第15話 お茶会と前言撤回
そうしてやってきました王家主催のお茶会。リーシャは明るい青みがかったドレスを着て馬車に乗っていた。今日は王家主催ということで、王宮から迎えの馬車がやってきて、そこに彼女と侍女のマリアが乗る形となる。
「お嬢様、緊張しますね!」
「いや、全然」
確かに彼女の身体は15歳のものであるが、精神は前世の20歳分足されて35歳なのである。当然ながらお茶会の相手も15歳である以上、彼女にとっては全員子供扱いである。王族と上位貴族とはいえ、所詮は子供である。何よりも、仮に自分がちょっとやらかしたとしても、「子供のやったことだから」と許されるのである。そんな状況でいくら初対面とはいえ、緊張などするはずもなかった。
「お嬢様――何かやらかす前提で考えていないでしょうね? ダメですよ。許されるからと言って」
「もう、鋭いな! 大丈夫だって。貴族って言っても、大人な私から見れば、みんな子供じゃん。余裕しかないですよ」
「私は、嫌な予感しかないですよ……」
そんな他愛のないやり取りをしている間に、馬車は王宮の中を走っていた。今回は馬車も王家からのお迎え馬車なので、門番もスルーなので二人とも王宮に入っていたことに気付いていなかった。公爵家の馬車だと、ほとんど顔パスとはいえ、毎回毎回、門番に確認の手続きがあるので面倒なのである。
「王宮に入ったし、もうすぐ到着ね」
「そうですね。お嬢様。本日参加される方はいずれも高貴なお方でございます。くれぐれも失礼のないようにお願いいたします。家の品位にも関わってまいりますので」
さすがは王家主催の中でも一際重要なお茶会である。マリアも彼女が迂闊な行動をしないように念を押すのも納得である。そうして、王宮の入り口の前で止まった馬車から降りる。
「あー、さすがに体がバッキバキだわー」
「お嬢様、そう言うところです。淑女にあるまじき行動はお控えください」
「はいはい、了解っと」
ため息をついたマリアを見なかったことにして、王宮に入り、用意された控室へと向かう。控室でドレスや化粧を軽く整えると、執事の人が準備ができたことを知らせに来てくれた――。
「お嬢様、急いでください。お嬢様で最後ですよ」
「急いでますって、でも、ここで転んだらまずいでしょ」
「それはそうです。絶対に! 転ばないでくださいね」
気合いを入れて会場に向かおうとした彼女は、部屋を出る前に盛大に転んでしまい。ドレスと化粧がぐちゃぐちゃになってしまったのである。慌ててマリアが整えてくれたが、結局一番最後になってしまったのだ。
「本来なら、ユーティア殿下より先に行っていないといけないんですが」
「でも、彼って婚約者でしょ? 待たせておけばいいんじゃない?」
「いやいや、一応王家に連なるものですので」
「だから、急いでいるんでしょうがー!」
そう言って、スカートをたくし上げながら猛ダッシュで会場へと向かうリーシャであった。そこにお嬢様らしさは微塵も感じられなかった。
そして、会場に着くと、係りの人が「リーシャ・インディゴムーン公爵令嬢の御到着」と言って扉を開ける。そこには、数人の男女がテーブルを囲んでお茶を楽しんでいた。
同年代の子供たちということで、第一王子のユーティア・クリスタだけでなく、第二王子のガイゼル・クリスタや例のユリア・スカーレットマーズ公爵令嬢もいた。遅れて入ってきたリーシャを見て、ユーティア殿下が彼女に駆け寄ってきた。一方のリーシャは彼を見て――震えていた。
「ゆ、ゆ、優斗?!」
「なんだいリーシャ。やっと僕のことをユートって愛称で呼んでくれるようになったのかい?」
彼女が見たユーティア殿下はリーシャの記憶とは全くの別人であった。むしろ、彼女の前世で直属の上司であった栗田優斗にそっくりだったのである。もちろん髪の色は金髪だし、目は深い緑色なのだが、彼が金髪のウィッグと緑色のカラーコンタクトをつけたら区別つかないぐらいにそっくりなのである。まさに恋は盲目というものであった。
そんな彼女の心の中を知るはずもないユーティア殿下は彼女が愛称で呼んでくれたことで気を良くしたのか、彼女の震える手を取って席まで案内する。驚いて呆然としていた彼女は彼に引かれるまま席に座らされた。
前世では殺したいほど憎く、絶対に復讐してやると誓った相手――にそっくりな男が婚約者として隣に座っていると思うだけで吐き気がしてきて、思わず首に手が伸びそうになるが、あの時から一変して表情が暗くなっていたユリア嬢の心配をすることでかろうじて平静を保つことができた。
ちなみに、それ以外の参加者は宰相の息子であるロナルド・コバルトジュピター、その婚約者のミラベル・アクアマーキュリー、騎士団長の息子であるクロード・ブルーダイヤ、そして、その婚約者であるサーシャ・ホワイトヴィーナスである。ちなみに、階級という意味では騎士団長だけ伯爵位なので2つほど低いが、騎士団長という立場であることから、今回のお茶会に招待されたらしい。
リーシャはユーティア殿下を無視して、ユリア嬢に話しかけていたが、彼女はリーシャと話す気が無いらしく、軽く相槌を打つだけである。もっとも、リーシャからしてみれば、彼女は既に魔王の手先に脅されて言いなりになっている状況であると知っているので、特に気にする様子もなく話しかけていた。一方のユーティア殿下は少しでもリーシャと話をしようと頑張っていたようだが、あからさまに無視されていて終始苛立って、しばしば彼女に対してキツイ言い方をしていた。しかし、それでもリーシャは何もないかのように彼を無視し続けたのである。
そんな平穏とは程遠いお茶会が終わり、リーシャは帰りの馬車に乗って公爵邸へと向かっていた。
「よりによって第一王子が優斗そっくりだったとは……。これまでは婚約破棄の回避を目指していたけど、こうなったら婚約破棄を目指すしかないわ。あんな
「ユーティア殿下、イケメンじゃないですか? 何が不満なんですか?」
「顔じゃないのよ、マリア。ああいう男は自分本位だし、気に入らないと貶めるし、人をこき使うし、危なくなったら恋人でも平気で切り捨てるようなやつなのよ。そんなやつと結婚なんてして幸せになれるわけないじゃない!」
「あんまり面識ないのに、随分詳しいんですね……」
「それは、あの顔が全てを物語っているのよ! それに、私には
リーシャは忌まわしい婚約を破棄するため、切り札である乙女ゲームの主人公、アイリスを全力で応援することにした。
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