第23話 入部希望
無事に忍者部を開設したリーシャは早速、部員の勧誘を――するつもりはなかったのだが、どこから嗅ぎつけてきたのか、早速割り当てられた部室に大量の入部希望の申請書が机の上に積まれていたのである。
「昨日の朝に申請して夕方に許可が下りて、今日の朝に部室を貰えたので早速きてみたら……なんでこんなに大量の入部希望があるねん!」
さっそく部活という名目でだらける予定だったのだが、それを咎めるかのような大量の入部希望に、思わず語尾がおかしくなってしまった。しかし、せっかくの入部希望である、一応は目を通しておこうと思い仕分けをしていく。入部希望のうち、8割は既に他の部に所属していた。学園では原則として兼部はできないことになっていたため、これらの入部届はゴミ箱に投げ捨てた。残りの15名の入部希望だが、さすがに全員を入れるわけにもいかないため、入部テストを行うことにした。早速、入部テストの案内を15名の端末に送った。
その日の放課後、案内を出した15名は1人も欠けることなく部室に揃っていた。さっそく、入部テストの内容を彼らに伝えることにした。
「入部テストの内容はいたってシンプルよ。私に1発攻撃を当てるか、私に魔法などで防御させたら合格。1時間経ってもできなかったら不合格。面倒なんで、全員同時にやるから。協力するもよし、妨害するもよし、好きにして。攻撃は剣でも魔法でもOKだから、得意なのでいいわよ。以上、わかったら返事!」
「「「サー・イェッサー!!」」」
「よし、じゃあ、今から5分後に試験開始よ。範囲は学園内全域ね。」
そう言うと、リーシャは気配を消して部室から飛び出した。気配を消しても彼女を見失っていなかった3名は追いかけてきたが、それ以外の12名は突然消えたように見えたのか、呆然と部室の中に突っ立っていた。それでも、彼らはなんとか追いすがろうと3人を追いかけるように部室から飛び出していった。その飛び出していった12人のうち最後の3人が、部室を出た瞬間に突然倒れる。
「まずは3人。私をすぐに追いかけてきた3人は――一人は絶対に合格させないけど、あとの2人は有望そうね。」
そんな声がどこからか聞こえてくる。どうやら逃げたように見せかけて、部室の前に隠れていたようで、リーシャは一瞬で3人を昏倒させた。ちなみに、彼女をすぐに追いかけた3人のうちの一人はユーティア殿下であった。伝説とはいえ、一応勇者の子孫ということだろう。ゲームでも能力は群を抜いて高かったので、単純にステータスの高さでカバーしているものと思われた。
「どこだ? どこにいる!」
「まだ、遠くには行っていないはずだ! 探せ!」
そう言って、残りの9人もばらけていった。
「あらあら、9人がかりでも相手になるかわからないのにバラバラになるなんてね」
彼女は隠れながらそんなことを呟いていた。いずれにしても、あの9人では合格するのは難しいと考えていたので、さほど興味を抱いてはいなかった。彼らを見送った直後、背後から殺気を感じて慌てて振り向いた。
そこには、右手にナイフを持った少女が今にも彼女にそれを振るわんとしていた。咄嗟の状況だったため、彼女も反射的にナイフを持った腕を弾き、飛び退いて距離を取った。
「なかなかやるわね。合格よ。名前は?」
「あー、惜しかったな。一発は当てられるかと思ったのにな。私はミレイユ・ブラックパールよ」
「なるほど、さすがは王国の目と呼ばれるブラックパール家だけはあるわね」
「へへ、知っていたのか。もっとも、私もあまり部活には興味がなかったんだけどね。忍者って聞いて、見てみたくなったのさ」
「忍者をご存知なのですね」
「王国じゃ、あまり知られていないけどね。東の帝国の先にイーストエンド群島というのがあって、そこにいる偵察・諜報なんかを請け負っている人たちが忍者っていうらしいのよね。私も一度だけ遭遇したけど、手も足も出なかったんで、いつかはリベンジしてやろうと思ってたところに……」
「なるほど、ちょうど私が部活動を作ったと。そういうことね」
「そうそう、でもただ合格するだけじゃ、物足りないと思って一撃当てようとしたけど、今の私には無理だったみたいね」
そう言って、ミレイユは肩を竦めた。
「それじゃあ、私は部室で待っているから。残り頑張ってね」
そう言って、手をひらひらと振りながら部室に入っていった。
その後、最初に追いかけてきた3人のうちの1人と他の8人をあっさりと昏倒させたリーシャは他のもう1人も昏倒させるべく、背後から襲撃した。しかし、その少年はまるで後ろが見えているかのように絶妙なタイミングで屈むと振り返りつつナイフを構えて懐に入り込んできた。その意識の死角に入り込んでくるような絶妙な反撃に驚きつつも、咄嗟に彼の腕を支点にして逆立ちになり前転し、彼の背後に回ると同時に振り返って攻撃を繰り出した。しかし、その攻撃はほぼ同時に振り向いた彼の攻撃により止められた。
「なかなかやるわね。合格よ」
「あーあ、ギリギリまで油断してたみたいだから、行けるかと思ったんだけどなー。残念」
「最後の最後で詰めが甘かったわ。まあ、とりあえず名前を教えて」
「ユーノ・スタールビーだ。これまで一度も外したことなかったんだけどな。まだまだ実力不足ってことか?」
「そうね。その程度で慢心しているようじゃ、まだまだね。まあ、王国の耳と呼ばれるスタールビー家なら、そんな程度で終わりじゃないでしょ」
「まあ、そうだな。とりあえず、俺も部室で待ってるわ」
そう言いながら、ユーノはリーシャに背中を向けて部室へと歩いていった。
「さて、後は一番厄介な第一王子ね。どう料理してくれようかしら」
そう言って、リーシャは走り出した。
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