第68話

「なんともすざましい、雄叫び」

「まだこの付近に、あのような魔物がいるとは恐ろしいですわ」

 


「「ガハハハハハァ――!! こんな小物、恐るるにたらず!」」

 


 大きな体格、赤い瞳、ヌヌの見た目で生徒が怯えるなか。鍛え上げられた肉体、茶髪の男は鍛えられた腕を鳴らし、檻の中にいるヌヌに向けて真っ赤な拳を構えた。


 それを真正面から『グルルル』と唸り、受けて立つ様に見えるヌヌ。


 ――実際は。


「……ヒィイイィ! 怖いよ~、この人間はおれっちになにするの? 戦うの? それは、ダメだよぉ~。人と戦うと魔王様に怒られちゃう。たくさんの人に追われても、物を投げられても、おれっち怒らなかったよぉ~」


 どうにか止めてもらおうと必死に男に話しかけるけど、彼にヌヌの言葉は通じていない。男の闘士に反応し威嚇して、吠えているように見える。


 だけど、全くどうじない2人は。


〈うむ、ワタシの言い付けを守るヌヌ、賢いな〉

〈ええ、手の付けられない暴れん坊だったヌヌ、賢くなりましたね〉


(ええ――サタ様、アール君、賢くなったとか、そんな悠長な事を言っていたら、魔犬ヌヌ、やられちゃうよ? あの男が勇者パーティーにいた、剣士の末裔だってサタ様は気付いてる?)


 私はハラハラしながら見守っていた。



「「フッ、オオオオオォォ! きさまに一発、おみまいするぅううう――!!」」



 拳をまえに繰り出した茶髪の男の炎は、檻の中のヌヌに向けて飛ばされた。


〈……まずい!〉


 サタ様は一言はっしてヌヌの前に飛び出し、防御膜を張った。それと同時に吠えたヌヌ、男の炎を止めたのは姿が見えないサタ様ではなく、ヌヌのひと鳴きで消し飛んだかのように辺りには見えた。


 男と学生達の緊張と、驚きで『ヒュー』と息を吸う音が聞こえる。そんな事を気付かないヌヌは『ガシャン、ガシャン』と檻を鳴らし。


「「あ、ああー!! ……もしかしてサタナス様? うわぁ、リラックスモードの魔王様だぁ!! おれっち、会いたかった……ヌヌだよ、魔犬のヌヌ、おぼえてる?」」


 嬉しそうに檻の中でジャンプしたので、魔犬がご立腹で暴れている様にしか見えない……



「…………クッ、俺の炎の拳が効かないのか」

 

 

 男の悔し紛れの声と。

 ヌヌの嬉し声。


「サタナス様~だぁ! ヒャッホウ!」


「クク、ワタシがヌヌのことを忘れるはずがない。だがヌヌ、興奮すると周りの人間が怯える、少し大人しくしろ」

 


「「「はーい!」」」

 


 その可愛いヌヌの返事は衝撃波となり、瞬時に防御ができなかった、複数の学生を壁まで吹き飛ばした。


 くずれ落ちる闘技場の壁と、闘技場あがる生徒達の悲鳴。



「「きゃぁ――――!」」


「「う、わぁ――――!」」



 これは非常にまずいのでは?


 あたりは騒然、飛ばされ怪我をした学生、気絶した学生が出てしまった。アマリアは怪我をした生徒を『聖女の力』で治療しはじめふ。


 教師達は怪我が軽く動ける学生達を集め、魔法で防御壁を張った。そして、ヌヌの前に立ったのは勇者パーティーの末裔、茶髪と悪役令嬢の2人。黒魔導士と肝心の勇者末裔は怪我はないものの、こちらに来ようとしない。


「きさまぁ――――!!! 許さんぞぉ――――!!!」

「まったく、冒険者はこんな危険なものを寄越すなんて……」


 と、ヌヌに向けて拳と杖を構えた。




 ヌヌの可愛い返事で一大事である。


 瞬時に防御壁を張り、ヌヌの衝撃波から守ってくれたアール君は、2本の尻尾をユラユラ揺らし。


〈フフ、よかった……ヌヌはあの魔導具の首輪をしているからか、元の力の半分以下に抑えられましたね〉


〈え、あれで半分?〉


〈はい、本来のヌヌでしたら……そうですね、小さな山一つくらいは吹き飛ばします〉


 ――ヒェ、さすが元四天王魔犬ヌヌだ。

 


 ヌヌを守る、サタ様が私達を呼んだ。


〈エルバ、アール、どちらでも良い檻の鍵をあけてくれ。ワタシ達は戦うわけにはいかない……ヌヌを助け逃げるぞ〉


 サタ様は茶髪と悪役令嬢の攻撃を交わし、ヌヌを防御壁で守っている。


〈わ、私に鍵の開錠は無理だよ〉

〈わかりました、僕が開けます〉


 アール君が檻の鍵を開けに向かった、私にも何かできない……あ、と閃く。


(そうだ、あの炎『アレ』で止められないかな?)


 私は肩から下げているマジックバッグを漁り、それを取り出しヌヌの檻の前に立った。

 

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