閑話3 ホワイトナイト王国建国物語
かつて、ケイオスロード大魔王国にいた人族は、魔族たちに虐げられていた。それはさながらに奴隷のようなものであった。ある者は休む暇もなく働かされ、ある者は闘技場で見世物として命をかけた戦いを強要され、ある者は慰み者として玩具のように扱われていた。
その人族の中の一人、レオニールも闘技場で毎日のように戦っていた。戦う相手は同じ人族の場合もあれば、強大なモンスターであることもあった。勝敗はどちらかが死ぬまで。すなわち、人族と当たった場合は、どちらかが必ず死ななければいけない、というものであった。
闘技場の奴隷は、労働奴隷と異なり空いた時間は闘技場の外に行くことができる。当然逃げることができないように魔法をかけられるのだが。それでも、多少なりとも自由な時間が持てるということを考えると、奴隷としては恵まれている方だと言えた。
その日もいつもと同じように彼は闘技場の外へと気晴らしに出かけていた。そこで、首輪を付けられて鎖でつながれた女性が魔族に連れられて歩いているのを見かけた。彼は、その女性のことが頭から離れず、その日は一日中、彼女のことを考えていた。
翌日、再び闘技場で戦う彼であったが、昨日のこともあり集中力を欠いていた。その結果、対戦相手のモンスターの牙に体を貫かれてしまった。突然訪れた死を前に、彼は強く願った。彼女を救いたい、そして魔族に虐げられた人族を救いたいと。
その切なる願いを一柱の神、光の神シャイニーが偶然にも聞き届けてくれたのであった。光の神の加護を受けたことにより、彼の身体にあった傷は瞬く間に癒され、それだけでなく、彼の身体はまばゆい光に包まれていた。溢れ出る力に任せてモンスターを切り伏せる。それに留まらず、彼から溢れ出る光は闘技場とそこにいる魔族ごと白く塗りつぶした。勇者が誕生した瞬間であった。
こうして光の神の加護を受けた彼は同じく虐げられていた人族と力を合わせ、魔族の慰み者となっていた女性シルビアを救い出すことに成功した。彼女も彼と同じように光の神の加護を受け、大いなる癒しの力を授けられた。ここに勇者の伴侶となる聖女が誕生したのであった。
勇者と聖女は各地で救い出した仲間たちと共に大魔王国の都市を次々と攻略していった。魔王側近である四天王たちも激しく抵抗をしていたが、光の神の加護を授かった勇者の敵ではなかった。こうして、残すところ魔王の住む都市デモンズネストを残すのみとなった。
勇者は、魔王との戦いは彼の力をもってしても、厳しい戦いになると予想していたため、彼は聖女を含む数人の精鋭のみを率いて魔王城を攻略することにした。勇者一行は身を隠しながら、魔王城に潜入していき、ついに魔王ルーファスと対峙することとなった。しかし、魔王の力は絶大で、光の神の加護を授かった勇者と聖女をもってしても全く歯が立たなかったのである。
次々と倒れていく仲間たち。ついには、勇者と聖女のみとなってしまう。必死で抵抗を試みるも、その力の差は歴然。あっという間に追い詰められた二人は死を覚悟した。
「申し訳ありません、光の神様。同胞たちを救うには私の力が及びませんでした……」
そう勇者が天に祈った時、二人の身体からさらなる眩い光があふれ出した。その光を受けた魔王は力に耐え切れず膝をついてしまう。
「レオニール! 神よ、勇者にさらなる光の加護を!」
聖女が呪文を唱えると、勇者の傷が瞬く前に消えていった。
「神よ、我らに人々を導く光を! 魔王の魂を打ち砕け!」
勇者が呪文を唱えると、勇者の光と聖女の光が交じり合って剣を輝かせる。その剣を魔王へと振り下ろすと、魔王の身体は真っ二つになって崩れ落ちた。
「やった! ついに魔王を倒したぞ!」
こうして魔王を倒した勇者たちであったが、魔王軍の残党を倒すだけの余力がなく、二人は現在の王都のある街まで撤退する。彼らに追いすがる魔王軍の残党であったが、統制を失った軍では二人を追い詰めることも、王国を攻めきることもできなかった。
こうして、勇者と聖女は魔王国の一部をホワイトナイト王国として独立させ、国王と王妃として王国を発展に導いたのだった。そして、奴隷として苦しめられてきた人族は王国で幸せに暮らしました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こちらがホワイトナイト王国が作られるまでの歴史です」
「うーん、なんか胡散臭いわね」
マリアが王国の歴史について説明をしてくれたのだが、リーシャにはどうにも胡散臭い話にしか思えなかった。
「そもそも、今の王国の人たちって聖女ほどではないけど、毎日12時間以上働いていますよね。しかも休みとか病気で倒れない限り取れないですし」
「それは仕方ないことなのです。いつ大魔王国から攻められるか分からない状況ですから。それに、これでも大魔王国で奴隷として働かされてきた頃よりも、かなり状況は改善しているのですよ」
「まあ、話を聞く限りでは、そうなのかもしれないけれど……。その割には貴族と庶民の格差が大きいと思わない?」
「そうですが、それは仕方ないことなのです。王家を始めとした貴族たちは、人々を大魔王国から解放するために命をかけて戦ってきた方々の末裔なのですから、庶民の人たちは彼らに敬意を尽くして働くことによって恩を返しているのです」
生まれてからずっとホワイトナイト王国で育ってきたリーシャであれば、その話で納得したのであろう。しかし、藍月理沙の記憶を取り戻したリーシャには、どこぞのブラック企業の偉い人たちがする話のようにしか聞こえなかったのである。
「ああでも、貴族でもスカーレットマーズ家だけは、その風潮を良しとしていませんね。領民にも手厚い支援をしているそうですし、今の貴族の在り方に疑問を抱いていて、王家にもたびたび進言しているそうですよ。おかげで、王家を始めとした貴族からは、邪魔者扱いされているようですが」
リーシャは、彼を暗殺したのは間違いだったのでは、と後悔しはじめていたのだった。
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