第110話

 体当たりされたローボは吹っ飛び、私の近くにモフモフでまんまる――見た目はアール君よりも一回り大きく、茶色なハムスター? ネズミ? が身軽く着地した。


 その可愛い見た目とは裏腹に、私に手を出して。


「お嬢さん、大丈夫でござるか?」


 キリリとした瞳は――イケメンだ。

 

「は、はい。助かりました、ありがとうございます」

 

「そりゃ、ようござんした。拙者、ラッテと申す、しがない魔物のネズ公でござる。お嬢さんのお連れの方はもしや……サタナス城主と……どのでござらんか?」


 自分をラッテと名乗ったネズミの魔物は、サタ様とアール君を知っているようだ。名前を呼ばれた2人は「ククッ」「フフ」と笑い。


「よく、ワタシの変装を見破ったな、ラッテ。久しいな」

 

「ラッテどの。今はアールと言うんです、お久しぶりでございます」


「お、おお……やはり、そうでござった……これは、夢ではござらん――誠か」


 ラッテの切れ長な瞳が開かれて、パパ達と同じく大粒の涙を流し、声を殺して泣きはじめた。そのラッタどのをサタ様は優しく見つめ。


「お主とはよく魔王城の厨房で盗み食いをして、料理長のラミアにナタで追い回されたな」


「フッ、ラミア姫か……ハハ、お懐かしゅうございます」

 

「ほんと困る常習犯でしたよね。ラミア料理長は今も魔王城に……多分ですが、いますよ」


「魔王城にですか……久々に、お会いしたいものですな」


 みんなは当時を思い出して、コクリと頷く。


 側から見ていると。少年2人と大型ネズミの不思議な取り合わせ――その3人の周りにクエストのローボはいないのか、昔話をはじめた。

 

 その話に参加できない私は……「おっ!」足元に初めてみる薬草を見つけて、すかさず博士に聞いた。


 博士、これ何?


《エルバ様それはハサイ、別名ホホレンクサと言う薬草です》


 ハサイ?

 ホホレンクサ……見た目からして、ほうれん草かな?

 この薬草の効能は何?


《胃腸のホウキと呼ばれ、便秘解消。貧血予防です。煮て食すか、粉末にしてください》


 博士ありがとう、タネが欲しいです。

 タネを貰って畑に植えた。


 ほうれん草はおひたし、胡麻和えが好きだなぁ……あと、卵焼きに入れたり、キッシュ、バターで炒めても美味しい。


「おいエルバ……側から、離れるなよ」

「そうです。見つけても、毒草を食べてはダメですよ」

 

「え? 味見は少しするけど。ガッツリは食べないよ」

「エルバ様、少しの味見もダメです! もしされました、直ぐママ様にご連絡をいたします」


「ひぇえ! マ、ママに連絡する⁉︎ ……そんなぁ」



「カッカカ、このお嬢さんが四天王タクス殿の娘――エルバ殿でござるか……なんとも逞しいですな」



 ラッテさんに「カッカカ」と大笑いされた。

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