第156話
私の声に、サタ様がモフモフの羽でその壁を触った。しばらくして何かわかったのか、サタ様はウンウンと頷き、口元を緩ませた。
「うむ。エルバ、これは勇者が張った結界だな」
「ゆ、勇者⁉︎ モサモサ君?」
「いや、モサモサ君ではなく。ワタシが魔王のとき、最後に戦った勇者アークだな。この原っぱの近くに、最後の決戦地のシーログの森もあるな」
「勇者アーク⁉ シーログの森!」
「ほほう、勇者アークですか」
「あぁ長い年月、ワタシは鳥籠の中にいたから……すっかり、場所のことは忘れていたよ」
鳥籠に囚われていた魔王サタナス。そのサタ様が最後に戦った勇者というのは勇者アークだ。300年前――この原っぱとシーログの森で、勇者パーティーとサタ様は最後の戦いをした。その最後の戦いを邪魔したのが当時の聖女。
その聖女の子孫がヒロインのアマリアさんで――この小説を知る転生者。私はブルっと身震いした。
(あまりあの子とは関わりたくない。だって、モサモサ君とローザン君にたくさん迷惑をかけるし。精霊のキキに酷いことをしていた……かなりの危険人物だ)
って、ちょっと待って。勇者結界の中に私が探し求める、ククミンがあるんじゃないのぉ――⁉︎
「じゃ、サタ様。この先に行けないの? ポーションの素材のククミンは? アレがないと、カレーが作れないじゃない⁉︎」
慌てだした私をサタ様とアール君はなだめる……それも嬉しそうに。
「この結界の中に入る事はできるが……ワタシたちが勇者結界に侵入すると、どこかの誰かにバレるのではないか? 今回、カレーはあきらめて、またにした方が良いと思う」
「そうです、またにしましょう」
「え、ええぇぇえ――! 楽しみだったのに。ポーションはわからないけど、カレーはすごく美味しいから……サタ様とアール君に食べてもらいたかった……」
だがここに入って、誰かに分かるのもちょっと嫌だ。諦めて帰ろうとしたが。サタ様が何かに気付いたのか、結界をもう一度みつめた。
「どうしたの、サタ様?」
「この結界の中にワタシの愛剣――黒剣(こっけん)があるようだ。勇者アークはワタシを讃えて、ここに墓を作ったのか?」
ジッと結界を見つめるサタ様。もしかして愛剣を思っているのか。それとも当時の戦いを思い出しているのかな。
「サタ様はどうしたい? 私はバレてもいいよ。バレても、逃げればいいだけだもん」
ニシシと笑う私。
「そうですね、逃げればいいんです」
コクリと頷く、アール君。
「逃げればいいか。そうだな……本人が、愛剣を迎えにきたのだからいいな」
私達は3人見合って、頷いた。
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