閑話1 エターナル・ファンタジー
エターナル・ファンタジー、それは前世で藍月理沙がプレイしていたゲームである。このゲームは新進気鋭のゲーム会社であるユーティア・プロダクションが制作した長大な3部作のゲームとして立ち上げたものである。
その第一作目、「エターナル・ファンタージ1」は女性向け恋愛アドベンチャーゲーム、いわゆる乙女ゲーというものであった。主人公のアイリスがクリスタリア学園に入学し、学園生活を楽しみながら4人の攻略対象と恋愛をするというありきたりなものであった。中でも、学園のあるホワイトナイト王国の第一王子、ユーティア・クリスタのルートでは、偽聖女であるリーシャ・インディゴムーンを追放し、王国の聖女となって、ユーティア殿下と理想の王国を作り上げるという王道のストーリーで人気が高かった。
何故、こんなゲームがバカ売れしたのかは謎だが、とにかくバカ売れした。それに気を良くした制作会社は早々に二作目である「エターナル・ファンタジー2」の制作発表を行った。2は1とは趣が変わって、結ばれたユーティア殿下とアイリスが魔王討伐に赴き、ホワイトナイト王国の王位につくまでのストーリーとなっていた。
二人は行く先々で仲間を集め、モンスターを討伐したり、王国の街の問題を解決したりしながら、ケイオスロード大魔王国へと向かう。大魔王国に入った王子たちは、先に潜入していた王国のスパイたちの助けを得て、各地に存在する魔王配下の四天王を撃破する。
勢いに乗った王子たちは、そのまま大魔王国首都デモンズネストまで侵攻する。デモンズネストでは魔王の側近と呼ばれる12人の精鋭と激しい戦いを繰り広げるも、アイリスとの愛の力によって、尽く撃破する。その勢いのまま、魔王と対峙するも、力不足により、王子とアイリス以外の仲間が全滅してしまう。このまま、王子とアイリスもやられるのかと思われた瞬間、光の神の使徒が現れ、二人を魔王城から離脱させる。
二人は光の神の使徒の導きによって、聖剣グラムベインを手に入れ、再び魔王に挑む。魔王との戦いは熾烈を極めたが、ついに王子とアイリスは魔王と倒す。これで終わったと思う二人の期待を裏切るように、魔王は第二形態となって、再び二人に襲い掛かる。その時、聖剣が二人の愛の力によって輝きを増し、その力を受けた王子によって一刀両断にされる。
こうして、魔王を討伐した二人は王国へと戻り、王と王妃となって王国を長い繁栄へと導くのであった。
というベタなストーリーのRPGとして発表された――のだが、何を血迷ったのか、当時流行り始めたMMORPGにしてしまったのである。しかも、1人用RPGの設定をそのまま流用していたため、ユーティア殿下の強さが他のキャラよりも15レベル分くらい強く設定されていた。そのため、ユーティア殿下を選んだプレイヤーはそれなりに楽しめたが、他のキャラを選んだプレイヤーはソロでは敵とまともに戦えず、かといってパーティーも組めず、絶望して辞めていった。その結果、プレイヤーは全員ユーティア殿下となり、パーティーを組むとユーティア殿下が6人という異様なゲームになってしまったのである。
あまりに酷いゲームバランスを揶揄して、『殿下無双』という元の名前が欠片も残らない呼ばれ方をされてしまった。それだけでなく、掲示板でサクラの書き込みをする人も『ユーティア殿下で無双するゲーム』という評価をしていて、周りから失笑を買っていた。
そんなゲームが人気になるはずもなく、瞬く間にアクティブプレイヤー数は100人を切り、制作会社は巨額の赤字を出してしまった。しかし、起死回生の手として第三作目である『エターナル・ファンタジー3』の制作を発表。こちらは王となったユーティアがアイリスと共に他の国を侵略して、世界統一を果たすというシミュレーションゲームとして売り出される予定だった。
しかし、2で巨額の赤字をたたき出した制作会社は普通のシミュレーションゲームでは勝てないと判断し、さらに血迷った結果、ソーシャルゲームとしてリリースしたのである。
しかし、2で培われたゲームバランス感覚や圧倒的に搾取する気がマンマンのガチャに、瞬く間にユーザー数が激減していく。それに危機感を感じた制作会社は最高レアである★5を超える★6キャラ「神ユーティア王」を発表。新キャラの情報に一時ユーザー数が持ち直すも、追加情報で今後10か月にわたり、毎月更新されるガチャで「神ユーティア王」のパーツを全て手に入れることで取得されると判明する。ガチャ自体はパーツ以外にも★5キャラが出るのだが、どれも型落ちのキャラばかりで明らかにパーツの抱き合わせでしかないラインナップとなっていた。
当然ながら、いわゆるコンプガチャと呼ばれる売り方はユーザーから非難され、ユーザー数は発表前よりも落ち込んでしまう。さらには、売り方が消費者庁から問題視され注意勧告をされてしまう。その対策として、パーツ自体にも★5の価値を持たせるようにしたが、ユーザー離れは加速する一方で、結局「神ユーティア王」のパーツが全て出る前に制作会社が倒産し、「神ユーティア王」は幻のキャラとして伝説となったのである。
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