第59話
出来たと、みんなでテントに入る。中は天蓋付きベッドが4つ、奥に露天岩風呂といつものトイレ。今日は移動で疲れているから、必要なもの以外は凝った作りにしなかった。
「サタ様、アール君、私はベッドで少し休むから、お風呂先にどうぞ」
先に、人数の多い男性陣にお風呂に行ってもらい、私はベッドにダイブした。ふうっ、疲れた。普通なら1週間、それ以上かかる王都までの移動を、数時間で移動したのだ。みんなもだろうけど、料理だけでは魔力の回復が追いつかない。
(回復大だったけど、まだ足りていないよね)
ムラサキ(醤油)ができたことだし。
丼もの、煮物、肉料理など前世で作っていた料理が作れる。私の料理、植物、自分自身のレベルが上がればもっと、色んなことが出来るだろう。
――回復最大も夢じゃない。
(面白過ぎて、楽し過ぎる)
前世とはちがう環境、自分の全てを受け入れてくれる家族がいるだけで、心のゆとりが断然違う。安心しできる。
先ずは、サタ様の大切な仲間ヌヌを助けないとね。
フワフワな、ベッドでウトウトしていた。
「エルバ、あがったぞ」
「実に楽しい、お風呂でした」
フフ、そうだろう、なんてったってジャグジーのお風呂だ。そりゃ、たのしいに決まってる…………よねと。
ベッドから、お風呂から出てきたサタ様達を見た、私の口から出たのは驚きしかない。
「「ええ、な、なんで君たちアワアワなのぉ???」」
モコ黒鳥、モコ黒猫、モコカラス達……がモコモコな泡に包まれていた。
(な、なんでぇ? はっ、もしやこれは……私がジャグジーを想像するとき、上手く説明が思いつかず、ブクブク泡風呂を想像したからか?)
……がんばれ、私の想像力!!
「おわっ、ち、ちょっと、まってサタ様、アール君、カラス達、泡のままベッドに乗らない!」
急いでみんなをベッドがは引き離して、泡を流す為に、もう一度お風呂場に連れていった。私が想像した……体をほぐす、ジャグジーを想像した露天風呂は見るも無惨。
かなり楽しんだのだろう……露天岩風呂から溢れ、ありえない量の泡になっていた。
呆然とする私の隣で。
「クク、泡の風呂は面白い。せっかくだ、エルバも楽しもう!」
「そうです、楽しみましょう!」
モコ鳥のサタ様は泡を、モコモコ羽ですくい投げきた。
その泡は私ではなく隣のアール君に命中すると、すぐさまアール君は『サタ様、ご覚悟!』と、魔法で泡ボールをはポンポンと幾つも作り飛ばす。
しかし、サタ様は飛んでくる泡玉を余裕ありげに、避けない。なんとカラス達が「マモル」「サタ、マモル」と、飛んできた泡ボールから身をていして守った。
「今度は貴様の番、アール、覚悟しろ!」
サタ様も負けずと魔法で泡玉ではなく、泡の槍を何本も作りアール君へと……しかし、防御壁に守られるアール君には届かない。
って、これは雪合戦ならぬ、魔法泡合戦!
「エルバ、スキあり!」
「ブヘッ! ……サタ様!」
私の顔に命中した泡には香りなく、ただのモコモコな泡。はじめから泡風呂にするのだったらラベンダー、バラの癒される香りしてもいいかな。
それは今度にして、サタ様を許さない。
「サタ様、隙をつくとは卑怯です。エルバ様、助太刀いたします!」
「ありがとう、アール君やるわよ! サタ様、カラス君達、観念しなさい!」
「ハハハッ、遠慮なく、来い!!」
「コイ」「コイ!」
――第二回、魔法泡合戦が開始した。
数分後。息が上がったみんなは床に寝転ぶ。
「ハァ、ハァ、もー無理、ハァ、ハァ……楽しいけど疲れたね」
「うむ、疲れた。エルバ、アール、なかなかの腕前であった」
「ハァ、ハァ……面白かった」
「ツカレタ」「ウゴケン」「メガマワル」カラス君達もバテバテだ。
しばらく、真っ白な空間を見つめて休み、水魔法でモコモコ泡を流してタオルで拭く。忘れていたのだけど、このタオル速乾性だった。水も一拭きでよく吸い込み、ベタベタに濡れてもタオルを広げ上下に振るだけで、クリーン魔法と一瞬にカラカラに乾いてしまう、すぐれもの。
クリーン魔法と、手持ち数枚しかないタオルがすぐ乾く。
「はーい、サタ様の乾燥終わり。次、アール君のあと、カラス君達ね」
みんなが私の前に一列に並び、タオルで体を拭いていく。みんなの毛がもふもふ、ふわふわに戻っていく至福の時。
「君で最後、よし、終わり!」
「アリガト」
最後のカラス君も乾き、自分の髪を拭いて、濡れた服の水分もタオルで吸った。この荒れ放題の泡のお風呂……テントを出ると一瞬で消えてしまうので、掃除をしなくていいから楽ちんだね。
「……ふわぁ、ねむっ」
濡れた服は明日、サタ様に乾かしてもらえばいいっか。着替えて、ベッドにボフンと倒れ込んだ。
❀
エルバがベッドに飛び込み、すぐに寝息が聞こえた。
先に寝ていたモコ鳥とアールはむくりと起きあがる。
「エルバは寝たのか?」
「はい、眠っております。疲れたのでしょう」
「ベッドに倒れて寝てしまうとは。すこし、遊び過ぎたか……」
自分とて、カラス達を使って人里に来るのは初めて。
エルバ、アールの魔力を借りながら操るカラスの後ろで、せっせと夕飯を作り。原っぱに降りてからもワタシ達に休めと言い、自分は動きっぱなしでカラスの心配までしていた。
――そんなエルバに、新鮮な肉を食べさせたかった。
「この場で狩りができぬとは残念。人里にきてエルバも緊張をしてるはずなのに……」
「僕達のことばかり気にして、働き過ぎですね」
「うむ。……そして、エルバをあの毒花に触れさせなくてよかった。ワタシの次に新魔王になった奴が、どのようなやつから知らないが。奴がエルバの存在を知り、出会えば特殊な魔力とその能力に惹かれる」
「ええ、僕のエルバ様に近寄せたくない。フフ、貴方もですよ、サタ様……泡風呂では決着がつきませんでしたがね」
いつになく挑戦的なアールに、サタナスはニヤリと笑う。
「クク、1番目の使い魔とは厄介。ワタシが1番になりたかった……アールには助けられた恩があるから遠慮していたが、泡風呂合戦では勝ちたかった」
「フフ、僕もまだまだサタ様には負けませんよ……しかし、本気を出したサタ様には勝てませんので、見た目の可愛さで甘えます」
アールがエルバのベッドに移動するのを見て、サタナスも移動して、エルバのそばに寄り添う。
「ふうっ、エルバの魔力は気持ちがいい」
「はい、とても温かく、優しい魔力です」
「知るのはワタシたちで十分だな、新魔王などに渡さぬ」
「ええ、渡しません」
モフモフ、モコモコの2人は優しい主人に癒されながら、目を瞑った。
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