第22話 部活動
「はあ、またですか……」
リーシャは教室の席に座って、窓の外を見ながらため息をついていた。その原因は、今も教室の入り口に来ている部活勧誘2年生である。学園は部活動に関しては自由参加となっており、最初から入る部活が決まっている人は文化祭の前から入部して活動を始めている。しかし、そうでない新入生については、文化祭が終わってひと段落ついた、ちょうど今頃から、各部活動の2年生が使い走りのように入部していない生徒を勧誘に回っているのである。
もちろん勧誘と言っても、そこまで強引に行われたり、しつこく教室まで訪ねてくるなどいうことはない、普通ならば。しかし、リーシャは王国内でも知名度が高く、一部には熱狂的なファンもいるというアイドル的存在。もし、彼女を自分の部に入れることができれば、彼女のファンも一緒に釣れるだろうという魂胆で、彼女を勧誘しようと躍起になっているのであった。
部活動と言っても、新入生は基本的に使い走りとなるのが普通である。前世で散々こき使われた経験を持つ彼女にとって、わざわざ強制でもない部活動に入り、こき使われるなどまっぴらごめんであった。そのため、こうして勧誘しようと訪ねてくる人たちをバッサリと切り捨てているのだが、次から次へと勧誘が来るのである。ちなみに、バッサリと切り捨てていると言っても、物理ではなく言葉で切り捨てているだけである。
しかし、そんな対応をしているにもかかわらず、勧誘に来る人は日に日に増えていった。もはや一日に訪れる人数は学園内の部活動の数を超えていたし、切り捨てられるために訪ねてくるよく分からない人まで出る始末である。
「このまま部活に入らないと、ずっとこんな状態になりそうだしなぁ。かといって、部活入るのも面倒だし……どうしたもんかなぁ」
「いい部活がないなら、作ればいいんですよ。お嬢様」
「――その手があったか!でも、どんな部活を作ればいいんだろう」
「そうですね。作る人次第ではありますが――普通は得意なことか、好きなことを部活にする人が多いですよ」
「得意なこと……ねえ。無いことはないんだけど、許可が下りるかなぁ」
「大丈夫ですよ。学園は比較的寛容なので、私が通っていた頃は、調子に乗って悪いことする人を成敗する『そげ部』なんてのもありましたし。」
「変な名前の部活ね。活動内容からしても、良く通ったと思うわ」
「そんなのでも通るくらいですから、お嬢様のも大丈夫ですよ」
やはり持つべきものは優秀な侍女である。リーシャは先ほどまで悩んでいた問題の解決への道筋がみえたことで安堵していた。
翌日、リーシャは部活動開設の申請書を教務課に提出した。受付の人がざっと不備がないか確認して、受付の確認印を押す。
「こちら書類の方は不備が無いようですので、このまま預からせて審査の方をさせていただきます。結果につきましては、問題なければ今日の夕方には証明書をお渡しできる見込みです。問題がありましたら、端末の方に通知が送られますので、確認されましたら、こちらの方までお越しください」
「はい!よろしくお願いします!」
とりあえずは問題が無さそうだということで、一安心したリーシャだった。その日も、いつも通り勧誘の人たちが大挙して押し寄せていたが、彼女は入る部活を決めたことを伝えると、ほとんどの人は大人しく帰っていった。しかし、一部の人たちは彼女の入った部活が何部なのかを訊いてきたので、素直に答えてあげると1割くらいの人は興味を持ったようだが、それ以外の人は顔を青ざめさせながら帰っていった。
こうして、彼女がいつものように勧誘の人たちを追い払いつつ、昼休みを過ぎた頃、端末からポローンという音が鳴った。端末というのは、学園の生徒一人一人に配られる携帯用端末のことで、これにより生徒への通知や休講案内、学食の決済などを行うことができるようになっている。
リーシャは端末の通知を見ると、部活動の開設申請について話を聞きたいということで、放課後に教務課に来て欲しいということだった。さっそく、放課後に教務課に行くと、奥の応接間に通される。しばらく待っていると、老齢のおじいさんと、それより少し若いくらいのおじさんが部屋に中に入ってきた。二人の顔は既にリーシャは見覚えがあって、おじいさんの方が理事長で、おじさんの方が学長である。二人は彼女の向かい側に座ると、開設申請書を出しながら学長が話し始めた。
「この申請書だけどな――これはさすがに許可できんよ。あんたは有名人じゃからの、よほど酷くない限りは許可するつもりだったし、これもできれば許可したいところなんだけども……」
「何でですか? ちゃんと申請内容もきちんと書いてありますし、特におかしいようなところはありませんけれども」
「内容はちゃんと書いてある――書いてあるんじゃが、さすがに『暗殺部』は許可できんよ。活動内容も『気付かれないように相手を殺す技術の研究と実践』とか『暗殺に必要な情報収集、潜入、毒物などの研究と実践』とか、そう言う内容だとさすがの儂らも許可できんのじゃ」
「でも――私が得意なことと言ったら、これくらいしかないのに……学校は若者の可能性の芽を摘もうというのですか?」
「いや、そんなつもりはないのじゃが、この部活動が公になって叩かれるのは儂らなんじゃ……。そこのところ、何とか汲んでもらえんかの。特に『殺す』と入っているのが問題なのじゃが、それを外せれば何とか……」
「なるほど、『お亡くなりになっていただく』とかでもダメですか?」
「それは、意味が変わっていないじゃろ? そういった意味の内容は入れないでもらいたいんじゃ」
「わかりました――それでは『忍者部』とでもしましょう。活動内容は――『気付かれないように相手と戦う技術の研究と実践』と『隠密に必要な情報収集、潜入、薬物などの研究と実践』でいかがでしょう」
「ふむ、まあ、それならいいじゃろう。では、それで申請を許可しておくぞい」
「ありがとうございます」
こうして、リーシャは新しい『忍者部』を作ることに成功したのだった。
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