第26話 夏休み
学園は中間試験が終わると、すぐに夏休みに入る。試験の結果は夏休み中に講師の方々が頑張って採点し、休み明けに公表される。前世の記憶のあるリーシャにとっては最下位まで公開するのはどうかと思うとこもあるが、こればかりは学園の方針らしいので、仕方なかった。
ちなみに、リーシャが筆記試験と剣術試験は問題なく、魔法試験もアイリスのお陰で怪しまれずに乗り越えることができた。もっとも、入学試験の時と同様に『1割くらいの力で』と言われたのだが――この学園はまともに学生の力を伸ばそうとする気がないのだろうか。
ともかく、無事に試験を乗り切ったリーシャは「夏休みどうしようかなー」などとぼやきながら部室でのんびりしていた。
「お任せください! いい案があります!」
そう言って、彼女の背後からミレイユが声をかけてきた。
「い、いたのね。背後を取るなんてさすがだわ」
「いえいえ、殺気を出さないので良いのであれば、この程度朝飯前です」
「なるほど、それで『いい案』というのは?」
「はい、忍者部で合宿などでもどうかと思いまして」
「ああ、合宿ね。悪くないかも」
学園は夏休みなどで合宿する時のために、王国内の各地に宿泊施設を持っており、学生は予約すれば無料で使うことができるのである。ただ、昨今は帰省する者が多いため、あまり使われていないとのことであった。早速、海沿いの施設の予約をしようと予約状況を確認したところ、確かに予約はほとんど入っていなかった。リーシャは一週間ほど、その施設の予約を入れておくことにした。
「来週から1週間、予約入れておいたわ。ユーノにも伝えておいてね」
「「かしこまりました!」」
ミレイユとユーノ二人の声が同時に上がる。ユーノは既に部室にいたが、影が薄くて気付かれなかったようだ。さすが王国の誇る諜報部隊である。ともかく、二人ともOKのようなので、このまま合宿を進めることにした。特に何事も起こることなく、彼女たちは合宿当日を迎えることと――なればよかったのだが。
「ふははは、俺も行くぞ! リーシャァァァ!」
どこぞの第一王子がどこかで聞いたことのあるようなセリフを吐きながら、ユーティア殿下が部室に押しかけて来たのである。
「お断りします。お帰りください」
「まてまて、施設の予約は1名増やしてあるぞ。なんら問題ない!」
「いや、第一王子は部員ではないではないですか。第一王子はアイリスさんと仲良く遊びに行けばいいんじゃないでしょうか?」
「そんなことを言って、お前が俺に気があるのを知っているんだぞ! そんな態度を取っていいのか? ん?!」
「そんな妄想はどうでもいいので、早くお帰りください」
「おい! 俺はお前が俺とアイリスの仲が良くなっていくのに嫉妬してアイリスをイジメていたのを知っているんだぞ! まったく、そんなことでアイリスをイジメるなんて酷い奴だな。見損なったぞ!」
「そうですね、私は酷いんです。見損なわれちゃったんなら仕方いですね。なので、アイリスとの愛の巣にお帰りください」
そう言って、強引にユーティア殿下を部室から追い出すと、鍵をかけた。しばらくの間、扉を乱暴に叩く音と罵声が聞こえたが、無視して合宿の計画を3人で立てていたら、いつの間にか音がしなくなっていた。
「合宿、もといリーシャズブートキャンプ、楽しみです」
「そうだな。せっかくだし、夏の間に全力で鍛えたい」
「いやいや、合宿って言ってもメインは遊びですよ? なんで合宿してまで必死にならないといけないんですか?!」
「「えっ?!」」
二人には驚かれてしまったが、この部活はもともと彼女が
「あのね。強くなるためには、緩急が大事なのよ。短期間に密度の高い訓練をしたあと、長い時間ゆっくりと休息することによって、長時間訓練するよりも倍以上効果が出るの。だから、合宿中の鍛錬は1日30分、これを全力でやる。それ以外はのんびりするの」
「「なるほど! 素晴らしい考えです」」
説得の結果、鍛錬の時間は1日30分だけにすることができたようで、リーシャはほっとしていた。本音を言うと0にしたいのだが、そこは大幅に譲歩せざるを得なかったようだ。
「さて、そうと決まったら買い出しに行くわよ。食材にお菓子、おもちゃにゲーム、買うものはたくさんあるんだから。」
「「
こうして3人は合宿に必要なものを買い出しに街へと繰り出すのであった。
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