名残
風と空
第1話 荷解き
『今日の天気は曇りのち晴れ。降水確率は…… 』
よっしゃ。晴れるなら一挙に片付けてしまうか。
TVから流れる天気予報を見ていた俺は、コーヒーを置き気合いを入れる。
俺こと木崎
荷物は全部昨日のうちに運び込まれたし、今日は細々としたものを片付ける唯一の休日。
1DKの風呂、トイレ、クローゼット付きって結構良い物件だろ?
しかも都市ガス!追い焚きできる風呂はマジで嬉しい。
俺長風呂だからなぁ。
しかも、この際だからカーテンや絨毯も新調してみた。
心機一転ってやつだな。
しっかし、タイミング良かったよなぁ。
今時ないぜ、こんな部屋にすぐ入れるの。
この部屋の前住人も同時期に転勤になったらしいからな。
まあその分掃除は自分だけど、大概きれいに使ってたんだな。おかげでそんな掃除もしないで片付けることができるぜ。
ま、最初は簡単な服から行くか。
ガタッ 備えつけのクローゼットの扉を開ける。
おいおい、ちょっとキツイなこの扉。
げ!なんだこのクローゼットの天井部分。
板外れてんじゃねえか。
全く…… 後でしっかり補修するか。
取り敢えず板をはめ直そうと、身体をクローゼットの中に入れて手を伸ばすとカサッと何かが手に触れた。
なんだ…… ?
そのまま音の正体を見るために手に取ってみると、四つ折りにされた厚紙が出てきた。
興味本意でガサガサと厚紙を開いて見る。
「凄え…… 」
思わず口に出てしまった。
そこには写真と見間違える程に上手く描かれた笑顔の女性がいた。
鉛筆だけで描かれていて、ぼかしや陰影もしっかりと書き分けられている。
…… ただ気になる点がある。
顔と髪だけしっかり描かれているが、他は描きかけで、所々が滲んでいる。
何か水滴で滲んだような感じだな……
俺はつい作業の手を止めて見入ってしまっていた。
絵の中の彼女は本当に幸せそうに笑っている。
この絵を描いた人は何を思って描いたのか。
この滲んだ跡はなんなのか。
なぜここに隠したのか。
…… 俺にはわからない。
ただなぜかこの絵からは寂しさを俺は感じた。
俺にはこの絵を描いた人が泣いていた様に思ったからだ。
想い人だったのか。
恋人だったのか。
家族だったのか。
俺が想像できるのはそんなものだ。
しばらくそのまま立ち尽くしていた俺は、これをまた元の場所に戻すことにした。
勝手にこの絵の筆者の想いを踏みにじりたくなかった。
こんなに綺麗に人の笑顔を描くこの筆者を。
「参ったな…… クローゼット開けるたびに思いだすじゃねえか」
かと言ってなんとなく処分もできないしな。
頭をボリボリ掻きながら、俺は荷解き作業に戻る。
願わくば、前の住人が今は幸せである様に。
名残 風と空 @ron115
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