第30話 花火と夏の終わり
リーシャは先ほどの暗獄姫(女の子)のことがショックで落ち込んでいた。しかし、そろそろ花火が始まる時間ということで、3人は花火を見るために移動した。既に、花火会場付近には人がごった返しており。花火を見るのも大変なほどであった。
「仕方ないわね。――
リーシャは呪文を唱えると、足元に巨大な台座を作った。3人で座るには十分な広さなだけでなく、足は細くしているために邪魔にならず、しかも水晶で作っており視界を遮ることもなかった。
「これなら誰も文句言わないでしょ」
「そ、そうなんですけど。下に人が押し寄せているんですが……」
そこには上を見上げながらにやけた男たちが密集してリーシャたちを下から見上げていた。慌ててリーシャは視界が通らない台座に変更したおかげで、大事にならなかった。もっとも、下から少しだけ舌打ちがしたが、聞こえなかったことにした。
そんなことをやっている間に夜空に満開の花火が次々と上がる。贅沢に花火を打ち上げる様子は、前世の花火大会のようであった。
「しかし、こんなに惜しげもなく花火を上げるなんて。この世界も随分進歩したのね」
「何をおっしゃっているんですか。この花火はリーシャ様の功績によるものですよ。火薬の発明と炎色反応の発見によって、今では地属性魔法で簡単に花火を作ることができるようになったんですから」
「そ、そうなの?」
「前に、リーシャ様が作られた火薬の原料を元に、同じ材質で地属性魔法を作らせたところ、若干純度は落ちるものの、実用に足る火薬を製造することができるようになったのです。それに加えて、金属の炎の色が異なることを発見されたことで、火に色を付けられるようになったのです」
「ふ、ふーん。すごいね」
「まったく、完全に他人事じゃないですか。もし、ここでリーシャ様の素性がバレたら大変なことになりますよ。何せ、花火製造の創始者として崇められておりますからね」
「まあ、バレなければOK」
「若干、手遅れかと思いますけどね。この台座作った時点で、ほとんどバレてますよ」
確かに、下からは見えなくしたにも関わらず、周囲がやけに騒々しい。
「もしかして、あの方は炎魔王の御子様じゃないのか?」
「えっ?! あの花火を作り出したという」
「そうそう、そのために山を1つ吹き飛ばしたらしいぜ」
「いやいや、そんな馬鹿な?!」
「それが本当なんだよ。俺も見に行ったけど、山が吹き飛ぶどころか、地面に大きな穴が開いていたんだぞ」
「あれって、暗獄姫様がモンスターを一掃するためにやった、って聞いたんだけど?」
「そうだ、あれは暗獄姫様のお陰だぞ」
「何を言っているんだ? 暗獄姫様は炎神の
リーシャは「お前が何を言っているんだ?」と言いたかったがぐっとこらえた。そんな彼女の気持ちをよそに、下の会話はヒートアップしていく。
「しかも、あの穴はモンスターを倒すためじゃないんだ。花火を作るための実験の次いでにモンスターが一掃されたっていう噂だぞ」
「なんと! このような素晴らしい発明の片手間にモンスター共を全滅させるとは、さすが暗獄姫様ですな。いや、御子でもあらせられるのなら、この際、御子姫様とでもお呼びしようか!」
「そうだな、御子姫様万歳!!」
「「「御子姫様万歳!!」」」
下の人たちの興奮が最高潮に達したとき、花火の観客たちが一斉に万歳でリーシャを褒めたたえる。その彼らの近くでは、盛り上がりに花を添えるように盛大に花火が撃ちあがっていたのだった。
こうして、無事にお祭りを堪能したリーシャたちは宿に戻り、帰りの準備を始めた。
翌日、合宿の全日程を終えた3人は宿を後にして、王都へと馬車に乗って戻っていった。2人のレベルは合宿の前後でほとんど変わっていないが、対人戦を主体としたことで、モンスターと戦うのとは異なる経験を積むことができたようで、リーシャとしても合宿の成果には満足していた。
「合宿も終わったし、あとは夏休みが終わるまでのんびりするしかないよね」
「いやいや、合宿で十分のんびりしたじゃないですか。戻ったら、夏休みの残りは鍛錬しまくりますよ。もちろんリーシャ様もお付き合い願いますね」
「そうだな。合宿で少しのんびりし過ぎた気もするからな。これからは気合を入れていくぜ」
「うえぇぇぇ。正気? どこまで鍛錬したいのよ?!」
「もちろん、リーシャ様と肩を並べて戦えるようになるまででございます」
「そうだな。それくらいはできないと部活に入った意味がないからな」
「それって、永遠に鍛錬し続けなきゃいけないじゃないの! いやあああ、無理無理、無理ですって!」
こうして、合宿を終えたリーシャたちは、再び鍛錬のためにモンスターを狩りまくって夏休みを終えたのであった。
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