第42話 旅立ち

リーシャたちが温泉を満喫している頃、ホワイトナイト王国の王宮では毎日のように言い争いが続いていた。


「ユーティア、お前、とんでもないことをしてくれたな! あの公爵令嬢金づるを国外追放にするなど、愚かにも程があるわ!」

「お言葉ですが、それはあなたも同意していたではないですか。あなたがいらっしゃって、国外追放を認めたからこそ、正式な処断となったのです!」

「知らん、儂はそんなこと言っておらんぞ!」

「そんなこと仰っても無駄です。あの時、ホールには人が大勢いたのです。その全員が、あなたが国外追放に同意したと認めているのです」

「そもそも、お前が最初にアイリスなどという小娘に誑かされて、彼女を国外追放にしなければ、こんなことにはならなかったのだ!」

「それは……。俺は、あのアイリスに操られていたんだ! だから、俺は無実だ!」

「ふん、操られていたと言うがな、誑かされたのと変わらんではないか!」

「俺の心はアイリスにはなかった。リーシャ一筋だったんだよ!」

「ふん、お前とアイリスが逢瀬を重ねていたことは、既に把握しているし、証拠も押さえている。お前が何を言ったところで、お前が誑かされたという事実は変わらん」


国王とユーティア殿下は毎日のように、リーシャを追放したことについての責任のなすり合いをしていた。もっとも、ユーティア殿下はアイリスに操られていただけだし、国王は気絶させられてユーノが代わりに言っただけなので、二人の言っていることは事実なのだが、お互いに疑い合っているため、その事実に気付かれることはなかった。


「もういい、お前とアイリスには魔王討伐に旅立ってもらう!」

「なんだと?! 俺を追い出そうというのか?」

「ふん、王位継承権のある王子である以上、魔王討伐は避けることはできない。別にお前を追い出して責任を押し付けるわけじゃないぞ?」


悪辣な笑みを浮かべながら言う国王の説得力は全くなかった。しかし、魔王討伐は建国より王家に課された使命であるため、拒否することはできないのだった。


「ああ、そうだ、手ぶらで旅立たせるのも悪いからな。これはささやかではあるが選別である。これを使って装備を整えるがよい」


そう言って、国王から旅の支度の資金として50ゴールドを渡された。


「こんなはした金でどうしろと! これではただの嫌がらせだ!」

「要らないならいい。いずれにしても、これ以上を捻出することはできんのだよ。国も資金繰りが厳しいのでね。あとは自力で何とかしたまえ」

「チッ、覚えていやがれ!」


そう言って、50ゴールドを受け取ったユーティア殿下は捨て台詞を吐いて玉座の間から出ていった。玉座の間の外ではアイリス嬢が不安そうな様子で立っていた。


「まったく、お前のせいでひどい目にあった。どうしてくれるんだ?!」

「何を仰いますか。先に手を出されたのは殿下の方でございますよ。それとも、殿下は自分の行いに責任が持てないヤリ捨て野郎だったのですか?」

「ふん、まあいい。いずれにしても俺とお前で魔王討伐に行くことになった。これは逃げることはできんからな」

「いたしかたありませんね。私の方が聖女に相応しいと証明して差し上げますわ」

「だが、まずは資金調達だ。宝物庫にいくぞ!」


宝物庫には二人ほど衛兵がいたが、ユーティア殿下のチートじみた強さの前にあっさりと倒されてしまう。そして二人は鍵を壊して中に入った。


「なんだ、厳しいとか言いながら、たんまり蓄えているじゃねーか! お、これは時空鞄マジックバッグじゃねーか。よし、これに全部つっこんでいくぞ! まずは金貨から、次に装飾品だ。それから、アイリスはそこの衛兵を操ってくれ!」

「操る? 私、そんなことできませんよ? 何を言っているのかワカリマセンネ!」

「チッ、とぼけやがって――まあいい、時間が無いから、回収していくぞ!」

「はーい」


そう言って、ユーティア殿下とアイリスは宝物庫にあるものを全て鞄にしまって城を抜け出したのだった。


城を抜け出した二人はすぐに冒険者ギルドへと向かった。


「おい、こいつで雇えるだけ雇いたい。ちなみに依頼内容は魔王までの護衛だ」


冒険者ギルドの受付で大量の金貨を出して高圧的に迫る。その勢いに受付嬢も圧されていた。


「すみません、今すぐというわけには……一人当たり10000ゴールド金貨30枚で、そうですね。金額的には100人でも大丈夫だと思いますが……。王都でも適正な人間は100人もいませんよ」

「王国内なら誰でも良い。適正なヤツを王国中から連れてこい! 何なら追加で報酬を払ってもいいぞ!」


ユーティア殿下の提示した高額な報酬の依頼は瞬く間に王国内の冒険者ギルドに伝わり、3日もすると、100人以上の熟練の冒険者が王都に集まってきていた。魔王城への護衛だけで30万ゴールド+αの金額はそれだけ魅力的であった。


こうして多数の冒険者を引き連れたユーティア殿下とアイリスは意気揚々とケイオスロード大魔王国へと旅立っていった。


彼らが旅立ってから数日後、王宮の宝物庫が空になっていることを知った国王は、慌てて二人に追手を放ったが、既に手遅れであった。もっとも、仮に捕えられたとしても、冒険者ギルドに前金として支払っていたため、手元に戻ってくることはないのだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る