

「まあ、しわ寄せを受ける者がいるのは致し方ないことじゃの、もっとも他国の話なのでわらわたちにはどうしようもないのじゃがな」


恐るべき事実にリーシャだけでなく、ミラベル嬢とマリアも呆然としているようだった。いや、ミラベル嬢は怒りのあまり白目をむいてプルプル震えていた。


「まあ、その辺は後でゆっくり聞かせてもらうとして、なんで私を呼び出したの? 私は聖女でも勇者でもないけど」

「それはおかしいぞ。お主ほどの魔力があれば聖女として十分じゃからな。それに、その強さも勇者の資質の現れじゃ。そもそも、お主も王家の血を引いておるじゃろ?」

「たしかに、とっくの昔に分家したとはいえ、王家の血は引いているわね」

「そうじゃろそうじゃろ。儂からすれば、お主は聖女でも、勇者でも認められるということじゃ」

「でも、私の属性は地属性ですからね。聖女も勇者も光属性じゃないとダメでしょ?」

「え? 何を言っておるんじゃ? 聖女も勇者も属性とか関係ないじゃろ。本人の能力と性格の方が大事じゃ、当然じゃろ?」

「いやまぁ、そうかもしれないけど、王国じゃ光属性じゃないと駄目だったんだよね」

「ああ、あのテロリスト国家なら、さもありなんじゃな。もしかして光の神などという邪神を信仰していたりするのかの?」

「ええ? テロリスト国家? 邪神? どういうこと?!」

「ああ、王国の人間は知らんのか。まあ、食事でもしながら詳しく話してやろう」


そう言って、謁見が終了し、晩餐まで魔王城で待つことになった。

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