第3章 魔王の城へようこそ
第39話 国境
リーシャたちは馬車を走らせて大魔王国との国境にたどり着いた。表立って戦闘が起きているわけではないが、一応は戦争状態である国のため、国境の警備は非常に物々しいものであった。幸いにも、ホワイトナイト王国と大魔王国の国境のほとんどは高い山に囲まれている。そのおかげで、壁が作られて物々しい警備が行われているのは、この街道とその周辺だけであった。
「そこの馬車、止まれ!」
国境の門を馬車で通り抜けようとしたとき、門の前にいた衛兵に止められた。衛兵は、不審そうな目でリーシャたちを見ると、強い口調で質問をしてきた。
「お前ら、ここから先へは許可された人間以外通ることはできん! すぐに引き返せ!」
「何を仰いますか、私たちは国外に出ることを許可されているのですよ。早急にどきなさい!」
「許可された者がいるとは聞いていないがな。そこまで言うなら証拠を出せ!」
「証拠? そんなものありませんわ! そもそも、私たちは王家の命令で国外に出なければいけないのですから。疑うなら、後で確認すればいいではないですか! それとも、ここで私たちを足止めさせて、後で罰を受ける方がいいのかしら?」
「な、なんだと?! 大人しくしていればいい気になりおって!」
どこからどこまでが大人しかったのか、分からなかったリーシャは肩を竦めてため息をついた。
「あらあら、どうされる気ですか? 私に危害を加えようとでも言うのですか?」
「当たり前だ! この国への出入りは厳しく制限されているからな。もっとも、この国から出てしまえば、どうせ魔物のエサだ! ならば、俺たちが美味しくいただいてから殺しても問題あるまい!」
「上もゲスなら下もゲスだった。まともなのはゲスリア公爵だけだったとか、王国終わってるな」などと考えながら、彼女を囲んでいた衛兵の頭にデコピンをかました。
ピピピピピ
高速で放たれるデコピンに衛兵たちは全員吹き飛んで、気絶してしまった。
「これで邪魔者は消えましたわね。ちゃんと生きてますわよ!」
そう言って、馬車は国境を越えて走り始めた。
「色々と慌ただしくてゆっくりする暇もなかったし、ここは国境近くにあるらしい温泉街に向かいますか!」
「いいですね。何でも美容に良いという温泉もあるらしいですよ」
「さっすが、マリア! わかってるじゃない」
「いえいえ、これもお嬢様がアレク様を紹介してくださったおかげでございます」
リーシャは国外追放されたときのことを考え、事前にマリアを連れて暗殺者ギルドに行ったのである。
「お前、また来たのか? 相変わらず暇なヤツだな」
「あら? 別にいいじゃないですか。どうせ貴方も暇なんでしょう?」
「お前と一緒にするな、と言いたいところだが、このところは仕事が減ってきてるしなぁ。お前は仕事の依頼か? 依頼が無いんだったら帰れや!」
「酷いですね。私はあなたのお財布ではありませんのよ。でもまあ、今日は依頼があって来たんです!」
「ほほぉ、誰を殺してほしいんだ? というか、お前なら大抵の奴なら自分で殺せるだろ?」
「そんな当たり前のことを聞かないでください! それに私は殺しはしませんから。今日の依頼は、彼女に国外の情報を教えてあげて欲しいんです」
依頼内容を聞いたアレクは呆れたように肩を竦めた。
「ヤレヤレ、お嬢さん? ここは暗殺者ギルドですぜ。暗殺する、ようは殺したい人が依頼しに来るの! 冷やかしなら帰ってくれ!」
「ふう、冷やかしなわけないじゃないですか。そもそも不思議なことに王国内だと国外の情報がほとんど手に入らないんですよ。それに、私が知っている中で情報が取れそうなのが、ここしかなかったんですよ。そ、れ、に! 報酬は弾みますから。ほらここに! 50万ゴールド持ってきましたよ!」
50万ゴールドの入った袋を見た瞬間にアレクの態度が急変した。
「おいおい、その程度のことでこんなにくれるのかい? いやぁ、ありがたいねぇ。息子の相手もしてもらっているみたいだし。おじさん頑張っちゃうよ! どうだ? 俺の息子も良い奴だろ? 結婚相手としても悪くないんじゃねーか?」
「いえ、お断りです!」
お金に目が眩んだアレクがさりげなく息子のロイドを薦めてきたので、速やかにお断りさせていただいたリーシャだった。迷いなく断られたアレクは一瞬落ち込んだものの、また機会があれば――といって回答を保留にしてしまった。
何とか、アレクのお陰で国外の情報をマリアに提供してもらった結果、国外の観光名所から、文化、政治状況など余すことなく教えてもらえた。おかげで、現在進行形でマリアが超お役立ちキャラと化していた。
「さすが、この短期間で一通りモノにしたのは凄いと思うわ。ホントにマリアが侍女で良かったと思う瞬間ね」
「勿体ないお言葉でございます。お嬢様」
こうして、リーシャはまずは国境に程近い温泉街であるクサッツに向かうことにしたのだった。
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