第69話

 テッテレェ~『耐熱グローブ!(神様仕様)』を私はマジックバッグから出して手に装着した。業火仕様となったグローブ、その意味は……悪人がみをほろぼすことを表す言葉と地獄の業火。


 見た目は可愛いけど、実用的。ほんらいの使い方は焚き火に薪をくべたり、スキレットなど熱くなった調理具を掴んだり、薪割りなど作業用にも使える万能グローブ。

 脱着のしやすさとフィット感が良く、神様仕様となったこの耐熱グローブで、あの金髪がくりだす炎に耐えれるのか試したい。

 ここに来る前、ママが防御魔法を何重にもかけたローブをいま着ているから、少々あたっても平気だろう……試したい。


 サタ様とアール君で試すまえに、あの金髪君の炎をうけてみたい。


 ――行くぞ!



〈はぁ、エルバ? 戦いの前に出てくるな!〉

 

 

〈サタ様は2人が相手だし。この神様仕様の耐熱グローブが、あの炎に耐えれるのか使ってみたいの〉


『正気か?』と言う、モコ鳥のサタ様の瞳に正気だとうなずいた。


〈クク、さすがだ……パワー重視、特攻隊長タクスの娘だ、悠長なことを抜かす。そのグローブであの炎に耐えれるかだと? ふむ、その実験は面白そうではあるが……少しでも危なかったら、強制的に後ろに飛ばすからな!〉


〈わかった〉


 よし、サタ様の許可がもらえた。


 


「ん、んん? サタナス様、この子は誰? 魔力にタクスの力を感じるけど?」


 ヌヌは檻の中で首を捻る。


「ほお、気付いたかヌヌ。この娘はタクスの子、エルバだ」


「ええ、タクスがモーレツにアタックしていた、あの美人な魔女と結婚したのは知っているけど……ほぇ~子供が生まれたんだぁ~、めでたい、めでたいねぇ~!」


 ヌヌが喜びの舞をはじめ、檻がガシャン、ガシャンと揺れる。その様子に前の2人は魔犬が遂に暴れはじめたと息を飲む。


「まずい、魔物から攻撃がくるわよ!!」

「檻を破って出てくるきかぁ!!」

 

 悪役令嬢は杖を構え、魔法を唱える。

 金髪君は炎の拳をかまえた。


 魔力の高まりと、2人の緊張がこっちにも届く。


〈ヌヌ、喜ぶのは後にしなさい。エルバ、金髪の炎が来るぞ!〉

 

〈はい!〉


「くらいやがれでェエエエ!!」


 金髪君が拳ら繰り出した炎を、私は両手を前にだして耐熱グローブ受けようとしたのだけだ……条件反射でムニッと掴んでしまった。


〈うおっ? サタ様、炎掴んじゃった〉

〈掴んだだと? 早く、それを離せ!〉


〈分かってる〉


(でも何処に?)


 学生達、私達がいない所を探した。手の中でゴウゴウ燃える炎は熱くなく、耐熱グローブとローブは耐えたのだけど……無防備な顔が熱い。


〈あつぅ!〉


 と、腕を上げた瞬間、その炎は飛びあがり空中で爆発した。突然の空中爆発で、学生達は悲鳴をあげた。


〈……あっ〉


〈フフ、あの炎を掴み押し上げるか……ふむ、ふむ、そのグローブは『ドラゴンのファイアブレス』も耐えれるかもな〉


(ドラゴン?)


「お、お――スッゴォい、面白い! もう一回、もう一回やってぇ〜!」


〈エルバ様、ズルい。僕にもソレ貸してください!〉


 みんなには大好評だけど、この場の教師と学生達を驚かせてしまった。だけど、サタ様がドラゴンの『ファイアブレス』にも耐えるといったから……いつか、この耐熱グローブで止めてみたい。


 私達が湧き上がるなか、金髪君は悔しがった。

 


「「……クッ、おれの炎がぁぁ――!」」

 


 いまの衝撃で茶髪君と悪役令嬢の攻撃がとまる。

 2人は檻の中のヌヌに敵わないと悟ったらしく、遠目に見ていた『グルナ』の名を呼んだ。

 

 だが、呼ばれたモサモサ髪のグルナは2人言葉に、視線も体も動かさない。その彼の彼はずっと私達の方を向いていた。


「……どうなさったの、グルナ王子?」

「どうした、グルナ殿下?」


「…………」


 2人に呼ばれて、困っているようにも見えた。



 グルナ――モサモサ君と呼ばれた学生。

 


〈……ねぇ、サタ様。あのモサモサ君って、私達が見えていない?〉


 

 サタ様はコクッと頷き。

 


〈ようやくエルバは気付いたのか。アヤツは勇者の末裔だから、一応、何かしてくるかもと……気にしていたがアヤツは何もしてこなかった〉


〈ええ、してきませんでしたね。この闘技場に入ってから、彼の瞳はズッと僕達を見ていのに……よし、檻の鍵と首輪を解錠いたしました〉


 ガシャンとヌヌの魔導具の首輪が落ちる。


〈うむ、ヌヌが動ける様になった、もうここに用はない。アール、エルバ、ヌヌに飛び乗れ!〉


 ギィ――ッと檻の扉が開く。


 突然、檻の鍵が開き檻から出てきた、ヌヌに怯える教師と学生達を横目にヌヌに飛び乗る。身軽く飛び乗ったサタ様とアール君とは違い……私のジャンプは高さが足りず、かろうじてヌヌの尻尾を掴んだ。


「ギヤッ⁉︎」


 突如、私に尻尾を強く掴まれたヌヌ。

 


「うぎゃあぁああ――! おれっち、尾っぽを触られるのは苦手だよ〜」


 ヌヌはブンブン尻尾を振る。


(あ、これは尻尾を掴んでしまった私が悪いのかも)

 

 動物にとって、大切な神経が集まる尻尾。

 ヌヌは嫌がり、尻尾を更にブンブンと振った。


 その威力は強く……手に付けていた、脱着のよい耐熱グローブは手からスルリと抜けて、私の体は空に勢いよく投げだされた。

 


「「エルバァ――⁉︎」」


 

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