第28話 勝負
「俺と勝負しろ! リーシャ・インディゴムーン!」
リーシャとユーティア殿下の戦いは、彼の一言から始まるはずであった。リーシャにしてみれば、合宿という名のバカンスだったので、仮に彼がいたとしても戦いを挑むつもりはなかったのだが……。彼の方は違うらしく、2日目の朝に早速勝負を挑んできたのであるが……。
「お断りします。お引き取りください」
当然ながら彼女にとって、お断り以外の選択肢はなかった。だが、その程度で引き下がるようなユーティア殿下ではなかった。
「ふふふ、断るのは分かっていたさ。だから、こちらも勝負の報酬を用意してあげたぞ。俺が勝ったら、お前が一日中俺に付き合うこと。お前が勝ったら、俺がお前に一日中付き合ってやる。」
「それは報酬とは言いませんから、お引き取りください。ほら、そこでアイリスさんも困っているじゃないですか。王国紳士(笑)がレディを放っておくなんて、風上にも置けませんわ」
「ふん、勝負から逃げようとするお前に言われたくはないわ。臆病者めが! お前の金魚のフンも似たようなものだろう? 雑魚どもめ!」
「わかりました。報酬とかはお断りしますが、勝負は受けて差し上げますわ」
自分が何か言われる分には気にしないリーシャであったが、2人を侮辱されて黙っているようなことはできなかった。相手の挑発と分かってはいたが、仕方なく勝負を受けることにした。
「それで、何で勝負しますの? くだらない内容でしたら、帰っていただきますわよ」
「ふふふ、今回は2対2のペアマッチだ! 俺はアイリスと組んで、お前たちを倒す!」
「わかりましたわ。上等です。では、こちらはミレイユとユーノさんにお願いしましょう。大丈夫ですか? ちなみに、これが今日の鍛錬です。」
「「問題ありません、リーシャ様」」
「何で、その二人なんだ?! お前は戦わないつもりか?」
「あら、何か問題がありまして? あなた程度、この二人でも十分ですわ」
「ふん、言ってろ! 負けて自分が戦えばよかったと言わせてやる!」
リーシャは第一王子との勝負を二人に任せることにした。ついでに鍛錬にしてしまえば、今日はずっとのんびりできるという打算もなくはないが、それはあくまでおまけである。
こうして、ユーティア殿下・アイリスペアとミレイユ・ユーノペアの戦いが始まった。開始直後、アイリスは殿下に強化魔法をかけると、殿下は二人に向かって突撃した。
「まずは1人!」
そう言って殿下はミレイユに剣を振り下ろす。強化された自身の力であれば、一撃で片が付くはずである――当たればの話だが。当然、剣が振り下ろされた頃には、ミレイユの姿はなく、剣は空を切っただけであった。
「まずは1人!」
剣が空を切ったのと同時に彼の背後から鈍い音と共にミレイユの声が聞こえた。直後、アイリスが倒れる。ミレイユの一撃により、あっけなく倒されたようだ。
「ばかな! 俺が見失った上にアイリスを倒されただと?! 俺のステータスは、こいつらよりも上のはずなのに……」
「それは驕りというものよ」
ユーティア殿下の言葉にミレイユが冷たく答えた。ゲームの世界が現実になったのであれば、ユーティア殿下のステータスは恐ろしく高い。ただし、それは同じレベルであればという話である。
彼は確かに異常なほど強いのだが、二人のレベルはリーシャほどではないにしても、30を超えているため、レベル1の殿下では手も足も出ないのは当然の結果であった。
当然ながら、2対1ですら厳しい相手に1人で勝てるはずもなく、それでも勇者の特殊能力で気絶しないため、瀕死になるまで二人にボコボコにされるのだった。勝負がついた後、アイリスを起こしてユーティア殿下を回復してもらった。すぐに彼の意識も回復したが、その表情は怒りに歪んでいた。
「リーシャ様。こんな感じでよろしいですか?」
「上等よ。どう? これで、あなたじゃ私どころか二人にすら勝てないことがわかったでしょ。分かったら諦めて帰ってちょうだい」
「くっそー、お前ら、覚えてろよ!!」
そう言って、走り去るユーティア殿下だった。アイリスも、それを追うように走り去っていった。
「やれやれ、イケメンっていう設定なはずなんだけど、あれじゃ形無しね」
「ですね。1年最強という噂でしたが、思ったより大したことありませんでした」
「まあ、あなたたちが強くなり過ぎただけよ。これも鍛錬の成果ってやつね」
「なるほど、やはりリーシャ様について正解でした。これからもよろしくお願いします」
「まあ、いいけど。今日はもう鍛錬終わったからゆっくりするわよ」
「「はい!」」
ユーティア殿下たちを見送って3人も宿へと戻った。
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