第112話

 見えてきたマーレ港街――森に囲まれた港街が現れた。ホウキに乗るときモコ鳥と黒猫になった、2人もその港街に瞳を輝かせた。


「凄い! 森と隣接した、綺麗な街と海だぁ!」

「ああ、古き港街だな。建物も色あせて雰囲気がよい」

「久しぶりの海の香り、魚が食べたくなります」


「お魚? いいね、食べたい」


 街の近くでホウキを降りて街に向かうと、何やら漁港の方角が騒がしい。どうやらクラーケンと王都から遠征してきた冒険者、学生達が見合っているようだ。


[余が差し出した、美味い足を食さぬとは。お主らの様な小童にようはない、うせよ!]


 人型となった2人はその声に吹き出して笑った。

 私にもクラーケンの言葉は分かったけど……美味い足? なんのことだと更に近付くと、ドーンとクラーケンの切り落とされた大きな一本のタコの足が、冒険者と生徒達の前に転がっているではないか。


[さあ、受け取れ。余の足は味も良く、歯応えがあって美味だ!]


 しかし、クラーケンの声は人々には「ブオオォォ――!」と鳴き叫ぶ、雄叫びにしか聞こえない。


「おい! あのクラーケンには剣と魔法が効かない! どう、奴を退治するんだ!」

 

「クソッ、歯が立たない!」

「もっと強い、冒険者は来ないのか?」

「このままでは、この港街が崩壊するぞ!」


《余の足はそのままでも、焼いても、煮ても美味い》


 まるっきし噛み合わないクラーケンと、冒険者生徒達の会話……面白い。すでに、ツボに入ったサタ様とアール君は顔に出さない様にして、念話の中で笑っていた。


《パワーは相変わらずだな……クククク》

《健在ですね……フフフフフ》

《サタ様、アール君……》

 

《まあ、パワーは強いからこ奴らには倒されはせぬが……さすがに、このままでは可哀想だな》


 サタ様は木陰でモコ鳥に戻り、クラーケン――パワー様のところへと飛んでいく。姿は消しているのか誰にも気付かれず、サタ様はパワー様に近付いた。


[パワー、そろそろ気付け。人間にワタシ達の声は届かぬぞ]

 

[⁉︎ そ、その声は……魔王サタナス? いいや、あの方は300年前、勇者に倒されたと聞いた。その魔王が、この場におるわけがない!]


[うむ。それがな……いるんだよ、パワー]


 モコ鳥と、クラーケンの瞳がかち合う。


[お、おお! サタナス⁉︎ まことに……サタナスだ。お主、生きておったのか……余は、余は]


 モコ鳥姿のサタ様を見た、パワー様がワナワナ震え出す。その振動は津波となって港を襲い、人々が悲鳴をあげた。


「「津波だ! 逃げろ!」」


「クラーケンが急に暴れ出したぞ!」

「壁をだして、津波を止めろ!」


 魔法が使える生徒達が一斉に壁をだして、クラーケンが起こした津波を止めた。判断が早かったおかげで、港街に被害は出なかったが。まだ歓喜に震える、クラーケンのパワー様をサタ様が止める。


[落ち着けパワー、ここは一旦引いて、リラックスモードで現れよ]


[そうだな……わ、わかった……やられたフリをして、海に戻るとしよう]


 やられたフリ?


 クラーケンのパワー様ががいきなり「ブオオォォ……」と、苦しげな雄叫び声をあげ。


[グオオォォォォ、お主らは強い……余の負けだ]


 と、攻撃を受けるわけでもなく……泡となり冒険者、生徒の前から消えた。

 

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