第44話 王都
リーシャたちは、特に問題もなくカサンドラたちと共に王都であるデモンズネストへとたどり着いた。そこは魔王城というイメージとはかけ離れた街であった。城壁の中に所狭しと並んだ商店があり、その先には白亜の巨大な建物が聳え立っていた。
「あれが魔王城? なんかイメージと違うんだけど」
「え? 魔王城と言えば、白亜の壮大なる城ということで有名なんだけど……」
おそらく王国以外での話だろう。魔王城はこういうものというイメージらしい。
ゲームで出てきた魔王城は、もっと廃墟みたいな感じだったのだが、これがゲーム補正というヤツだろうか……。
「それに……。全体的に街の中も明るいしねぇ」
「そうですね。下手したら王国よりも賑やかかもしれません」
「うーん、私の記憶だと、もっと魔王城は廃墟みたいな感じだったし、城下町なんてものは無くて、溶岩とか毒沼とかに囲まれているようなイメージだったんだけどなぁ」
「なんですか、その魔境みたいな場所は。魔族は確かに環境適応力は高いですし、国のさらに北の方には溶岩地帯、東の方には大森林、西の方には無限砂漠など、生活するには厳しい環境の場所が多いですが……。わざわざ、そんなところに街とか城とか作るわけないじゃないですか。知ってます? そういうところは建物の劣化も早いんですよ。魔族自身は平気でも、そんなところに建物を建てるなんて、お金の無駄でしかありませんよ」
妙に説得力のあるカサンドラの説明であった。確かに、魔族がいかに平気だとは言え、わざわざ僻地に住む理由にはならない。人間でも生きていけるとは言っても、スラム街にわざわざ家を買う人がいないのと同じようなものだろう。
しかし、それを差し引いても街の中の様子も王国の街とは比べ物にならないほど活気に溢れていた。王国では街の中でも一部を除いては殺伐としていたし、喧嘩のようなものも毎日のように起こっていた。そんなことを考えつつ、不思議に思っていると……。
「王都では特になんですが、商売にかかる税金が安いんですよね。と言っても、利益の10%程度は持っていかれますが、他の街だと15%持っていかれるので王都での商売は人気なんです」
「えっ?! 安すぎじゃないですか? 王国なんて、売上の50%持っていかれるんですよ!」
「あはは、そんなマフィアのみかじめ料よりも酷い税金なんてあるわけないじゃないですか!」
王国の実態を話したところ、カサンドラには冗談だとしか思われなかったようだ。だが、それが王国の現実だということを実感したリーシャ達であった。確かに、王国では売上の50%持っていかれるので、当然ながら小売のようなものがやっていけるはずもなく、売るのは生産者直売かせいぜいが卸売なのであった。
当然、卸売では価格が倍以上になるため、付加価値という名の詐欺が横行しているような有様であった。もっとも、王国民にとっては当たり前のことになっているので、誰も疑問に思うことはなかったのだが……。
「いやー、やっぱり王国から逃げ出して良かったわー。こんな良い所なら、永住したいぐらいだわー」
「そうですね。お嬢様!」
もっとも、リーシャ自身は公爵家であったため、王国でもさほど不自由はしていなかったのではあるが、現在は自由の身、こういったことも気になってしまうのである。
「えーと、そう言っていただけるのはとても嬉しいのですが――もっと安い国もありますしね」
「えっ? そんなところがあるんですか?!」
「はい、この国の北にあるスカイポート通商連合国は商人への税金が利益の5%になっていますね。しかも、各国へ直通の飛空艇を所有しており、世界中の物資が集まると言われています」
ここよりも商売に向いた国があることに驚いたが、彼女の話には、それ以上の驚きがあった。
「飛空艇? そんなものまであるんですか?」
「ええ、鎖国状態の王国では見ることはなかったと思いますが、それ以外の国家はスカイポートを通して飛空艇で行き来できるようになっているんです」
「ほええ、この世界が、ここまで、近代的だったなんて……」
前世の記憶があるリーシャにとっては、飛空艇自体に驚きはなかったが、王国の外に広がっている無限の可能性に驚いていた。
「私も驚いております。お嬢様」
「私もよ。リーシャさん。ここまで違いがあるなんて、婚約破棄突き付けてきて正解だったわ!」
二人とも新しい世界にご満悦のようである。これも、あの閉鎖的な王国の中にいたら知らないまま一生を終えていたかもしれない。などと考えると、リーシャはぞっとした。
街の様子を見渡す。活気づいた街はまるで3人を楽しい世界に誘っているかのようにとても魅力的に見えた。そんな様子を見たカサンドラが苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。
「どうぞ、今日一日は観光していきましょう。魔王様にも、どうせそうなるだろうから、と謁見の予定に1日余裕を見ておりますので。今日は観光の後に王都の高級ホテルを確保しておりますので、満喫していただきますと幸いです」
「おおお。魔王様、わかっていらっしゃる! 惚れてまうやろ!」
魔王様の人柄が見えて、リーシャたちの好感度は既に天元突破していた。
「王国では考えられない待遇ですね。あそこは無能な者は死ぬ気で働き、有能なものは全力で働け、がモットーでしたからね」
「それはおかしい、と私も前々から言っていたんだけどね。子供の戯言とか言われてた……」
「よしよし、つらかったね!」
「……その扱いはレディに失礼ですわよ!」
ミラベル嬢が凹んでいるように見えたので、頭を撫でながら慰めてあげたら、ジト目で睨まれてしまったリーシャであった。
「まあ、気を取り直して、あちこち見て回りましょうか!」
「「はーい!」」
こうして、3人は日が落ちるまで街中を見て回ったのだった。
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