第2話 尋問
私は気絶した男の方のところで屈みこむと、男の顔に往復ビンタをした。
パパパパパンという音とともに男の意識が強引に覚醒されるが、私の顔を見て再び気絶しそうになっていた。
「落ち着きなさい! ちゃんと洗いざらい吐けば、命だけは助けてあげます!」
「ほ、本当に……?」
「信じられませんか? こう見えて私は、あなた方とは違ってまともな人間なんですよ」
「お嬢様……。それは余計に信用されなくなりますよ……」
いつの間にか復活したマリアが冷静にツッコミを入れてきた。
「いずれにしても、ちゃんと話してくれれば――少なくとも私から殺すことはしませんよ。ですからさっさと洗いざらい吐いてくださいね。私も時間がありませんから――でも、あまり時間かかるようだと、苛立って手元が狂ってしまうかもしれませんね。ふふふ」
私の冗談を交えた説得に理解を示してくれたようで、男は素直に話してくれた。
依頼主については、彼もエージェントを通しての依頼だったようで、誰かはわからないとのことだったが、アジトの場所については素直に教えてくれた。
やはり人間、素直なのが一番である。
私たちを襲撃したのは男の所属する盗賊団の中でも一部の人間だったらしいので、仲間はアジトの方にも10人以上いるらしかった。
「よし、それじゃあ、案内よろしく」
私は笑顔で男にお願いしたのだが、男は正気を疑うような目で私を見てきた。
「足がやられて歩けないんですけど……」
「そうかあ、それじゃあ、私が引きずって行ってあげるから、指示だけ宜しくね」
私は彼の右手を掴むと、アジトに向けて歩き出した。
「うわあああ、足が足が!」
「その足はもう駄目なんだから、ボロボロになっても問題ないでしょ」
私が論破したことで納得できたのか、男はすすり泣く様な声が聞こえる程度に静かになった。
男を引きずって、案内にしたがって15分ほど歩くと、いかにもアジト的な洞窟があった。
「あそこね。案内ありがとう」
「えっと、俺はどうなるんでしょうか?」
「心配しなくてもいいわ。終わるまでここで待っていてくれれば、街までは連れて行ってあげるわよ」
「……俺の仲間たちも全員殺すんでしょうか?」
どうやら、男は私を殺人鬼か何かと勘違いしているようだった。
「そんなわけないでしょう? 誰も彼も殺すような酷い人間に見える?」
「いえいえ、滅相もない!」
どうやら男も理解してくれたようである。
「私は、あなた達がやったことの償いをしてくれればいいの。あなたたちは私たちの服をボロボロにした。だから、それに見合う服を押収するわ。それと私たちの馬車の馬を殺してしまった。だから馬の代わりになるものも押収するわ。それだけの話よ」
「俺たち、馬なんて持っていないですよ……」
「安心して、あなた達と違って無いものを寄こせとは言わないわ。昔の偉い人が言っていたの。『馬がないなら、人に引かせればいいじゃない』ってね。だから、あなたのお仲間たちを押収するわ」
私が言ったことがよくわからなかったのだろう、男は何を言っているんだとでも言いたげに私を見ていた。
「まあ、あなたはそこで待っていればいいから。それじゃあ、行ってくるわね」
そう言って、私は盗賊団のアジトに向かって走り出した。
気配を消しながら、次々と盗賊たちの腕を叩き潰した。
切り落としても良かったのだが、それで失血死でもされたら苦労が無駄になるので、手の骨を砕くだけにしてあげたのである。
入り口を見張っていた二人を無力化したところで、「襲撃だ!」と叫んだため、私は入り口付近に「
「さっきは足をやって面倒なことになったし、今回の目的は足の確保だからね」
私は、叫び声につられて続々と出てきた盗賊たちの腕を順番に潰していった。
まさに盗賊ホイホイという感じであった。
雑魚っぽい盗賊たちが10人ほど出てきた後で、一人ガタイのいい盗賊が洞窟から出てきた。
「おうおう、好き勝手やってくれたじゃねーか! 俺が出てきた以上、お前らの好き勝手にはさせねーぞ!」
前口上と体格だけは達者なボスだが、所詮は力任せなだけの素人であった。
私はそいつの視線を誘導し、その瞬間に反対方向から素早く後ろに回り込む。
そして背中にナイフを突きつけた。
「大人しくすれば、命だけは取らないわ」
その忠告にボスは豪快に笑うと自分からナイフに向かって倒れこんできた。
ナイフはボスの文字通り鋼のような身体に傷一つつけることなく、そのままナイフを私の手から弾き飛ばし、私を押しつぶそうとしてきた。
私はナイフをあきらめて、慌てて後ろに飛びのいた。
「ほう、あれに反応できるとは、なかなかやるな! だが、武器を持たぬ貴様など敵ではない。一思いに捻りつぶしてやるぜ!」
そう言って、ボスは下手な攻撃は回避されると踏んで、私に全力で突進してきた。
重量と速度のあるボスの体当たりは、それだけで十分な殺傷力を持つ攻撃であるのだが、いかんせん動きが直線的過ぎる。
私は、突進に合わせてジャンプするとボスの頭の上を踏み台にして背後に着地した。
ボスは自身の勢いに加えて、私の体重が上乗せされたため、バランスを崩して倒れてしまった。
「うおぉぉ!」
ボスは振り向きながら起き上がろうとしていたが、私は振り向くのに合わせ、目の位置に手刀を振りぬいた。
「ぐあああ、目が! 目があああ!」
目をやられてのたうち回るボスを後目にナイフを拾って、ボスの首を横一文字に薙いだ。
首から血を吹き出しながら、なおも暴れまわるボスであったが、しばらくすると倒れて動かなくなった。
「ふふふ、大人しくしないからいけないのよ。さて、あなた達は大人しくしてくれる?」
笑顔で手を潰した盗賊たちに向き直ると、彼らは一斉に私に対してよろめきならも跪いた。
「ふふ、返り血浴びちゃったし、この服はもう駄目ね。何か代わりの服は無い? 一番マシなのを教えてくれない?」
笑顔で聞いたら、ちょっと顔が青ざめていたけど、快く答えてくれた。
盗賊たちには待っているように伝えて、服を取りに行った。
出てきた服はマシではあるものの、先ほどまで着ていた服とは当然ながら比べ物にならなかった。
仕方ないので、追加で金目のお宝をいくつか押収して、盗賊たちの元へ戻った。
「しょぼいけど、まあまあ着れる服ね。それじゃあ、一緒に付いてきてもらうね」
そう言って盗賊たちの首に縄を括り付けた。
「何でだ?! 生かして帰してくれるって言っていたじゃねーか! 騙したのか?!」
「人聞きの悪いことを言わないで! ちゃんと全部終わったら解放してあげるから」
「……わかった。俺たちは何をすればいいんだ?!」
やる気になってくれた彼らに満足して、私は安堵しながら目的を伝えた。
「馬の代わりに馬車を引いてもらいます。とりあえずはナルビリアの街までね」
「「「……」」」
気負わないようにと気遣って軽い感じで伝えたのだけど、彼らは一斉に黙ってしまった。
そして、待たせていた盗賊も拾って、馬車へと戻る。
「それじゃあ、ナルビリアまでしゅっぱーつ!」
私の掛け声に応えるように馬車が走り出した。
ただ、嗚咽がうるさかったので、手綱を引いたら「ぐぇ!」という音とともに静かに走るようになってくれた。
こうして、1時間ちょっとでナルビリアまでたどり着いた私たちは何故か門番に止められてしまった。
「何の御用でしょうか? 私たちは王命で視察に来た聖女見習いなのですが」
「えーと、その馬車を引いている人たちは一体……?」
「ああ、この人たちは、馬車の馬を殺しちゃったので、代わりに引いてもらっているんです」
「そうですか……。聖女様でしたら、領主様に話を通しますので、少々お待ちください」
そう言って、私たちを部屋に待機させたまま、どこかに行ってしまった。
行ったきり、1時間以上待たされた私たちは、その間、まったく状況がわからずに困惑していた。
「遅いなー。もう日も沈んじゃったんだけど……」
「お嬢様、もう少し待ってみましょう」
「こんなんだったら、宿に入っておけばよかったよ……」
そろそろ限界だ、と思ったところで先ほどの門番の人が領主の使いと思しき初老のおじさんを連れてやってきた。
「これはこれは聖女見習い様、よくぞお越しくださいました。領主様がお待ちしておりますので、こちらの馬車にお乗りください」
「お待ちしていたって……。こっちはもっと待っているっていうのに……」
そう言いながら使いの人をジト目で見ると、咳ばらいをして言い直した。
「失礼、お待たせしたことお詫びさせていただきます。つきましては、こちらの馬車にお乗りください。領主様のお屋敷までご案内いたします」
「うーん、こっちにも馬車はあるんだけど、どうすればいいの?」
そう言って、使いの人は私たちの馬車を見た。そして、私の方に向き直り、さらにもう一度馬車を見た。
「何回見ても何の変哲もない馬車なんだけど……」
「馬車? これが馬車?! 馬がいませんけど」
「いや、そこに10人ほどいるじゃない」
そう言うと、今度は使いの人が私をジト目で見てきたので、それに気づかないふりをしながら、話題を変えることにした。
「ま、まあ。せっかく馬車も用意してくれたんだし、それを使わせてもらいましょうか」
「はい、かしこまりました」
そう言って領主の馬車に向かう私たちに門番が話しかけてきた。
「こちらの馬車は、この街で預からせていただきます。ちなみに、こちらの人たちは――この辺りを騒がせている盗賊団の者とお見受けいたしますが、こちらで身柄を預かってもよろしいでしょうか?」
「え? ダメだけど。この人たちいなかったら帰りの馬車が動かせないじゃない。帰りは馬車でも6時間もかかるんだよ?」
そんなことを言ったところ、盗賊たちは全員自首してしまった。
さすがに自首されてしまっては捕まえないわけにもいかないため、馬車から外してしまった。
「そんな、帰りはどうすればいいの? ねえ、まだ終わってないんだよ。終わったらちゃんと解放するって約束したじゃない!」
そう言って、盗賊たちに訴えかけたが、誰一人、目を合わせることなく、門番に連行されていった。
その後ろ姿を見送りながらへたり込む私に、残ったもう一人の門番が話しかけてきた。
「そんなに落ち込まなくても……。彼らの懸賞金が多くはないけど貰えるはずだから、それで新しい馬を買えますよ。何なら御者も雇えます」
そんな門番さんの言葉に励まされて、私たちは安心して領主の馬車へと乗り込んだ。
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