第31話 体育祭
このクリスタリア学園には、年に2回大きなイベントがある。一つは春の文化祭、そして、もう一つは秋の体育祭である。体育祭と言っても、リーシャが前世で経験したことあるような競技はほとんどない。名前だけであれば、障害物競走とか騎馬戦、玉入れなどはあるのだが、聞いている話だと、前世のものとはちょっと違うらしくクラスメイトと話をしても微妙に話がかみ合わなかった。
ともあれ、学園の体育祭の目玉は、武術戦と射撃戦、そして魔法戦と総合戦である。分かりやすく言えば、前の3つはジャンル別の対人戦であり、ジャンル不問としたのが総合戦である。いずれも参加者は各クラス1名で全学年のトーナメント戦で行われる。1学年あたり5クラスあるため、全部で15クラスが優勝を目指して戦う。
これらが目玉になっているのは理由があって、勝利クラスへのポイント配分が高いということがあげられる。1勝するだけで、他の競技で優勝するのと同じくらいのポイントが貰え、それが多ければ4試合分のポイントを稼ぐことができるのである。さらに、総合戦に関しては、1勝するだけで他のトーナメントの優勝分、すなわち4倍のポイントが貰える。そのため、どのクラスもこれらの競技に力を入れてくるのである。
「それでは、我が1-Aクラスは総合戦にリーシャさんが出場するということでよろしいですね?」
「異議あり!」
いつの間にか一番めんどくさそうな総合戦に参加することになっていたため、慌ててリーシャは異議を唱えた。
「私は総合戦に出たくありません。今回の体育祭は玉入れに出る予定です!」
「「「えっ?!」」」
自分の参加希望を申し出たところ、クラスメイト全員がリーシャの方を信じられない目で見ていた――解せぬ。ちなみに、彼女のクラスは武術戦が第二王子のガイゼル・クリスタ、射撃戦が彼の婚約者のユリア、そして魔法戦がアイリスが選ばれていた。
何故か主人公であるアイリスまでリーシャが総合戦に出るものと思っていたようで、他のクラスメイト同様に信じられない目で彼女を見ていた。だが、ここでいい成績を出すことは攻略に影響するはずなので、是非ともアイリスに総合戦に出て欲しいとリーシャは考えていた。
「私は! 総合戦にはアイリスさんが相応しいと思います!」
そう思って、総合戦にアイリスを提案したのだが、あまり同意を得られていないようである。「アイリス、お前のために提案してるんだぞ、なんでお前が一番不満そうなんだ!」などと思っていたが、努めて平静を装っていた。
「私がリーシャ様を差し置いて総合戦など、恐れ多いです」
「そうだそうだ、アイリス嬢は魔法は得意だけど、他はそこまでではないからな。総合戦は彼女には危なすぎる」
「私は危なくないんかーい……」
「いや、だって、一人で大氾濫止めた英雄ですよね? 心配するだけ無駄なんじゃないですか」
「あれは事前準備を怠らなかったからだからね。普通に戦ったらか弱い少女ですよ? 私は」
「うーん、でも他にも盗賊団をナイフ1本で壊滅させたという話も聞くし、それなら大丈夫だと思うけど」
「あの盗賊団はたまたまお腹の調子が悪かったらしくて、たまたま勝てただけだよぉ」
「あざとい、さすが忍者あざとい」
リーシャは、クラスメイトの誤解を解くのは難しいと思い、諦めて総合戦に出ることをしぶしぶ了承した。
「はい、総合戦に参加する我がクラスのヒーローはリーシャさんです! 拍手! パチパチパチ」
クラス委員の言葉に一斉に拍手するクラスメイト達。ここには彼女の味方は一人もいないようだ。
「ま、負けても知らないからね?!」
「まー、そんなことは負けてから言ってね」
リーシャは、まさかクラスメイト達が「彼女が勝てないのなら、自分に勝てるわけがない」と考えているとは、思ってもいなかったので少し拗ねていた。
こうしてクラスメイト達の参加種目が決まった頃、空気を読まないことで定評のある
「おい、お前も総合戦に出るんだろ?! 今度こそ、俺と勝負だ! 俺が勝ったら素直に聖女として魔王討伐して来い! そして俺に王位を寄越すん――」
「意味が分かりませんね。お引き取りください」
リーシャはユーティア殿下の話が終わる前に教室から放り出して扉の鍵をかけた。しばらくの間、ドンドンと扉を叩く音が聞こえたが、しばらくすると帰ったようで大人しくなった。
そもそも、聖女は王子の魔王討伐を手伝う役目であって、魔王を倒すのは王子の役目なんだが、どうやら彼はリーシャに魔王討伐してもらって、美味しい所だけ持っていくつもりらしい。何となく、せこいところが
そして、時は流れて体育祭当日。リーシャは総合戦の参加受付のために運営本部まで行った。そこには総合戦に参加する人たちが集まっていた。さすがは体育祭一の花形競技である。参加者は見た目だけで言えばリーシャなど相手にならないくらい強そうな人たちであった。
「あれ? 第一王子がいないな。どうせアイリス嬢と羽目を外して腰でも痛めたんでしょうね。ざまぁ」
「期待しているところ悪いけど、彼は総合戦の参加者じゃなくなったよ」
「誰?」
「ああ、初めましてだったね。僕は帝国から学園に留学することになったミハエル・オブシディアン・ドラゴンブラッドだよ。気軽にミハエルって呼んで欲しい。よろしくね、星の
「また、謎の称号来た?! 今度は一体何が原因なのよ!」
「ああ、ごめん。これは今の君についているニセモノじゃなくて、世界中で通じる称号だよ。今回、僕が留学に派遣されたのも、御使様にご挨拶するのも目的の一つなんだ」
「まあ、もうよく分からんから、勝手にして。それより第一王子が参加者じゃなくなったってどういうこと?」
「簡単な話だよ。総合戦の参加を巡って、僕と彼が決闘をした。そして僕が勝った。それだけのことだよ」
「じゃあ、あなたが総合戦の代表ってこと? 第一王子よりも強いってことなの?」
「君も知っているんじゃない? 彼が強いのはレベルが同じ場合に限るっていうことを」
「――もしかして、あなたも転生者?」
「いいや、違うよ。僕は特殊な鑑定眼を使うことができるんだ。もちろん、君のこともまるっとお見通しだよ」
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