第86話

 博士にバターの作り方を、詳しく教えてもらった。


 私が忘れない様に調理のレシピ帳にも書いてくれると言っていたので、いつでもバターが作れる。


 それに醤油とバターがあれば、なんでも美味しくなるはず。


 ジャロ芋バター、バターと醤油が香る野菜炒め、バターたっぷりパンケーキ……クリームシチュー、バタークッキー、ピラフ……が食べたい。


 バター料理を思い浮かべる私に、コーブラを捌くサタが聞いてきた。


「エルバ、博士に習ったバターを作るのか?」

 

「うーん、作りたいけど……すぐには出来なさそうだから。アウドラムのママにお乳をもらって容器を置いておいて、その間にお腹も空いたからお昼にしよう」


「はい、お腹が空きました。今すぐ、コーブラを焼きましょう!」


 サタ様にコーブラを食べやすい大きさに切ってもらう間に、アウドラムのママのお乳をアール君と一緒に絞ることにした。


「アール君は猫の姿のまま、アウドラム、ママさんのお乳搾れる?」


「えぇ、こうすれば搾れます」


 私の横でポンと猫のアール君は人型に戻った。その姿はギルドの時より大人で、黒髪をオールバックにして眼鏡の執事姿だった。


(へぇ、これがアール君の本当の姿?)


 私よりも、大人の見た目と執事の姿に(執事カフェにいたら人気ありそう)と魅入っていた。


「この姿の方がお乳が搾りやすいです。さぁエルバ様、アウドラムの乳搾りをしましょう」

 

「うん、搾ろう!」


 アウドラムパパはファミリーカーで、アウドラムママは軽バンくらいの大きさ。

 家族で原っぱの草をモリモリ食べている、アール君とお鍋を持ってママさんに近付いた。


 森にいたからか少し肌が緑ががるママさん。

 そのお乳は前世でテレビで見たことがある、牛と同じで、お腹に乳頭が四つ付いていた。


「アウドラム、ママさん、お乳をください」


[わたしのお乳が欲しいの? いいわよ、好きなだけ搾って]


 ママさんに了解を得たので、アール君と並んでしゃがんでお鍋にお乳を搾り始める。触ると温かい乳頭に触れてアール君は大きな片手で乳を絞り、私は両手で持ち搾った。


 ジョバババ――!!


 隣で器用に搾るアール君の横で両手で乳を握り、大量のお乳がお鍋を反射して、ミルクを被りミルクまみれになる。


「うおっ⁉︎」

「エルバ様?」


「力入れすぎて、ミルク被っちゃった。ペロッ……お、甘い」

「フッ、エルバ様は不器用ですね」


 アール君に鼻で笑われた。


 その笑みは黒猫のときとは違い……彼の表情みえた。

 なんとも憎らしく、まるで「エルバ様は下手くそですね」と言うかのよう。


(あ、あれだ。昔読んだことがある、小説のイチシーンを思い出した)


「フフ……でも、お乳搾り楽しい。アール君、ママさんのお乳をコップに貰って、搾りたてのミルクを飲もう!」


「いいですね」


 マジックバッグからコップを取り出して、今度はゆっくり搾り、お乳をコップに溜めて一気に飲んだ。


 搾りたてのお乳は甘く、ほのかに温かい。


「ん、温かくて、美味しい」

「はい、美味しいですね」


[そう言ってもらえると、嬉しいわ]


 そこにコーブラのお肉を捌き終えたサタ様がくる、頭からミルクまみれの私を見て、大笑いしたのは言うまでもない。

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